■ジャンル別講評
業務用コンピュータ、システムおよび関連商品[受賞対象を見る]
サーバー・コンピュータのデザインは、どうやらある種の袋小路に入っているようである。かつては機能本意の無骨なコンピュータ・ラックが主体であったが、元々高額商品群なので、営業上必要であるとなれば、デザインにコストをかけることは可能であった。従って、90年代半ばから市場でコンピュータ・ルームのインテリアが重視されるようになると、サーバー・コンピュータのデザインは、にわかに活気づいた。さまざまなデザイン上の試みがなされ、シリーズ全体に一貫したテーマと色彩計画を持ち込み、Gマークの金賞を受賞した商品なども登場した。今年度の審査対象となった商品群を見る限り、そうしたシリーズ化はすでに一般的なものとなった。そこでは、オフィスの好ましい景観などという概念はすでに形骸化し、印象的な「スタイル」を各社が競っているように見える。しかも残念なことに、どの製品も表面的なスタイルに終始し、デザイン上の新しい手がかりを見つけることができていない。かつてのクレイ・コンピュータやコネクション・マシンなどが切り開いたテクノロジードリームの復権が待ち望まれる。
医療機器・設備[受賞対象を見る]
医療機器、設備のデザインについては、医療現場の色彩計画について問題を提起したい。 色彩は歴史的にも識別性の高いシグナルとして使用されてきた。形状の差異を設けることが難しい商品群では、色彩が有効な識別要素であることは間違いない。本年度応募商品においても、点滴用のパック、シリンジ、容器、あるいは装置のスイッチ類などのデザインについて、少なくない製品が、「医療過誤を防ぐために識別性の高い配色を採用した」と表明している。しかし、その実体は、個々の商品のデザインにおいてのみ、できるだけ大きな識別性を確保しようとしており、単純な原色を識別すべき対象の数だけ用いるにとどまっている。はたして、ひとつの薬剤群の中だけで色彩のレンジを最大限に使うことが、医療環境全体の安全性を高めていることになるだろうか。
問題は、医療空間全体の色彩計画について十分な検討がなされていないことにある。プラント管理施設や航空機コクピットなど、公共性の高いデザイン分野においては、色彩や表示の安全に対する効果は科学としてよく研究されており、ミスを起こさせないためのさまざまなノウハウが蓄積されている。例えば航空機のコクピットにおいては、「すべて順調」を示す言葉として「オールグリーン」が使われるが、実際のコクピットが本当に緑のランプに覆われているわけではない。膨大な情報が存在するコクピット空間では、「すべて順調」であれば、それぞれの計器には特に目立つ色彩も光も与えられない。異常のあったところだけが識別性の高い色の光を放ち、くっきりと目立つように他の色は抑制されている。これは、過剰なシグナルがかえってパイロットの注意力を損なうという知見に基づいている。
安全なオペレーションのためには、ルールに則った空間全体の色彩計画が重要であることは既知の事である。にもかかわらず、本年度の応募商品には、個々の商品の中だけで、識別性をうたい強い色彩と光を放つ商品が少なくなかった。こうした医療機器は、結果的に医療空間における色彩の氾濫を招いてはいないだろうか。メーカーに対しては色彩についての客観的な根拠を提出するよう求めたが、残念ながら医療現場における安全と色彩に関する科学的な実験結果や客観的指標は、ほとんど手に入らなかった。
現実の医療過誤の問題は、再現性がなく、またその密室性ゆえに、科学的な対象となりにくいことは容易に想像される。しかし、それにしても色彩についての定見のなさは、看過できないものであると言わざるを得ない。医療現場の安全設計について体系的な研究が待ち望まれる。
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