今年度は建築・環境デザイン部門の審査対象126点のうち、受賞率44.4%となる56点が受賞した。今年から工業化住宅や個別に設計された戸建住宅も含まれることになり、審査対象は建築全般からランドスケープやサイン計画にまで拡大された。評価にあたっては建築や環境そのものだけではなく、ハードやソフトを含めた創造行為としての広義のデザインを評価することを心がけた。次の時代に向けた、社会を切り拓いていくデザインの力に期待してのことである。
Gマークにおける建築の取り扱いの歴史を見ると、時代とともに審査対象の枠組みは拡大し、評価基準も変化してきている。
商品部門時代は、住宅設備部門の一部として建築は工業化住宅のみが登場し、商品としての質が評価されてきた。施設部門時代は産業施設から始まり、回を重ねるごとに公共施設や個人住宅以外の居住施設にまで対象を広げてきた。評価にあたっては施設としての機能性、人にとっての快適性、その施設の社会性を評価してきたわけである。
こうした流れを踏まえた上で、建築・環境デザイン部門という枠組みを得た現在では、建築や環境を、そこに関わる不特定多数の人々の視点から再考してみる必要がある。実際にうまくパフォーマンスするのか、社会ストックになりうる建築あるいは環境であるかが問われてくる。また、社会の変化に対応してデザインが建築および環境の新たな可能性を切り拓いて行くことも大切である。
デザインの力に期待と責任を込めて、建築ではなくアーキテクチャルデザインを、環境ではなく環境デザインの評価を行なったわけである。

せんだいメディアテーク──ハードとソフトの統合化
せんだいメディアテークは斬新かつ画期的な建築である。建築のハードの面からみると、従来からの柱や梁という構造要素が姿を消し、代わって構造であり設備スペースでもある「チューブ」構造と「プレート」状の床が構成する全く新しい空間がつくり出されている。
またアートギャラリー、図書館、視聴覚障害者サービスセンター、映像メディアセンターなど、別々の公共施設として建設され、運営されていた施設を一つに統合している点も注目される。旧弊な制度上の壁を乗り越え、文化施設としての統合を目指す画期的な施設である。
箱物行政が批判されるなか、せんだいメディアテークでは、運営のソフトの計画にも多大な努力が払われている点も特筆に価する。ソフトに裏付けられた多彩な活動と、それを誘発し抱擁しうるフレキシブルな建築空間とを巧みに統合したデザインの力に賛歌を贈りたい。

大江戸線選抜駅──都市施設と土木・建築の総合化
都営地下鉄大江戸線選抜駅は、都市施設としての地下鉄駅舎の新しい姿を提示している。コンペで選ばれた建築家が、既存の街の個々の特性を尊重した設計を行なっているだけでなく、少ない予算と地下深く狭いトンネル状のホーム空間という悪条件をデザイン的努力で克服し、快適な駅舎が実現されている。
土木と建築を総合的にプロデュースして、既存の街や利用者にとって重要なインターフェイスとして駅舎をデザインしており、今後の都市施設のあり方を示す好例として評価した。

新しい時代の空気──ライフスタイルを指し示すデザイン
今年度の応募対象のなかには、カジュアルで自由な新しい時代の価値観を共有する一群の作品を見出すことができた。
若手建築家による住宅には、こうした価値観を感じさせる個人的生活と空間の新たな展開が現れており、それが民間のビルや公共の建築にまで及んでいることも興味深かった。
ファッションの世界でも相変わらず高級ブランドが幅を効かすなか、無印良品やユニクロといった安価でカジュアルな物も伸びてきている。
建築や環境においては、近代以降の制度や作法に向けて機能を具現化したフォーマルウエアのようなものや、バブル時代の高級感と個性をデザイン的に訴求するブランド品のようなものもある。しかし、明らかにそれらとは異なる価値観に裏打ちされたものが登場してきているのである。気楽な雰囲気と自由な行動を許容する空間を備えた建築や環境は、新しい時代の空気を呼吸する人々の共感を呼び、支持されつつある。
こうしたデザインが新しいライフスタイルを顕在化させるとともに、さらに強力に牽引していくことに期待したい。