Good Design Award 2003 Winners
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受賞結果速報
審査委員/審査講評
賞の構成
GDP グッドデザインプレゼンテーション2003
審査委員/審査講評

商品デザイン部門
ユニット2:日用品、雑貨、スポーツ・アウトドア、自転車、バイク、エンターテーメント、ホビー関連商品など

長濱雅彦

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日用品を中心に、5つの商品カテゴリーからなる審査ユニットである。ロボットが審査対象として数点見られたのは新しい時代を予感させる。ただその前に、中国の台頭と高齢化社会の陰がこのカテゴリーのデザインソリューションに重くのしかかっていることを忘れてはならない。
デフレ経済は、デザイナーが気の向くままに“手”と“脳”を働かせ、デザインに集中できる環境とは言い難い。中国製品などの影響が確実にデザイナーの手許を狂わせているからだ。そして、その影響が少なからずこのユニット群のデザインに表われていた感は拭えない。例えば日用品では、きれいでワクワクするデザインというより“質の思想”を打ち出す企業が多かった。少々値段は高いが長期使用に耐えるように樹脂の質を向上させた洗濯ピンチや、基本性能を地道な努力で向上させた釣り用クーラーや自転車などが、好例だろう。長寿命を導くサスティナブルな思考をはじめ、ユニバーサルデザインとエコロジーデザインによって、安価品と差別化する傾向がどこの企業にも共通に見受けられた。デフレが道具の節度、わきまえを再認識させたことは、なんとも皮肉であるが……。
また、中国の台頭やデフレ経済以上に、深奥に影響をあたえているのが高齢化社会、シニア市場をどう受け止めていくかという問題である。「いよいよ来たか」というのが率直な印象だ。そうした流れはGマーク常連である(株)兼古製作所の工具や、松下電工(株)の芝刈り機にも見られ、市場の変化を如実に物語っている。とにかく、今のシニア族は元気である。あるゲームメーカーは少子化を危惧し、シニア向けのゲームソフトの開発に尽力しているが、そうした開発テーマが持ち上がるのも今のシニア族は何にでも興味を持ちトライしてくるという傾向があるからだろう。不況社会に身を投じ、一歩も動けずにいる中間層を尻目に、子供の世界などこれまで未知であった世界にまで入り込もうとしている。この審査ユニットの対象であるスポーツもカラオケもパチンコも、さらにはペット飼育もロボットも、今後このシニア世代が市場の中央に君臨することは間違いない。ユニバーサルデザインの名を借りて、高齢者向け製品がどこまでこのカテゴリーを埋めつくすか、楽しみであり、やや不気味でもある。
ところで、この審査ユニットは5人の審査委員によって現物審査を基本ポリシーに進めてきた。男性3人、女性2人という人数構成も幸いし、全体には遠近両用のバランス良い審査ができたと思っている。むろん、審査時に初めて出会うものが多く、人間性の見極め同様、本当の中身まで十分に見通せたかといえばそれはパーフェクトではない(市場調査なども各審査委員努力したが)。ただ我々は応援団という立場から審査にあたったこと、Gマークフィルターにかからなかったものはハッキリと認識できるマイナス要素を持っていたこと、この2点をご理解いただければ幸いである。“ヒット商品=Gマーク商品でない”。この当たり前の事実を“手”と“脳”の両方で受け止めることは、今の時代とても難しいことではあるが、新たな機能創出を願っている。

■ジャンル別講評

エンターテーメント・ホビー関連商品・楽器[受賞対象を見る

ソニーの新AIBO、ブラザーのifbot、三菱重工のwakamaru。3つのロボットがGマークを受賞した記念すべき年である。中でも新AIBOは硬かった表現力が格段にアップし、愛くるしい動きを実現、審査委員を唸らせた。こうしたロボット技術がさまざまな領域の製品に搭載されるのは時間の問題だろう。影響力は予想よりはるかに大きい。しかしロボット黎明期とはいえ、「何故、人型にするのか」といったロボットに対するデザインイメージの貧困さへの批判があったのも事実である。ロボットクリーナーのようなナチュラルな生活への切り口を見いだしてほしい。 ところで、このカテゴリーは日本の得意分野であるにもかかわらず、応募数が少なかった(21点)。ゲームソフトなどIT関連に軸が移動してしまったことの表れだろうか。携帯電話機をはじめとした情報家電が、生活そのものの質を、ひいては文化を変化させていることに改めて気付かせられる。

アミューズメント関連商品・設備[受賞対象を見る

パチンコ台やパーラーチェアなどが中心のアミューズメント商品のデザイン評価は、単にモノの評価ではすまされず、非日常環境である施設の有り様と深い関わりがある。審査においてもそのあたりに議論が集中した。また、インターナショナル概念であるモダンデザインの範囲から評価を下すこともナンセンスであり、そのあたりが日本のデザイン(Gマーク)の深度を高める意味で今後重要なカテゴリーと言える。昨年この分野を担当された佐藤康三氏も言うように、これからも多くの応募を期待したい。そして歴史の繰り返しを確認することで、この分野のデザインのあるべき姿が導き出されることが重要であり、我々が急いで結論を出すことではないと思う。パチンコやカラオケは日本の文化であり、高齢化社会にとってその機能は、最も身近にある“お湯のない温泉”(コミュニティ)である。業界関係者がデザインをどう活用するか、審査委員の我々もそのカタチを楽しみにしている。

日用品、ガーデニング用品・雑貨[受賞対象を見る

デフレ経済、エコ対策、短サイクルなど、なかなかデザインに没頭できる環境条件ではない。せっかく苦心して成立させた商品も、一年も経たずコピー品が出回り、むしろ損をしてしまう状況である。にもかかわらず、今回受賞した日用品には、これからを切り開くいくつかのポリシー、たくましさが見て取れた。一つは高齢者や女性などを意識したユニバーサルデザイン、二つめは誠実な技術に裏付けられた長期使用に耐えるサスティナブルデザイン、そして三つめは、例えばLED技術などの進化によってもたらされたエコロジーデザインの実践である。デザイン情報誌で見かける流行りのデザインフィロソフィーが、言葉だけ上滑りすることなく生活デザインを支えるものに定着しつつあることがうかがえる。安価品との差別化といった商売発想でなく、人間生活の基本を時勢に合わせて振り返り、ピント修正を行ったデザインマインドの勝利とは言えまいか。

スポーツ・アウトドア商品[受賞対象を見る

今回スポーツ用品は、トップスイマーを対象としたゴーグルや超プロ使用のウェイクボードなど商品のプロフェッショナル化が目立った。プロ、アマの壁のないもの、つまり“本物”のみにユーザーの視点が移っているのだろう。かつてのハイテクスニーカーに代表される機能競争のブームも去り、全体的にスポーツ用品は活気がない状態が続いている。技術的な側面でサチレート(飽和)した状況がその主な要因だが、ナノテクやハイブリットなどの技術革新だけに頼ることなくデザイン主導による打開策を講じて欲しい。またアウトドア商品はモナリザの錨が中小企業庁長官賞を受賞するなど、相変わらず中小企業のがんばりが目についた。一業種に邁進する専門家の強みが今日の市場には受け入れられる。それはある意味スポーツ用品のプロ化と同じことであり、デザインスペシャリティーという一段上の目線が重要度を増している。

自転車、バイク[受賞対象を見る

国内二輪メーカー初の量産電動二輪車、ヤマハ発動機(株) パッソルが大賞候補の5点にノミネートされ、惜しくも大賞は逃したが見事金賞を受賞した。サイレントスクーターとも言える乗り心地は、バイクというより移動ロボットを彷佛とさせる。昨今どうしてもこうした環境性能を搭載したビークルに目が移りがちだが、スズキ(株) チョイノリなど消費生活者オリエンテッドな製品も大いに評価されるべきである。安価というより簡素にウエイトが置かれデザインは、とてもキュートで次世代を予感させる。また自転車については外観デザイン的に見て、ユーザーをワクワクさせるものがなく残念であったが、オリジナルな工法により軽さ、強さ、美しさをより追求した宮田工業の地道な活動などは、基本性能の向上というデザインの本流であり、同じく評価されるべきである。いずれにせよ、革新的技術同様、既成概念にとらわれない革新的デザインは、次世代ビークル誕生の必須条件であろう。

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