GDA2002 WINNERS 審査委員・審査講評 賞の構成 大賞 エコロジー賞 中小企業庁長官賞 ロングライフ賞
主催者あいさつ グッドデザイン賞 大賞選出過程 ユニバーサル賞 日商会頭賞 表彰式レポート
受賞結果速報 グッドデザインプレゼンテーション2002 金賞 インタラクション賞 審査委員特別賞 アンケート結果
審査講評
商品デザイン部門 審査ユニット8
ユニット長 蓮見 孝

略歴を見る

プレゼンテーションに表れたデザインの鮮度

あらゆる製品の中で、人々がもっともデザインにこだわるものの一つはパーソナルカーだろう。そこに、「乗用車等」を審査するユニット8の難しさがある。つねにシビアなコンペティションに曝されてきたために、どの製品もある程度のレベルには仕上がっているし、かたちは個人の好み次第という面も強いから優劣が付けにくい。
では、審査のポイントは何なのか。それは1人のユーザーであるとともに、製品のウラ・オモテを熟知している専門家でもある審査委員が、双方の視点からバランスよく評価し、「決して後悔しないモノ」を厳正に選び出すところにある。評価の視点は多様だが、中でも「生活に夢をもたらしてくれる素敵な“連れあい”かどうか」という基準で見ることが必要であろう。クルマは、個人にとっては相当額の投資であるし、償却期間も長い。何よりも人間の根元的欲求である“自由な移動”を保証してくれる素晴らしい道具であるとともに、個々人の“その人らしさ”を社会にはっきりと表徴する顔ともなるし、ひいては国土の風景をも一変させてしまうという、華にも毒にもなり得る道具だからである。
今年から、審査の基準として、「デザイナーによるプレゼンテーション」をより積極的に導入することにした。デザインは、開発の最源流にあり、もっとも高度でアブダクティブ(≒ひらめき的)な思考行為だから、製品が夢を叶えてくれるレベルにあるかどうかは、何よりもデザイナーの夢やスピリットの高さにかかっているはずである。もしそれが、マーケティングの言いなりとか、スタイリングの遊びだけに留まっているとしたら、“湧水の時点から濁っている川”とも思わざるを得ない。各企業の協力をもらい、公開で8社、非公開で9社のプレゼンテーションを受けることができた。BMWはアドバンスデザイン担当の副社長が、ドイツから駆けつけてくれた。印象的だったのは、ある自動車会社のデザイナーのプレゼンテーションが終わった時のことだった。審査委員の一人が立ち上がって、「ブラボ〜!」というようなニュアンスのエールを送ったのである。プレゼンの技術的なレベルを超えて、デザイナーの率直な思いが、ダイレクトに伝わってきたからである。反面で、会社の製品紹介に終始したり、メモをボソボソと棒読みするデザイナーもいて、ウラ寒い思いも禁じ得なかった。
デザイナーと審査委員が交流し合うプレゼンテーションは、“製品との対峙”に限定されてきた今までの審査と比べると、生き生きとした元気を審査委員にもたらしてくれる効果もあったようだ。つまり命あるもの同士で、議論が相乗的に盛り上がったのである。Gマークが、選定制度という堅苦しい殻を脱いで、領域を越えたデザインとデザイナーのアニュアルな交流ロビーとして定着しつつあるという実感を得ることができた。
さて、そのように活発な審査の俎上に最後まで踏みとどまり、金賞の栄誉を勝ちとったのは「ダイハツ・コペン」だった。1991年のモーターショーで「オプティ」の原型ともなった「X-409」を発表して以来、その独特のシルエットを一貫して洗練させてきた時間軸のマネージメントや、エキスパートセンターと呼ばれる高度技能者による専用ラインの設置など、デザイン品質を高めようとする真摯なスタディが実践されている。「日本で生まれ育った軽自動車のメーカーであることに誇りを持ちたい」「軽だからというエクスキューズは、決してしない」というような骨のある決意とともに、ダイハツの製品ラインアップの質が、近年総合的に高くなって来ていることも高く評価した。この狭い日本の国土の中に、いつの間にか競い合うように異常増殖した巨大なワンボックスカー群のなかで、避けて通ることのできない環境の時代のクルマを目指すデザインの発芽が見られたのである。
環境という点では、横浜ゴムの「エコタイヤDNA」が、エコロジーデザイン賞に選ばれたことを特記しておきたい。シリカを混合する新技術の開発・導入により燃費低減が図れるエコタイヤを、思い切ってラインアップとして設定した決断が、大きな環境負荷の低減につながると判断した。
自動車関連製品での白眉は、パナソニックのカーオーディオ「CQ-TX5500」である。真空管を用いて音質を高めると共に、高品位なフェイスが、自動車のインスツルメントに新たな楽しみとかたちを生み出す可能性を感じさせた。一年程度しか保たない真空管の使用は賛否が分かれるところでもあるのだが。
カーナビゲーションについては、CD-ROMやHDD、また携帯電話を用いた通信型など次々と新技術が生まれせめぎ合う転換期にあり、特に審査が難しかった。コンセプトが明快で特徴的な製品であり、なおかつ総合的なデザイン品質に優れたものを合格とするようにした。
最後に金賞候補選定の裏話をしておきたい。金賞候補は、この審査ユニットを担当する5人の委員全員がグッドデザイン賞にふさわしいとした15点の中から選出することにした。その中からさらに、ダイハツ工業「コペン」、フォルクスワーゲン「ポロ」、BMW「ミニ」、本田技研工業「モビリオ」、BMW「 7シリーズ」、三菱自動車工業「コルト」、松下電器産業「パナソニックCQ-TX5500」、ダイムラー・クライスラー「メルセデス・ベンツEクラス」、ランドローバー「レンジローバー」の9点に絞り、最終的に満票を得たコペンを金賞候補に選んだ。グッドデザインプレゼンテーションの来場者人気投票でトップだった日産自動車「フェアレディZ」が金賞候補に含まれなかったことは、議論の対象にすべきかもしれない。このような一般の評価とのズレをどう考えるべきかは、情報公開や双方向の交流性を年々高めているGマークの新たな課題でもあるだろう。おそらく一般ユーザーの評価は、販売台数に反映されていくだろう。しかし、それだけでデザインの優劣を決めようとするのは、デザイナーの創造への意欲やチャレンジ・スピリットを守る上からも危険なことである。Gマークの募集要項にも明示されているが、Gマークの審査は、「よいデザイン」「優れたデザイン」「未来を拓くデザイン」という3階層の基準で行うことになっている。特に金賞は、「優れたデザイン」「未来を拓くデザイン」という上位の2階層において傑出したものを持つエクセレント・デザインでなければならない。Gマークには、グッドデザインという概念の社会への波及性や、将来のよき指標となる芽を持ったデザインを注意深く選び出し、そこにスポットライトを当てていくという社会的な使命が求められているのである。