2020変化の時代にデザインができること
2020
山阪佳彦
English
「新たな社会の道しるべとなるデザイン」を考える

社会の変化のために大きな道を切り拓くこと、抜け道を示すこと

2020.10.30

クリエイティブディレクターの山阪佳彦がフォーカス・イシューのディレクターに就くにあたり掲げているテーマは「新たな社会の道しるべとなるデザイン」。コロナ禍、これまでの常識が通用しない時代にこそ、より必要になってくるコンパスのように方角を示すデザインの役割。先日行われたベスト100に選ばれた受賞者によるプレゼンテーション聴講後に、改めて今回定めたイシューテーマについて語ってもらった。

先行きの不透明な時代に、デザインが指し示す2つの方向

私がテーマとした「新たな社会の道しるべとなるデザイン」の「道しるべ」には大きく2つの方向があります。

山阪佳彦

1つはまるで巨大な幹線道路のように、「こっちが未来だよ」とみんなが未来に向かうための方向を示すデザイン。もう1つは、従来のやり方や型通りのやり方に対して、別の抜け道や近道を示すようなデザインです。

今回、インパクトが大きいと感じたのは、サーキュラーエコノミー「BRING」と、ショッピングプラットフォーム「LOOP」。ともに新たな循環システムを構築したデザインで、環境や廃棄の問題に対して具体的なアクションにつながるアプローチを示していました。

この2つの取り組みは、どちらも「みんなで一緒にやろう」とゼロからインフラをつくり、賛同者を集めたことで、社会実装を行った好例です。1 つの会社、1 つの組織ではできないことでも、枠組みを超えて連携すれば新しい挑戦ができる。あらためて、その可能性を示してみせた意味は大きかったと思います。

いま行政や地域社会では、さまざまなステークホルダーが一緒になって社会課題に取り組むことで、効果を最大化しようとする「コレクティブインパクト」という考え方があります。これに対して、従来の企業には、できれば自社だけで事業やプロジェクトを完結させたいと考える傾向がありました。

しかし、環境問題をはじめ、社会課題が深刻になるなかで、企業にも「それぞれにやっていたのでは効果が出ない」「ライバル社であろうが手を組もう」「同じプラットフォームに乗ってスピーティーにゴールを目指そう」という動きが今後ますます顕著になってくると思います。

大きな道を示すという意味では、サントリーグループの今後の「プラスチック基本方針」も強いメッセージでした。サントリーのような大きな企業が、多様な関係者と連携し、2030年までにペットボトルの素材をリサイクル素材と植物由来素材に100%切り換えるなど、プラスチックの削減を目指すと謳ったことの影響力は大きいものがあります。

持続可能な社会に向け、行動できる企業が「行動します」と宣言してみせた意義。それは、他企業の追随を望む熱いメッセージとも受けとめられます。誰かが道を拓いてみせることの効果を、強く感じたデザインでした。

一方で、既存の課題に新鮮な抜け道を示したのは、「ソーラータウン府中」です。住民の手によってコミュニティー活動が自走していくことは、まちづくりにおける1つの目標ですが、その実現は簡単なものではありません。

この戸建て住宅団地では、地役権の設定を行い、16戸の住宅からその土地の一部を中央にある「園路」と呼ばれる共有地に供出しました。それぞれが少しずつ負担をして、一緒に使うための場所を作るという仕組みであり、土地の共有意識を入口にまちを作ろうとした試みです。そこに、今後のコミュニティー設計のヒントがあると感じました。

社会の課題に向き合いながらも、夢があったり、かっこいいと思ってもらえるデザインこそ、人の心を動かす近道だと思います。将来の宇宙有人探査拠点の構築に向け、ミサワホーム株式会社が国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)、国立極地研究所と手を組んで手がけた「南極移動基地ユニットを用いた研究プラットフォーム」は、シンプルにワクワクしました。

ほかにも、現地の材料と職人の技術だけで建てられたウガンダの美しいレストラン「やま仙」、噛むことや噛むことの重要性を楽しく可視化した「SHARP バイトスキャン」など、デザインやその背景にある物語に「夢」「遊び心」「美しさ」「色気」などが強く感じられる取り組みがありました。左脳だけでなく右脳に届くこと。それは、混沌とした時代にあっても、忘れてはならないデザインの本質ではないでしょうか。

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