毎年ヨーロッパの人気インテリア・フェアを視察していると、このところの「デザイン」の元気さは、実は産業内部の空洞化を示しているのではないかという疑念が湧いてくる。一般家具はもちろんのこと、システムキッチンなどももはや成熟産業となってしまって、ファッション的な華麗さを競い合っているだけのように見えてしまうのだ。その中で新製品が投入され、わずかに産業見本市としての役割を欧米で担いつつあるのは浴室周り、欧米的生活で今まで立ち遅れてきたバス・トイレ関連だという印象を持った。
[健康への関心]グローバルに進行する消費トレンドの中で、ハリウッドのセレブリティに代表される健康志向が、今やメイン・ストリームとなっている。疲れを癒すバス・ライフとして、フィンランドの「SAUNA」に次いで「ONSEN」というコトバが浸透し始めている。遠くない将来、世界で日本のフロ文化が再認識され、欧米でも洗い場を設けたバス・ユニットが人気を得るのではないかと思う。すでに温水洗浄便座は、アメリカでビデ・トイレとして徐々に浸透しており、より一層の普及が期待されている。そういった流れの中で、東陶機器(株)が今年発表してきたコンパクトな操作用リモコンは、世界発信を視野に入れて開発されたものだ。
[ナノテクノロジー]日本が世界のサイエンス分野で優位に立っているナノテクノロジーが、住宅設備においても技術として生かされている。衛生陶器の分野で防汚性は最重要課題だが、陶器表面を100万分の1mmのナノレベルで超平滑にして、トイレを清潔で手入れしやすくしたものが出てきている。外壁用タイルでは、光触媒によるセルフ・クリーニング効果を持ったもの、ナノサイズの水膜をタイルの表面に形成させて防汚性を発揮するものなどが有力だ。また今まで「手洗いの方がきれいに洗える」と思われがちだった食器洗い機には、濃縮洗剤を超音波でミスト化し、そのミストの内圧を利用することで高い洗浄力を得た製品が登場した。「汚れはがし」というネーミングもさることながら、店頭実演で効果を実際に示して、ユーザーの不信感を払拭することに成功している。
[日本からグローバルスタンダードを]バス、トイレ、台所家電、エアコン、照明・・・日本の技術力に裏打ちされて、その気になれば世界市場で強い競争力を持つ製品は数多い。今までは流通網の整備などで及び腰となっていた日本のメーカーも、まずは隣国中国での成功をバネに世界に打って出る戦略を持ち始めたのではないだろうか。設備だけではない。近年建築構造材にアルミ合金が使用認可されたように、家具や建材でもさまざまなアルミ製品が開発されている。階段がパーツ化やキット化されて量産型階段として出てきているが、いずれも構造をシンプルに反映した意匠性が高く、世界の建築のレベルに引けを取らない。一貫して欧米の後塵を拝してきたインテリア空間で、日本から世界に出ていく製品やプランがあることを想像するのはとても楽しい。 |