2020変化の時代にデザインができること
2020
川西康之
English
「つながりを広げるデザイン」を考える

良い知恵、良いデザインを共有し広めるための「広がりの適切さ」

2020.10.30

建築家、デザイナー、ファシリテーターの川西康之がフォーカス・イシューのディレクターに就くにあたり掲げているテーマは「つながりを広げるデザイン」。多くの人たちに気づきをもたらし、手を伸ばし続けてもらうことには常に困難がつきまとう。そんな中で、グッドデザイン賞の選考から「広がりの適切さ」の輪郭はどう浮かび上がるのか。先日行われたベスト100に選ばれた受賞者によるプレゼンテーション聴講後に、改めて今回定めたイシューテーマについて語ってもらった。

「広げる」には、「いいね」やお金をたくさん集めればいいわけではない

グッドデザイン賞には昨年も「モビリティ」ユニットの審査委員として関わらせていただきましたが、1年間でこんなにも変わるのかと思うくらい、今年は応募作品の傾向が異なっています。昨年、「モビリティ」では、自動運転技術にまつわる応募がとても多くありました。

それに対して今年は、最新テクノロジーで勝負するものももちろんありましたが、私のフォーカス・イシューのテーマにも関わるような「地域社会」や「つながり」をテーマにしたものが多いと感じます。デザインに求められる「課題解決」という王道的なニーズが集積している領域からの応募が多く、真剣な取り組みが数多くありました。

川西康之

私がテーマとして掲げている「つながりを広げるデザイン」は、言い換えれば、良い知恵や良いデザインを共有して広めたいということです。研ぎ澄まされた知恵の広がり方、広げ方を考えたい。その点でとくに印象に残ったのは、宿泊施設 「まれびとの家」です。

都会から、憧れを抱いて中山間地域(平野の外縁部から山間地にかけての地域)を訪れる人も多い現在、この取り組みでは、ローカルの素材や知恵を使って小さな経済の循環を作る一方で、ITの力を使い、建物の3Dデータをほかの地域にも提供しています。グローバルとローカルという相反するものを高い次元で共存させており、「広がりの適切さ」「広がりの広さ」が素晴らしいと感じました。

何かを広げようとするときには、単に「いいね!」ボタンの数を稼いだり、クラウドファンディングでお金をたくさん集めたりすればいいわけではありません。もちろん、そうした「数」も大切なのですが、「まれびとの家」は、中山間地域の課題の解決しながら、しかもそれが楽しく広がっているという意味で、非常に鋭く刺さるものがありました。

もうひとつ、とても印象に残ったのは、ともに台湾から応募した「Design Movement on Campus」プランと、「Romantic Route 3 Art Festival」という芸術祭です。これらはデザインの力を使い、学生や市民を巻き込みながら、学校や教育、地域のあり方を変えようとするものです。

「Design Movement on Campus」プランには、デザインというものを教育の土台に据えたいという目論見を感じました。つまり、上から指示を与えられるのではなく、自分で考えてものを作れる人間を育てるのが教育の根本であるという考え方が、そこにはあります。

もうひとつの「Romantic Route 3 Art Festival」も含めて、台湾には、優秀な人材を育てることがより良い組織を作ることにつながるという、明確な意識があるのだと感じました。行政も含めて課題に向けた取り組みが行われている姿には、どこか羨ましさも感じます。

最後に、「応援のつながり」という意味では、精神障害と闘いながらも、お菓子づくりが得意な少女に、地域や社会との接点となる場を作った「みいちゃんのお菓子工房」も強く応援したくなるものでした。予算的な余裕がないなか、手掛けたデザイナーは大変な思いもしたかと思いますが、この丁寧な取り組みこそがデザインの基礎だと思います。

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