2020変化の時代にデザインができること
2020
川西康之
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川西康之「つながりを広げるデザイン」ディレクター提言

デザインも立法や行政に関わりを。知恵と工夫を共有するいくつかのヒント

2021.02.04

大変革期にある自動車。その中心にある「ラストワンマイルモビリティ」への関心

今回のグッドデザイン賞は「どうだ、すごいだろう!」という自己主張型の、ある意味でのデザインの王道が目立ちながら、一方で「そうだ、社会はこういうものを待っていたんだ!」というような応募作も目立った年でした。教師と生徒がともに設計に参加する台湾の教育プロジェクト 「Design Movement on Campus」、古着を回収し再生する「BRING」といったものは、まさに多くの人が諸手を挙げて歓迎するものです。

しかし、まだ評価が定まっていないながらも、この先の未来を指し示そうとする挑戦的なものもありました。例えば、トヨタ自動車の「TOYOTA LQ」。コンセプトカーでの応募だったので審査会では積極的な評価が難しかったのですが、このビジョンには同社が目指そうとするクルマ社会の未来が見えてきます。

約100年に及ぶ自動車の歴史は、現在大きな変革の時期にあります。その中心にあるのは、自動車未満、電車未満、しかし徒歩以上の移動性を持つ「ラストワンマイルモビリティ」への関心です。

山奥で暮らしている高齢者のための移動手段として、いますぐにでも導入されるべきものであると同時に、経営と持続可能性という観点でも重要です。2019年度の応募作ですが、良品計画による自動運転バス「GACHA」、高齢者を対象とした乗合バスシステム「チョイソコ」など、各企業が競い合いながらこの課題に取り組んでいるのもポジティブな傾向でしょう。まだまだ開発過渡期の状況ではありますが、ワンマイルモビリティは、現代において福祉や環境と並ぶ大きなテーマであると私は考えています。

しかし正直なところ、ヨーロッパと比べると日本は遅れをとっています。2020年2月にルノーが発表した新型シトロエン「アミ」は、14歳以上のフランス国民であれば誰でも運転できるシェアカーで、無免許で運転できます。これはまさに国家をあげての大きな取り組みで、法整備のレベルから「デザイン」されているとも言えます。

一方で日本のモビリティ産業におけるデザインは造形レベルに留まっています。その可能性を広げていくためには制度や法律へのデザインからのアプローチも必要になってくるだろうと私は考えていますが、その意味でも、社会システム自体を刷新していく台湾の姿勢や、地球規模でのビジネスを視野に入れて金型からデザインされた自転車「HONGJI Stone」を作ることのできる中国の存在感が際立ちます。

とはいえ、「東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト」のように行政からの応募作が今回受賞したことは大きな前進だと思います。オープンソースを活用することで改良の余地をあらかじめ作り、また他の自治体でも使用可能というフットワークの軽さは、今後の日本における制度とデザインの関わりに一石を投じるものですが、私たちデザイナーも立法や行政に対して関わっていくべきではないでしょうか? 私が掲げたテーマ「つながりを広げるデザイン」にも、そういった様々な取り組みの「広がり」が複合的に含み込まれていったと審査会を経て感じています。

知恵と工夫をどのようにシェアし、人のつながりを広げていくか

私が主に手がけている乗り物のデザインでも複合性——人や地域とのつながりを重視することが必要です。少子化による人口が減っていく世の中で、知恵と工夫をどのようにシェアし、人のつながりを広げていくか。それを模索し、デザインしていく以外に方法はないのです。

しかしまだ「これだ!」という答えはなく、そのヒントがいくつか散らばっているというのが現状です。そこで私が最後に言及したいのが、気仙沼の「遠洋まぐろ延縄漁船 [第一昭福丸]」です。

東日本大震災で気仙沼は大きな被害を受けましたが、復興のなかで水産会社の社長さんとデザイナーが出会う機会があり、そして生まれたのがこの船だそうです。いまや遠洋漁業は深刻な人手不足に瀕していて、カツオやマグロ漁船の乗り手も見つからない状況です。

しかし世界的に高級魚のニーズは高まっていて、日本の競争力が低下しているのは周知のとおりです。そこで彼らは働きやすく心地よく居住しやすい漁船をデザインし、漁業の分野で働くことに誇りを持ってもらえるようなものを作りました。

マグロ漁船に限らず、船舶の分野はどこも人手不足と高齢化に悩んでいます。若い人が入ってきても、ベテランの高齢者とのあいだに世代的な距離が生じて、コミュニティも失われつつある。そのなかでデザインができることを実践的に示したという点で私はこの作品を高く評価したい。このようなつながりを広げていくことを応援していきたいですね。

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