今回のGマークの審査では、小さな企業の頑張りと大きな企業の着実な仕事が目に付いた。
後者をひとつふたつ取り上げれば、資生堂がある。古くからパッケージを主体としたデザインの重要性に着目し、数十年におよび一級の仕事をしてきた自信が見え隠れしている。またセイコーウオッチ(株)の腕時計「WIRED
XYZ」は自分たちの仕事を再び見つめ、海外の流れとは一線を画した、日本の時計産業のリーダーとしてのプライドを示していたように思える。
個々の対象では今回金賞を受賞した耳かけ形デジタル補聴器「リサウンド・エア60」は、補聴器の一番の課題である重量感と存在感を徹底的に改革した。機能的にはこもり感の解消、反射、高機能性を追求しており、外と耳の中を開放的に繋ぐオープンエア設計、耳の中での反射を考慮した独自の特殊耳せんと最新デジタル信号処理技術を併せた設計をしている。それにより従来の閉塞感を解消し、快適に長時間使用できるようになっている。たとえば食事の時の「モノを噛む音」や「飲み物を飲む音」も不快な音にならず、心地よく食事がとれるようになっている。そして「補聴器を使用していることを他人に気づかれたくない」というユーザーの意識を反映させ、超小型本体と透明で極細なエアチューブを使用することで、耳に掛ける形でありながら、耳の穴に装着するタイプの物より目立たなくなっている。視覚デザイン的にも過不足のない形でまとまっている。カラーのバリエーションにおいても白髪の状態にも合わせやすいものがそろっていて、なかなかの優れものだと思う。
もう一点は中小企業庁長官特別賞を受賞した(株)犬印本舗の産後リフォーム下着、マタニテー腰部保護プロテクター、妊婦帯などの一連の商品群は、この世界でありがちなデザインが未消化な商品とは異なり、機能面、デザイン性も素直で見ていて気持ちのよい作りに仕上げられている。従来の妊婦帯というスタイル、デザインから脱却していて新しいスタイルを提案している。何よりもマタニティのイメージを明るく軽くしているのはうれしいことである。デザイン、価格ともによく考えられている商品である。
一点、今回特別賞受賞を逃したがつけ加えて取り上げたい仕事がある。HOYA(株)のビジョンケアカンパニーの眼鏡用両面複合累進設計レンズ「HOYALUX
iD」である。このレンズは全く新しい「両面複合累進設計」を世界で初めて採用した画期的なレンズである。レンズ表面を複合的に活用することで、遠くから近くまでのクリアな視界を広げるとともに、従来レンズより揺れや歪みを大幅に改善している。※参考(「累進」とはレンズの度数変化のことで、一枚のレンズで遠くから近くまでを見るために設計された、境目のないレンズのことを「累進屈折力レンズ」とよぶ。)これまでの片面累進(表か裏のいずれかに累進作用を持たせた累進レンズ)での限界を越えるために、レンズの両面を使って累進の効果を出すという「両面複合累進設計」という仕組みになっている。それにより眼からの距離の異なるレンズの表面と裏面との役割分担を変えることで、従来のレンズ設計の「クリアに見える範囲を広げるとともに、揺れや歪みも滅ぼす」という論理に矛盾する課題を解決できている優れものである。
今回受賞にいたらなかった審査対象のなかにも、可能性を秘めている商品がたくさんあった。落胆することなく次回にいい仕事を見せてほしいと期待している。 |