審査概要
このユニットは、時計や眼鏡、カバンや靴、文房具や理美容機器など、個人が日常的に使う商品を扱う。多種多様な細かい商品の多さが、このユニットの特徴である。
今回の応募総数は199点。そのうち1次審査を通過し、2次審査に残った171点に対し現物審査が行われ、103点がグッドデザインを受賞した。これはこのユニットの応募総数の51.8%にあたる。
今回のグッドデザイン応募対象全体に言えることだが、このユニットの商品群も全般的に水準が高く、結果的に高い受賞率となった。とはいえ、非常に幅広い商品アイテムと大小さまざまな企業からの応募が集まるため、商品としての、あるいはデザインの面での完成度にはかなりのばらつきが見られる。時計や眼鏡のように成熟しきった商品分野がある一方、福祉関連商品分野などはまだまだ発展途上であるし、アイデア商品の域を出ないものも少なくない。
しかし、近年の傾向として、いわゆるアイデア商品が福祉や健康などの社会的なテーマと結びついた独自の発展を見せつつあり、こうした試みが指し示す将来の可能性を見逃さないよう、慎重に審査を進めた。
さまざまなアイテムが混在するこのユニットは、審査基準を一本化することが難しい分野である。1本100円のボールペンから何十万円もする時計まで、価格的にも幅が広い。審査委員は、化粧品のボトルのようにイメージに対する評価が先行するものから、電動車椅子のように機能的な評価に重点を置くべきものまで横並びで見なければならない。
そこで、今回、我々が特に気をつけたのは、とかく評価の軸がブレて恣意的になりがちな審査を、可能な限り客観的で多角的な視点を保ちながら行うことであった。100円には100円なりの、10万円には10万円なりの価値があるはずであり、装飾的、趣味的な製品にも機能性があり、反対に機能が第一義的な製品でも商品としての好ましいイメージは備えていなければならないはずである。
こうした普遍的な価値と個別的な価値のバランスを検討しながら評価するために、審査委員はひとつひとつの商品について議論を重ねた。
また、応募者の意図を汲み取ることにも注意を払った。「評価を求めるポイント」を応募書類から読み取ることは審査の的を絞るための重要な作業であり、その内容が判断基準として役立った。審査委員は個々の商品のデザインが好きか嫌いかを問われているのではなく、応募者側にあらかじめ思惑があって、その思惑自体が妥当であるかどうか、妥当だとすればその思惑に沿ったデザインが実現されているかどうか、といった点について専門的な判断を求められている。その点を審査委員相互が認識し、共有することに心がけた。

デザインの評価
個別の商品では、まず眼鏡が点数も多く内容的にも充実していた。なかでも増永眼鏡がオーザックデザインとともに開発した一連のコレクションが質量ともに圧巻であった。これらは長年にわたる両者の協力関係の成果であり、このうちの1点が中小企業庁長官特別賞を獲得した。また、長谷川眼鏡の「エアースペックス」はおとなしいデザインながらも、素材使いの素直さと素朴さが審査委員の共感を集めた。ミクリ ジャポンの「リベリュール」は折りたたみ機構の動きのユニークさが、COTTETの「oga」は弦に木を使ったスカンジナビアらしいデザインが評価された。
カバン類も多数の応募があったが、その多くが空気緩衝材とナイロン系素材の組み合わせもしくはABSのハードケースであるなか、エースの「Samsonite by STARCK」 シリーズはエレガントな布製バッグにチャレンジしたことで注目された。
文房具では、パイロットの特殊水性ゲルを使ったボールペンやマーカーの独特の書き味が話題になったくらいで特に新しい提案は少なかった。わが国の文房具は、今や立派な国際商品であるが、その品質の高さの割には、色使いやグラフィック表現の質がなかなか高くならないのはなぜだろうか。
このユニットでも時代の傾向を反映して高齢者を対象とした商品開発が盛んであり、その種類も補聴器から車椅子までさまざまである。アサヒコーポレーションの「快歩主義」は脱ぎ履きしやすく歩きやすい機能重視のデザインでありながら、ファッション性にも気を配っている点で高く評価された。一方、縫工が夜間の交通安全のために開発した、再帰反射材を縫い込んだカバンや帽子は、アイデアとしては優れているもののファッションアイテムとしての完成度は十分とはいえず、残念ながら受賞には至らなかった。高齢者を対象としたデザインの難しさをつくづく考えさせられる。
福祉の観点に立ったソリューションでは、北計工業の携帯型色認識装置「カラートーク」が秀逸であった。どんなものでもこの装置で触れると、その表面の色を220通りに識別し音声で伝える。視覚障害者は身の回りの色が見えない分、実はかえって色使いに気を使いながら生活しているという事実に気づかないと生まれない商品である。デザイン的にはまだ課題を残しているものの、その卓抜なアイデアと傑出した技術で本年度のインタラクションデザイン賞を受賞した。
パーソナルユースの分野は、身の回りのこまごまとした商品が対象であり、このジャンルのデザインの充実と質の向上が日常生活の豊かさに直接結びつくといえる。この分野がまっとうなものづくりと、楽しい企画の両方を兼ね備えたデザインで満たされることを期待したい。