この審査ユニットは、食卓の食器類や調理機具、生活家電にいたる幅広い商品群から構成され、身近で生活に溶け込んだ商品が特徴である。伝統工芸を基盤とした小規模量産品から家電製品にみる大規模量産品まで生産体制の違いと流通規模の違いが同居するユニットのため、審査は「良いデザインであるか」を基準に進められた。
昨年に比べ全体のデザインレベルは向上しており、他の審査ユニットと比較しても商品としての質は高く、日本のプロダクトを代表する感がある。審査委員はすべての商品を実際に手にして使い勝手を確かめ、通電可能な生活家電はできるかぎり操作性の確認を行なった。その結果、気になるいくつかの問題点を指摘することでこのユニットの講評としたい。
今年度は調理関連にデザインの力で解決した商品が多く、代表的な3点をここに紹介する。
旭化成ライフ&リビング(株)の合成樹脂ふたつき耐熱保存容器「ジップロックコンテナー」は廉価でありながら、冷凍保存から電子レンジ加熱まで一つの容器で行え、日本の食生活を変えるほどの影響力がある。冷蔵庫内にあっても内容物の視認性は高く、目的のものをすぐに探せる効果があり、うっかり保存も減ることと思われる。ハリオグラス(株)の耐熱ガラス製保存容器「ピタッとレンジ角」は本体の超薄肉成形とふたの嵌合は絶妙のシール感があり、高機能を単純な構造で実現する設計力と成形技術の高さを示した逸品である。オクソーインターナショナルの「OXO(オクソー)グッドグリップス
アングルドメジャーカップ」は、腰をかがめずに上から覗き込むことで一目で計量できるメジャーカップ。高齢社会にはありがたい商品と言える。まさにデザインの力で解決した事例として評価したい。
この優れた小物に対し、気になるのが生活家電の分野である。あまりにも横並びデザインが多すぎる。メーカーによる商品の差別化は見い出しにくく、おのずと細部の表現や仕上げに眼が移る。
一時のスケルトンブームが終わり、次は光沢メッキによる高級感、今度は青色LEDの氾濫である。夜中のリビングや寝室、キッチンを想像して頂きたい。青く光るLED表示の数々、感情のない電子音が無人の空間に鳴り響くことを。青色LEDを否定しているのではなく、行過ぎた表現方法に問題がある。
同様のことを冷蔵庫の庫内に言える。ガラス色調のプラスチック棚は庫内照明の影響もあって、保存食品が美しく見えないのはなぜだろうか。もちろん店頭における差別化の表現手段と理解はするものの、追従するメーカーの存在が気になる。調理する主婦にとって庫内は単なる保管場所ではなく作品棚と同じ価値を持つことを理解してほしい。やはり、冷蔵庫や洗濯機は他の生活家電と比べ住宅設備機器としての位置付けが強く、使用頻度の高い家電製品である。ゆえに、店頭効果で競うのではなく、機器の持つ本来の機能追求で競っていただきたい。
このようにデザインの同質化は、店頭での差別化が薄れ、消費者にとっては選択肢が狭まれることを意味する。これは、店頭において価格競争の誘発を意味し、結果的には市場の衰退に繋がる。
本当に永く使える家電がなぜ生まれないのか? そろそろ、消費されるデザインと決別すべき時ではないのだろうか。アジア各国でデザイン施策が進められるなか、日本の役割を改めて考えると、そこには消費されるデザインは必要なくなる。本当の意味で「未来を拓くデザイン」が現われることに期待したい。それが日本ブランドに繋がるものと信じている。 |