GDA2002 WINNERS 審査委員・審査講評 賞の構成 大賞 エコロジー賞 中小企業庁長官賞 ロングライフ賞
主催者あいさつ グッドデザイン賞 大賞選出過程 ユニバーサル賞 日商会頭賞 表彰式レポート
受賞結果速報 グッドデザインプレゼンテーション2002 金賞 インタラクション賞 審査委員特別賞 アンケート結果
審査講評
商品デザイン部門 審査ユニット3
ユニット長 安次富 隆

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今年は、定型化された機能と形態の刷新を試みた意欲的なデザインが多かった。特に携帯電話/PHSでの変化が大きい。UVコーティングされたフルフェイスウインドウでまとまりのあるスタイリングを追求した三菱電機「J-D06 graphica」、ステレオスピーカー内蔵を強調した京セラ「TU-KA TK21」、ダブルヒンジによって横位置画面を実現し、カメラ付携帯の新しい操作スタイルを提案した松下通信工業「ドコモ フォーマP2102V」など、応募者それぞれが独自の機能と形態を披露し、これまでの類似性が払拭されている。中でも京セラの3種の携帯電話(薄さを強調した「auA1012K」、レンズ付き携帯「au1013K」、ステレオスピーカー内蔵の「TU-KA TK21」)は、それぞれの目的に応じた設計に挑戦しており、表層的なデザイン変更で対応しがちなバリエーション展開に一石を投じている。
デジタルカメラでは、超小型ビデオカメラを思わせる「Panasonic SV-AV10」やカードサイズのカシオ 「EXILIM」が、物理的な駆動部品を必要としないデジタルの特徴を活かした新しいカタチを提示した。特に「EXILIM」は、88×55×11.3mm(EX-M1/M2 : 12.4mm)というサイズにも関わらず、操作性を損なっておらず完成度が高い。「常時携帯しメモ感覚で撮影できるカメラ」という明快な目標、その目標に焦点を絞った素直な機能と造形、目標を達成するための操作性への配慮や高い技術力が破綻なく集約されている。「EXILIM」のような限界値の探究は、デザインの自由度を高める効果がある。
ソフトウェアでは、デジタルステージの「ライフ・ウィズ・フォトシネマ」が、デジタル画像の新しい楽しみ方、見せ方を提示した。デジタルカメラで撮影した画像から簡単な操作で映画の予告編のような映像を作れる。音楽を聴きながら直感的に写真を選んでいくだけで、プロのクリエイターが制作したようなイメージ映像を作成できるインターフェイスが秀逸だ。特定の専門家が有していたデザイン技術の解放は、刺激的な創造連鎖が生まれる可能性を秘めている。
他にも、A4サイズの文書も自動的にA7に縮小印刷できるモバイルプリンタ、ブラザー「MW-100」や、クリップで用紙を挟み、専用のペンで書いた文字をダイレクトにPCに入力できるエフ・イー・シー「AREA」などは、PCの用途幅の拡大を模索し、ソニー「バイオPCV-W101」は、キーボード一体型デスクトップパソコンという新しいジャンルを発想している。中には機能と形態のアンバランスを感じるデザインもあったが、今年のようにデザインの定型化や表層のみの変化を嫌い、内的変化を志向するデザインの増加は、新技術や新市場を開拓すると同時に、今後のデザインや産業全体を活性化するだろう。
その一方で今後解決を望みたい課題もある。たとえば、ディスプレイで上下表示されるボリュームを左右キーで調整したり、回転するメニューを十字キーで選択しなければならないといった、身体感覚に合わないインターフェイスが多い。これらは、ソフトウェアとハードウェアのデザイナー間のディスコミュニケーションの結果生じたものと考えられる。新しい提案ほど、基本的な操作性を損なわないよう注意が必要だろう。また、社会問題になっているカメラ付携帯電話による盗撮に対しては、京セラ「au1013K」や松下通信の「ドコモ フォーマP2102V」などのようにレンズカバーを付けるなど、撮影行為がまわりに伝わるような解決策を望みたい。

審査は4人の審査委員が各々の専門分野からの視点で商品を確認、討議を行い評価した。そのため、審美性のような主観的、抽象的な審査基準より、操作性などの客観的討議が可能な基準に重点を置いた。操作方法や応募者のデザイン意図を理解するため、マニュアルや応募資料の熟読、既に販売されている機種の動作確認などの他、店頭で動作確認できない携帯電話は、応募者に実機をお借りし、事前プレゼンテーションまで行ってもらい、本審査における誤解やミスの軽減に努めた。中でも応募者のデザイン意図を尊重したいと考えているが、応募資料のデザインのポイントや評価を求めたいポイントに、「わかりやすさ、使い易さを実現」といった抽象的なコメントが多いことが気になっている。「何によってわかりやすさや使い易さを実現したといえるのか」といった具体的で客観的な説明があると、より的確な評価が可能になるだろう。
インパクトのあるスタイリングだけでなく、操作性、厳しい製造コスト、環境問題への配慮などをクリアし、大勢の専門分化された担当者達が力を合わせなければならない当ユニットの商品群に課せられるハードルは非常に高い。このような条件下で、リスクを伴う挑戦的デザインが多かったことを高く評価している。結果として、カシオ「EXILIM」とデジタルステージの「ライフ・ウィズ・フォトシネマ」が金賞を受賞し、揃ってベスト6の大賞候補に選ばれた。この結果は、独自性を追求し完成されたデザインは社会的真価を得られることを示し、今後の商品開発へ新たな活力を与えてくれたと言えよう。