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審査講評
新領域デザイン部門
部門長 黒川 玲 

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今年で3年目を迎えた「新領域デザイン部門」は、まさに「今というデザインとは」という問いかけをし続けている部門であり、今年度もデザインが新しい領域に拡大する現状を目の当たりにしたといえよう。

今回の特徴:即時代的
デザインという概念がモノのカタチを超えて、モノを生み出すための、あるいは新しい産業自体を生み出すためのシステム構築に始まり、企業や自治体、地域づくりの総合的なあり方の追求や、すべての基本となる「ひとづくり」のための試みに至るまで、「現代が抱えている課題」にどのように「解決策を見出し、さらにより良い方向性に発展させていくのか」という解決の「一つのあり方」が、この新領域デザイン部門の対象範囲になってきたといえる。言い換えるなら、一見「未来志向型」に見えるこの部門も、あくまでも「現実的=即時代的」であると再認識した。

審査概要
大賞候補にもなり、結果的に金賞を受賞した新日本製鐵(株)の「廃プラスチック再資源化プロジェクト」は、20世紀から引き継ぐ大きな課題であるプラスチック廃棄物問題およびCO2削減問題に対する解決方法の極めて優れた提示であった。特筆すべきは、課題を解決するにあたって「新規にすべてを創り出す」という思考ではなく、今まで培ってきた技術と「既存の装置」を組み合わせ、全く新しい成果を成し遂げたことにある。これによって、コークス炉があるところならどこでもこの技術が使えるため、「日本の環境技術」としてすでに海外へも輸出されている。この点も高く評価できよう。
ユニバーサルデザイン賞候補になった医療事故市民オンブズマン・メディオの「医療安全のユニバーサルデザイン」も、昨今様々な医療事故が増大しているという、まさに現実的な課題に対する解決策の一つであり、インタラクションデザイン賞候補にあげられた柴田崇徳の「メンタルコミットロボット・パロ」も、医療現場でのロボットによるセラピーへの応用である今日的課題に対するデザイン主導の解決策の一つであった。
上記のような即時代的=現実的なものが多かったなかで、(株)リコーの「市村自然塾(小学4年生から中学2年生までの青少年健全育成)」や、てつそん実行委員会の「てつそん(合同卒業制作展)」、「牡蛎の森を慕う会」など、小中学生の健全育成、次世代のデザイナー育成支援、地域の子供たちや住民の意識を育てる活動など、それぞれに視点やテーマの違いはあるとしても、「ひとを育てる」視点を明快に持ったものが目についた。これらは、「時間軸型」のものにデザインが主体的に関わっていこうとする提案であり、このような試みは、今後も引き続き多くなるのではないだろうか。新領域デザイン部門以外の枠も考慮していく必要があるかもしれない。
今回の募集にあたっては、大学や一次産業への参加呼びかけがなされたが、この領域では、一次産業が1件、大学からの参加が3件と少なく、今後に期待したい。そして特に大学参加のものには、もっと活き活きとした「夢」のあるものを期待したい。

審査のむずかしさ
この部門は一見「何でもあり」というジャンルを超えた部門でもあるので、審査委員の一人一人の「読み取り方=理解の仕方」が判断を進める上で大きなポイントとなる。したがって、審査にあたっては慎重に議論を重ね、「深読みしすぎない」よう特に注意した。これは、審査の「対象」をしっかり捉えているのか、意図を十分に理解しているのか、ということ以上に、応募者が意図していない価値まで見つけてしまっている、あるいは審査委員個人が創り出してしまってはならないという「むずかしさ」であり、新領域という「領域」の「あり得る領域」を求める作業でもあったと思う。

今後の課題
新領域デザイン部門は、時代のあり方や生活者のあり方に敏感に反応していく領域であるように思う。したがって、3年前2年前、そして、今年はこのような傾向のものが多かったからといって、来年度の新領域デザイン部門は「こうあるべき」というようなことは言えない。時代、産業、そして生活者が未来に向かって何を良しとし、何を望み、どのような夢を持つのかにより変化していくだろう。しかし、どのように変化していくとしても、人も環境も社会も「美しくありたい」という願いは変わらないと思うし、そう念じ続けたい。
そして、東京大学による手術室で使用するクリニックロボットのような技術の枠を駆使したものと、神奈川県と東京工業大学のコラボレートによる「モノの発芽」とも言えるほどのプリミティブな機能むき出しの災害救助用ジャッキのような、一見両極端にあるものの双方がともに、極限状況下での人間との関わりを追求している姿勢に、ある種の感動を覚える。
そして最後に、今回も多数あった産・官・学・民の共同をテーマにした地域づくりデザインの安易な取り組みは、再考の余地が多分にあると苦言を呈しておきたい。単に産と官と学と民を集めるだけではなく、また民の安易なデザイン参加など(行政にとっては民参加が一種のエクスキューズになっている)ではなく、どのような関わり方を構築しようとしているのか、そして誰がデザイン・マネージメントをしているのかという、しっかりとしたプロの視点の存在が問われなければならないと思う。