■ジャンル別講評
エンターテーメント・ホビー関連商品・楽器[受賞対象を見る]
ソニーの新AIBO、ブラザーのifbot、三菱重工のwakamaru。3つのロボットがGマークを受賞した記念すべき年である。中でも新AIBOは硬かった表現力が格段にアップし、愛くるしい動きを実現、審査委員を唸らせた。こうしたロボット技術がさまざまな領域の製品に搭載されるのは時間の問題だろう。影響力は予想よりはるかに大きい。しかしロボット黎明期とはいえ、「何故、人型にするのか」といったロボットに対するデザインイメージの貧困さへの批判があったのも事実である。ロボットクリーナーのようなナチュラルな生活への切り口を見いだしてほしい。
ところで、このカテゴリーは日本の得意分野であるにもかかわらず、応募数が少なかった(21点)。ゲームソフトなどIT関連に軸が移動してしまったことの表れだろうか。携帯電話機をはじめとした情報家電が、生活そのものの質を、ひいては文化を変化させていることに改めて気付かせられる。
アミューズメント関連商品・設備[受賞対象を見る]
パチンコ台やパーラーチェアなどが中心のアミューズメント商品のデザイン評価は、単にモノの評価ではすまされず、非日常環境である施設の有り様と深い関わりがある。審査においてもそのあたりに議論が集中した。また、インターナショナル概念であるモダンデザインの範囲から評価を下すこともナンセンスであり、そのあたりが日本のデザイン(Gマーク)の深度を高める意味で今後重要なカテゴリーと言える。昨年この分野を担当された佐藤康三氏も言うように、これからも多くの応募を期待したい。そして歴史の繰り返しを確認することで、この分野のデザインのあるべき姿が導き出されることが重要であり、我々が急いで結論を出すことではないと思う。パチンコやカラオケは日本の文化であり、高齢化社会にとってその機能は、最も身近にある“お湯のない温泉”(コミュニティ)である。業界関係者がデザインをどう活用するか、審査委員の我々もそのカタチを楽しみにしている。
日用品、ガーデニング用品・雑貨[受賞対象を見る]
デフレ経済、エコ対策、短サイクルなど、なかなかデザインに没頭できる環境条件ではない。せっかく苦心して成立させた商品も、一年も経たずコピー品が出回り、むしろ損をしてしまう状況である。にもかかわらず、今回受賞した日用品には、これからを切り開くいくつかのポリシー、たくましさが見て取れた。一つは高齢者や女性などを意識したユニバーサルデザイン、二つめは誠実な技術に裏付けられた長期使用に耐えるサスティナブルデザイン、そして三つめは、例えばLED技術などの進化によってもたらされたエコロジーデザインの実践である。デザイン情報誌で見かける流行りのデザインフィロソフィーが、言葉だけ上滑りすることなく生活デザインを支えるものに定着しつつあることがうかがえる。安価品との差別化といった商売発想でなく、人間生活の基本を時勢に合わせて振り返り、ピント修正を行ったデザインマインドの勝利とは言えまいか。
スポーツ・アウトドア商品[受賞対象を見る]
今回スポーツ用品は、トップスイマーを対象としたゴーグルや超プロ使用のウェイクボードなど商品のプロフェッショナル化が目立った。プロ、アマの壁のないもの、つまり“本物”のみにユーザーの視点が移っているのだろう。かつてのハイテクスニーカーに代表される機能競争のブームも去り、全体的にスポーツ用品は活気がない状態が続いている。技術的な側面でサチレート(飽和)した状況がその主な要因だが、ナノテクやハイブリットなどの技術革新だけに頼ることなくデザイン主導による打開策を講じて欲しい。またアウトドア商品はモナリザの錨が中小企業庁長官賞を受賞するなど、相変わらず中小企業のがんばりが目についた。一業種に邁進する専門家の強みが今日の市場には受け入れられる。それはある意味スポーツ用品のプロ化と同じことであり、デザインスペシャリティーという一段上の目線が重要度を増している。
自転車、バイク[受賞対象を見る]
国内二輪メーカー初の量産電動二輪車、ヤマハ発動機(株) パッソルが大賞候補の5点にノミネートされ、惜しくも大賞は逃したが見事金賞を受賞した。サイレントスクーターとも言える乗り心地は、バイクというより移動ロボットを彷佛とさせる。昨今どうしてもこうした環境性能を搭載したビークルに目が移りがちだが、スズキ(株)
チョイノリなど消費生活者オリエンテッドな製品も大いに評価されるべきである。安価というより簡素にウエイトが置かれデザインは、とてもキュートで次世代を予感させる。また自転車については外観デザイン的に見て、ユーザーをワクワクさせるものがなく残念であったが、オリジナルな工法により軽さ、強さ、美しさをより追求した宮田工業の地道な活動などは、基本性能の向上というデザインの本流であり、同じく評価されるべきである。いずれにせよ、革新的技術同様、既成概念にとらわれない革新的デザインは、次世代ビークル誕生の必須条件であろう。
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