
クリエイティブディレクターの山阪佳彦がフォーカス・イシューのディレクターに就くにあたり掲げているテーマは「新たな社会の道しるべとなるデザイン」。コロナ禍、これまでの常識が通用しない時代にこそ、より必要になってくるコンパスのように方角を示すデザインの役割。先日行われたベスト100に選ばれた受賞者によるプレゼンテーション聴講後に、改めて今回定めたイシューテーマについて語ってもらった。
先行きの不透明な時代に、デザインが指し示す2つの方向
私がテーマとした「新たな社会の道しるべとなるデザイン」の「道しるべ」には大きく2つの方向があります。

1つはまるで巨大な幹線道路のように、「こっちが未来だよ」とみんなが未来に向かうための方向を示すデザイン。もう1つは、従来のやり方や型通りのやり方に対して、別の抜け道や近道を示すようなデザインです。
今回、インパクトが大きいと感じたのは、サーキュラーエコノミー「BRING」と、ショッピングプラットフォーム「LOOP」。ともに新たな循環システムを構築したデザインで、環境や廃棄の問題に対して具体的なアクションにつながるアプローチを示していました。
この2つの取り組みは、どちらも「みんなで一緒にやろう」とゼロからインフラをつくり、賛同者を集めたことで、社会実装を行った好例です。1 つの会社、1 つの組織ではできないことでも、枠組みを超えて連携すれば新しい挑戦ができる。あらためて、その可能性を示してみせた意味は大きかったと思います。
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Shopping Platform [LOOP]世界的な廃棄物問題に取り組むための循環型のショッピングプラットフォーム。P&G、ユニリーバなどのブランドや小売業と提携し、日用品のパッケージを耐久性のある何度も使えるデザインに転換することで、1度きりの使い捨てパッケージに頼らなくなることを目指す。 -
サーキュラーエコノミー[BRING]消費者から再生ポリエステルアパレル製品の古着を回収し自社工場で循環する仕組みを一気通貫で実施するD2C(Direct to Consumer)と、仕組と原料を他社へ提供しアパレル企業・商社・再生事業者が共存する独自エコシステムを形成するプラットフォーム事業を両立している。
いま行政や地域社会では、さまざまなステークホルダーが一緒になって社会課題に取り組むことで、効果を最大化しようとする「コレクティブインパクト」という考え方があります。これに対して、従来の企業には、できれば自社だけで事業やプロジェクトを完結させたいと考える傾向がありました。

しかし、環境問題をはじめ、社会課題が深刻になるなかで、企業にも「それぞれにやっていたのでは効果が出ない」「ライバル社であろうが手を組もう」「同じプラットフォームに乗ってスピーティーにゴールを目指そう」という動きが今後ますます顕著になってくると思います。
大きな道を示すという意味では、サントリーグループの今後の「プラスチック基本方針」も強いメッセージでした。サントリーのような大きな企業が、多様な関係者と連携し、2030年までにペットボトルの素材をリサイクル素材と植物由来素材に100%切り換えるなど、プラスチックの削減を目指すと謳ったことの影響力は大きいものがあります。
持続可能な社会に向け、行動できる企業が「行動します」と宣言してみせた意義。それは、他企業の追随を望む熱いメッセージとも受けとめられます。誰かが道を拓いてみせることの効果を、強く感じたデザインでした。
一方で、既存の課題に新鮮な抜け道を示したのは、「ソーラータウン府中」です。住民の手によってコミュニティー活動が自走していくことは、まちづくりにおける1つの目標ですが、その実現は簡単なものではありません。

この戸建て住宅団地では、地役権の設定を行い、16戸の住宅からその土地の一部を中央にある「園路」と呼ばれる共有地に供出しました。それぞれが少しずつ負担をして、一緒に使うための場所を作るという仕組みであり、土地の共有意識を入口にまちを作ろうとした試みです。そこに、今後のコミュニティー設計のヒントがあると感じました。
社会の課題に向き合いながらも、夢があったり、かっこいいと思ってもらえるデザインこそ、人の心を動かす近道だと思います。将来の宇宙有人探査拠点の構築に向け、ミサワホーム株式会社が国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)、国立極地研究所と手を組んで手がけた「南極移動基地ユニットを用いた研究プラットフォーム」は、シンプルにワクワクしました。
ほかにも、現地の材料と職人の技術だけで建てられたウガンダの美しいレストラン「やま仙」、噛むことや噛むことの重要性を楽しく可視化した「SHARP バイトスキャン」など、デザインやその背景にある物語に「夢」「遊び心」「美しさ」「色気」などが強く感じられる取り組みがありました。左脳だけでなく右脳に届くこと。それは、混沌とした時代にあっても、忘れてはならないデザインの本質ではないでしょうか。
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商業施設 [やま仙 / Yamasen Japanese Restaurant]東アフリカのウガンダに建てられた商業施設。地域の気候・材料・技術を活かしたおおらかな茅葺屋根は緩やかな丘陵地に心地よい日陰を生み、京都より渡った料理人をはじめとする新たなビジネスに挑戦する人々の多様な活動拠点となっている。現地の人々の価値観も刺激し、様々な人が集う場として受け入れられた。 -
「噛む」を計り、気づき、行動を変える活動 [SHARP バイトスキャン]耳にかけて「噛む」回数、テンポ、姿勢などを測定する咀嚼計。 咀嚼回数が減少している現代人に対し、bitescan本体で噛むことを計り、アプリやイベントを通して人々に気づきを与えることで、より良い咀嚼習慣に導く取り組み。