Good Design Award 2003 Winners
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受賞結果速報
審査委員/審査講評
賞の構成
GDP グッドデザインプレゼンテーション2003
審査委員/審査講評

商品デザイン部門
ユニット10:業務用コンピュータ、システムおよび関連商品、医療機器・設備

山中俊治

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今年度の審査では、審査委員長が開発に携わった商品が、私達の審査ユニットにおける最も優れた商品として金賞受賞となった。このことについては、紙面が許す限りの経緯説明が必要であろうと考える。
グッドデザイン賞の審査委員には、現場で活躍するデザイナー達が多く含まれている。これは審査の実際的な質を確保するためには、必要なことと考えられている。結果として審査委員の仕事とされる商品群が、市場において小さくないウエイトを占める。このような状況で、グッドデザイン賞への応募は基本的にはデザイナーではなく生産者である企業によって任意になされる。応募主体である企業に応募意志があるにもかかわらず、これを拒むことは、幅広くデザイン振興を目的とする制度の趣旨にも反する。また、実際問題として、審査委員の作品群は、工業製品全体に対して少なくない影響力を持っており、これを審査対象から外すことは、かえって市場における重要な一角を欠くことになりかねない。こうした観点から、現在の制度は審査委員が開発にかかわった製品についても、応募があれば審査対象としている。
ただし、実際の審査にあたっては、審査委員は自分が開発に貢献した製品の評価には参加できない。委員自身の作品がその委員の所属する審査ユニットに申請された場合、審査の客観性を確保するために、該当委員は席を外して他の委員だけで審査を行うというルールが厳密に適用されている。過去においてこのようなルールの下で審査を行った結果として、Gマークを受賞した商品は数多く、金賞を受賞した例も少なくない。
当審査ユニットで、金賞候補となったEIZOのモニターは、一人のデザイナーがそのブランドネーミングから商品企画、設計、プロモーションにまでかかわってきた。画像品質をはじめとする技術コンセプトや研究開発の方向性にも、デザイナーの意志がはっきりと反映されており、デザイナーがひとつのブランドに対して成し得ることを考える上で、重要な事例となっている。我々の審査ユニットはそうした長年にわたるブランド形成そのものを高く評価し、そのモニター群を金賞候補とした。
該当デザイナーが本年度の審査委員長であるため、応募者らに誤解を招くことを懸念する意見もあったが、一方、そういう配慮をすることがかえって審査の公平性を損なうという発言もあった。検討の結果、ともかくルールに沿ってできるだけ客観的にこれを審査しようということになった。実際問題としては、当審査ユニットの坂野委員も関係者であり、この議論からは外れてもらっている。
多くの議論がなされ、最終的には、坂野委員を除く当審査ユニットの委員の総意として、EIZOのLCDモニターを金賞候補とした。その評価趣旨は巻頭特別賞ページでの評価コメントを参照されたい。当ユニットの評価は、全ユニット長によって構成される金賞審査会でも全員の共感を得て、審査委員長の票を除く満票での金賞の受賞となった。
一方、本商品は大賞にはノミネートされなかった。大賞候補も特別賞審査会(ユニット長会議)で選定される。しかし、そこでの議論の詳細は、私からではなく、審査副委員長または事務局から説明がなされるべきであると考えるので、ここでは多くを報告しない。最終的には審査委員長が大賞候補となることを辞退している。穏当な結論と思われるが結果として、審査委員が貢献した対象については、金賞受賞は可能だが大賞受賞は許されないという事例を残したことになる。こうした判断の根拠について、明快な説明がなされなければならないと考える。グッドデザイン賞の趣旨と仕組みを考えれば、このような問題は今後も避けられない。今回の事例を出発点として、審査の公平性、客観性について幅広い議論が進められることを期待する。

■ジャンル別講評

業務用コンピュータ、システムおよび関連商品[受賞対象を見る

サーバー・コンピュータのデザインは、どうやらある種の袋小路に入っているようである。かつては機能本意の無骨なコンピュータ・ラックが主体であったが、元々高額商品群なので、営業上必要であるとなれば、デザインにコストをかけることは可能であった。従って、90年代半ばから市場でコンピュータ・ルームのインテリアが重視されるようになると、サーバー・コンピュータのデザインは、にわかに活気づいた。さまざまなデザイン上の試みがなされ、シリーズ全体に一貫したテーマと色彩計画を持ち込み、Gマークの金賞を受賞した商品なども登場した。今年度の審査対象となった商品群を見る限り、そうしたシリーズ化はすでに一般的なものとなった。そこでは、オフィスの好ましい景観などという概念はすでに形骸化し、印象的な「スタイル」を各社が競っているように見える。しかも残念なことに、どの製品も表面的なスタイルに終始し、デザイン上の新しい手がかりを見つけることができていない。かつてのクレイ・コンピュータやコネクション・マシンなどが切り開いたテクノロジードリームの復権が待ち望まれる。

医療機器・設備[受賞対象を見る

医療機器、設備のデザインについては、医療現場の色彩計画について問題を提起したい。 色彩は歴史的にも識別性の高いシグナルとして使用されてきた。形状の差異を設けることが難しい商品群では、色彩が有効な識別要素であることは間違いない。本年度応募商品においても、点滴用のパック、シリンジ、容器、あるいは装置のスイッチ類などのデザインについて、少なくない製品が、「医療過誤を防ぐために識別性の高い配色を採用した」と表明している。しかし、その実体は、個々の商品のデザインにおいてのみ、できるだけ大きな識別性を確保しようとしており、単純な原色を識別すべき対象の数だけ用いるにとどまっている。はたして、ひとつの薬剤群の中だけで色彩のレンジを最大限に使うことが、医療環境全体の安全性を高めていることになるだろうか。
問題は、医療空間全体の色彩計画について十分な検討がなされていないことにある。プラント管理施設や航空機コクピットなど、公共性の高いデザイン分野においては、色彩や表示の安全に対する効果は科学としてよく研究されており、ミスを起こさせないためのさまざまなノウハウが蓄積されている。例えば航空機のコクピットにおいては、「すべて順調」を示す言葉として「オールグリーン」が使われるが、実際のコクピットが本当に緑のランプに覆われているわけではない。膨大な情報が存在するコクピット空間では、「すべて順調」であれば、それぞれの計器には特に目立つ色彩も光も与えられない。異常のあったところだけが識別性の高い色の光を放ち、くっきりと目立つように他の色は抑制されている。これは、過剰なシグナルがかえってパイロットの注意力を損なうという知見に基づいている。
安全なオペレーションのためには、ルールに則った空間全体の色彩計画が重要であることは既知の事である。にもかかわらず、本年度の応募商品には、個々の商品の中だけで、識別性をうたい強い色彩と光を放つ商品が少なくなかった。こうした医療機器は、結果的に医療空間における色彩の氾濫を招いてはいないだろうか。メーカーに対しては色彩についての客観的な根拠を提出するよう求めたが、残念ながら医療現場における安全と色彩に関する科学的な実験結果や客観的指標は、ほとんど手に入らなかった。
現実の医療過誤の問題は、再現性がなく、またその密室性ゆえに、科学的な対象となりにくいことは容易に想像される。しかし、それにしても色彩についての定見のなさは、看過できないものであると言わざるを得ない。医療現場の安全設計について体系的な研究が待ち望まれる。

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