GDA2002 WINNERS 審査委員・審査講評 賞の構成 大賞 エコロジー賞 中小企業庁長官賞 ロングライフ賞
主催者あいさつ グッドデザイン賞 大賞選出過程 ユニバーサル賞 日商会頭賞 表彰式レポート
受賞結果速報 グッドデザインプレゼンテーション2002 金賞 インタラクション賞 審査委員特別賞 アンケート結果
審査講評
商品デザイン部門 審査ユニット4
ユニット長 益田文和

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海外メーカーの元気と、控えめな日本の家電デザイン
近年徐々に増えてきた海外の家電メーカーの応募が、今年は特に印象的であった。韓国、中国、スウェーデンなど、やはり機器やデザインに対する独特の考え方がそれぞれ明快に現れていて興味深い。中には日本で使うには細かい点の配慮に欠けるなど、おそらく生活環境の違いからくると思われる違和感や、特にアジア諸国の場合に顕著であるが、日本の家電デザインに特有な泥臭さとは違った意味で癖のあるスタイリングや過剰な装飾性など、気にかかる面もあるものの、総じて表現に主張と勢いがあり、デザイナーが元気よく仕事をしている雰囲気が伝わってくる。韓国の掃除機などに見られる力強い造形処理や達者な色使いなどは、いまだかつて日本の家電デザインには現れなかったスタイルであり、世界市場で鍛えられた自信がうかがえる。こうして比較してみれば、日本の家電製品がいかにローカルな市場の中で育ってきたかということに改めて気づく。
しかし、日本の家電がそれなりに機能の進化と洗練を積み重ね、造形的には控えめな脇役に徹する姿勢をますます強めているという傾向は、必ずしも憂慮すべき事柄ではない。現に、ずらっと並んだ冷蔵庫や洗濯機を前にしても、数年前に比べるとはるかに圧迫感やストレスを感じなくてすむのである。ただ、自らもデザインをする者としての立場から残念に思うのは、たとえば、フロンフリーの冷蔵庫や横置きドラムの洗濯機のように、せっかく革新的技術が生み出したエポックとなるべき新製品に、画期的なデザインがほとんど見られないということである。そのデビューにあたってインダストリアルデザイナーが満足すべき仕事をしたと思われる形跡が見当たらない。絶好のチャンスに思う存分力が発揮できないということは、企業にとってもデザイン職能にとっても残念なことである。これはデザイン能力の問題というよりはデザインマネジメントのまずさによると思われる。
また、たとえば、マイナスイオンが話題になると、冷蔵庫をはじめ、なんでもかんでもマイナスイオン発生装置付きになってしまい、サイクロン方式が評判になるとほとんどの掃除機がサイクロン付きになってしまうというのはなんとも情けない。こういう市場でうけるスペックは、セールストークにはなるかもしれないが、デザイン評価の場面で強調するのであれば明確な根拠を示すべきであろう。

意思を持ったものづくりを
ここ何年か、日本の日用品のデザインが無印良品に代表されるシンプルでクリーンなスタイルに傾斜してゆくような流れを感じる。その傾向は決して不快感を伴うものではないし、MUJIは意図したブランドアイデンティティを一貫して守っているのだが、他社の中には一見投げやりとか無頓着とも思えるものもあり、もし市場に蔓延するデフレ的沈滞がデザインする意欲を失わせた結果、無気力で単純な形しか生み出せないのだとすればやはり問題である。市場の反応が心もとなく自信を持ちにくい状況であればなおのこと、商品には作り手の意思というものがより鮮明に投影されてもよいはずである。
その点、デザイン主導で開発されたと思われる製品の中には意欲的なものが見受けられた。アイシン精機のミシンは、使い勝手とグラフィックの楽しさを同時に追求した意欲作であったし、マルト長谷川工作所の「Theペンチ」は、ペンチ専門メーカーの誇りをかけて開発した逸品である。
昨年金賞を受賞した東芝のIH調理器は、地域産業とのコラボレーションによるステンレス素材を活かした美しい造形が話題となったが、今回は同じ商品で鋳鉄と陶器のバリエーションを登場させ、金賞の連続受賞となった。その並々ならぬ熱意と努力に敬意を表したい。南部の鉄器と四日市の土鍋という、我々が長く親しんできた素材と形に添って素直にデザインされた姿は美しく、新しい時代のまっとうなものづくりのあり方を見るようである。
松下電器の全身浴シャワーが設置の簡便さと普及価格で再登場しているのはうれしい。足元を暖める工夫など積み残しの課題があることも指摘されたが、オリジナリティの高い商品を粘り強く育てていく姿勢が認められ、ユニバーサルデザイン賞の受賞となった。
東芝ライテックの「ネオボールZ レフランプ型」は一見地味な商品であるが、1980年に電球型蛍光ランプの第1号を発売して以来改良を重ねてきた結果、白熱電球に比べて1/5の消費電力と6倍の寿命という驚異的な環境性能を達成したネオボールZシリーズの集大成ともいえるものである。こうした地道ではあるが社会的に重要なプロジェクトに、デザインが主体的に関わってきた意味は大きい。エコロジーデザイン賞を獲得し、なおかつ2002年度グッドデザイン大賞の候補にノミネートされた。

生活の質を語る商品群
このユニットに集められた商品群は、私達が毎日の生活で使うためにデザインされたものである。この商品群のデザインの質が高まることは、私達の生活の質が高まることに少なからず貢献するはずである。歴史的に見ても、いわばグッドデザインの原点とも言えるこのカテゴリーから、もっと鮮やかな明日の生活のイメージが見えてきてほしい。