Good Design Award Good Design Award
Good Design Award 2004
Menu page
2004 Outline
Award
Etc.
Outline
審査委員/審査講評

グッドデザイン賞審査委員長

喜多俊之

略歴を見る

グッドデザイン賞は今回で48回目となった。この制度が産声を上げた頃の日本は、高度成長時代の幕開けと同時に、輸出立国としての地位を得始めていた時でもあった。急成長の一方では、世界中からいわゆる輸出品のデザインに対する模倣問題で、対外的にも非難を浴びていた一面もあった。しかし、日本独自のものづくりと心豊かな暮らしの向上を目指して、離陸が始まった。それから半世紀近く経ち、状況は激変した。もはや、国際的に日本製品が置かれている立場は、オリジナル製品をつくっていかなければ世界マーケットにおける席はない、というくらいに変化しつつあるのが現状である。
輸出立国である日本が、近年になってこれからどのようにしていけばいいのかという模索を大企業から中小企業に至るまで、多くのグローバル化を目指す企業が進め始めて、徐々にその成果が明確になってきている。単に機能の追求や、低価格、そしてデータを集めただけの製品開発よりも、さらに感性の高いものが要求されているマーケットに対応して、ブランドイメージの確立に向おうとする動きが出始めている。
現在、デザインがより広い意味を持ち、社会全体に影響を与えるようになって、その内容も変化している。
国際社会においては、デザインを国家事業として扱う国が増えている。イギリスやフランス・スウェーデン・フィンランドなどヨーロッパの多くの国がそうであるし、さらにアジアでは中国が、デザインをこれまでの「設計」という言葉だけでくくるにとどまらず、「新資源」という位置付けをしている。さらに韓国やタイ・シンガポールなどアジアの国々も次々と国家事業として、大きな産業のインフラとしてのデザインの振興を進めている。暮らしの現場こそ良いデザイン、オリジナルデザインを生む土壌である。このように、知的産業としてのデザインが暮らしと産業、経済の一つの大きなキーワードとして、世界中で扱われ始めた中で、Gマークの50年近くに及ぶ実績が持つ意味は、極めて注目すべきものがあるといえる。
今年度、グッドデザイン賞への応募は、昨年より大幅な増加をみた。高度な機能、高齢化に配慮した製品、住宅や空間、環境への提案、バイオテクノロジーやナノテクノロジー、メディアからの提案なども多く、デザインが広範囲に、より深く考えられ、進化していることがうかがえた。青い色のバラ、膨大な可能性を持ったゴマ粒より小さなICチップなど、今後どこまで進化し、私たちの生活や産業にどんな力を与えてくれるのか興味深い。デザインという言葉が、機能性や形や色などにとどまらず、高品質、ハイテクノロジー、ハイセンス、そして多くの要素を組み込んだ広い意味を持つ言葉となって解釈されるようになっている。
こういった状況を踏まえて、今年度の審査で注目されたのは、オリジナル性の高い製品であった。似たようなものであれば価格競争しかなく、アジアや他の国々に追い付かない。テクノロジーだけでなく、大切なのは「ハイセンス」ということ、それを掲げた製品が輸出立国としての大きな資源として扱われると考えられる。
これまで「日本製品はたくさんあるが顔が見えない」と言われる傾向があった。しかし今回の応募製品の中には、世界に向かうこれからの製品として、いままで世界になかった、日本のアイデンティティをしっかりと踏襲していたものや、その可能性を持った製品が数多く見られた。
今年度のグッドデザイン大賞は、昨年と同じく表彰式の会場で投票により決定された。6点の候補の中から、受賞者と審査委員、審議委員による投票の結果、松下電器産業のデジタルオーディオプレーヤーとNHK教育テレビの『ドレミノテレビ』『にほんごであそぼ』の決戦を経て、『ドレミノテレビ』『にほんごであそぼ』がグランプリを獲得した。テレビメディアが家庭に普及して、人々の生活の中にしっかり組み込まれている中で、子どもを対象とした番組に支持が集まったのは、内容のあるセンスの良い番組作りに対する期待の現れであった。また、教育という大きな問題に注目する時代の必然とも受け取れる。24時間、常に私たちの家庭に届けられるテレビ番組やコマーシャルが暮らしと文化に与える影響は、日常生活における知識やマナー、センスに対して計り知れない影響があると考えられる。使い良い日用品や電化製品、車などと同様、暮らしの中で人々に触れている機会が多いテレビ番組への関心の高さを示している。
製品や建築施設とは異なった、いわば形の捉えにくいものが初めてグランプリとなったことからか、一瞬審査会場にどよめきが起こったのが印象的であった。グッドデザイン賞にコミュニケーションデザイン部門が設けられて以来、いつか現実になることであったが、このグランプリが決定したことで、ハードとソフト、そして新分野のコンセプトに対するデザイン評価のあり方もますます人々の関心の対象となるだろう。
今年度は特に時代性を反映して、応募製品の中に携帯電話やデジタル家電製品、集合住宅などが多く見られたが、サイクルの早い製品と、そうでないものでは、デザインの基本コンセプトや評価基準も異なる場合が多い。さらに世界市場での占有率の高い製品や、開発に多大な投資を伴う自動車などは、グッドデザイン賞の結果がより世界マーケットと直結しているとも考えられる。数多くの応募製品の並ぶ広い会場、各分野の審査は本当に責任の重い大変な作業である。それぞれの製品には、それを作り上げた人達や企業の思いが込められている。マーケットの変化や、サイクルのスピードなど、今後より大型化する傾向が見られる中で、これからのグッドデザイン賞のあり方や急速に進む市場のグローバル化への対応など、多方面において今後のテーマが見え始めたことも注目される。
それと同時に、世界の国々のクリエイティブハブとしての動きや、台頭してくるアジアデザインのパワーが気になるところである。グッドデザイン賞が一つの引き金となって、各企業の商品開発のあり方、次の時代のクリエイターの育て方、そして生活文化、地球環境等、広い次元に至るまで問題提起するものが数多く見られた。8月に行われた「デザイン・イニシアチブ」の展示では、企業などのインスタレーションが行われ、そこでのプレゼンテーションを通じてあらためて企業の顔を認識することができた。デザイン系大学の学生たちの活動を伝える空間、力作を紹介するコーナーでのモックアップやビジュアルを使ってのプレゼンテーションにも、多くの来場者からの注目が集まり、次世代の新製品への可能性を掻き立ててくれた。
デザインという言葉が、多くの要素を包括する言葉へと解釈され、世界の国々の発展、人びとの暮らしの発展にとって極めて重要な言葉として浮上し、新しい段階に入ってきた。そうした中で今回のGマークが活況を見せたことは、これからの明るい兆しと受け取ることができる。

 

ページのトップにもどる