世界人口の激増と、それに伴う資源浪費で、地球環境と人間社会は折り合いがつかなくなってきている。さらに地球規模での気候変動が本格化して、未来の不確実性が増している。地球環境と人間社会の「共生関係」はぐらぐらと揺れ、その揺れはひどくなるばかりだ。それでも、こうした状況に一石を投じながら、確かな共生の関係を築いていこうとするさまざまな活動が認められる。
恵みとの共生
「地球環境との共生」と言うとき、二つの視点で考えたい。一つは「自然の恩恵との共生」、もう一つ忘れてはならないのが「自然の脅威との共生」だ。
私たちの暮らしは言うまでもなく「自然の恩恵」の上に成り立っている。経済(金儲け)を優先するあまり、そのことを忘れてしまって、恵みの土台となっている自然を破壊してしまい、自分で自分の首を絞めているのが現状だ。この状況をどう打開して行くかは、20世紀から引き継がれた課題である。
このテーマに正面から取り組んでいるのがバイオサーファクタント「ソフォロ」だ。化石燃料に依存した洗剤・化粧品づくりから脱却するために、微生物の発酵によって界面活性剤をつくる技術を開発する意欲的な試みで、すでに量産化までこぎ着けているため、普及すれば社会的な影響は大きい。都市ごみからバイオエタノールをつくる京都市の「『都市油田』発掘プロジェクト」、廃品回収のイメージをデザインの力で変えようとする「えこ便」は、「ごみ」が持つマイナスイメージを「資源」というプラスイメージに名実ともに変えている点がデザインの効果と言えるだろう。薪ストーブ「アグニ ヒュッテ」は形状のデザインの良さだけでなく、日本の森林荒廃を防ぐための資源活用策として、薪材としてはデメリットの多かったスギやヒノキの間伐材を効率的に燃焼する技術開発がなされている点に注目したい。
地域の自然を活かした循環型システムで注目されるのは、長崎県・五島列島で行われている再生可能エネルギーの実証実験「離島発 風と水素による循環型社会構築実証実験」である。洋上に浮かべた風力発電機で離島のエネルギーをまかなうだけでなく、余った電力で水素を発生させ、その水素を使って燃料電池船を離島間で運航させている。地域の木を使って家を建て、使った分以上の植林をする埼玉県の「家を建てながら近くの森を守るECO」も20年以上の実績を誇る循環型ビジネスだ。「雑木林の連層長屋 宮脇町ぐりんど」は、山から続く傾斜地の地形と生態系を活かした住宅で、生物多様性を失わず自然循環の中に建築を位置づける挑戦である。「地域性種苗を用いた生物多様性の取組み」は遺伝子の多様性保全を不動産開発に取り入れた活動だ。
脅威との共生
今年、異例のコースをたどって東北 ・北海道に大きな被害をもたらした台風10号に象徴されるように、極端な気象現象が日常化しつつある。「自然の脅威との共生」も待ったなしの課題だ。
気象情報や河川水位などのセンサー情報を統合し、ユーザーのスマートフォンに災害予測や避難情報を提供する「石川県河川総合情報システム」は、これからも頻発するであろう河川流域災害に対応する試みとして注目したい。小型電気自動車 「FOMM コンセプトOne」は、津波や洪水の発生時に水上を航行することでサバイバルが可能な電気自動車としてデザインされている。
日本各地で問題になっている、温暖化や生態系の変化が原因で繁殖しすぎた鹿による獣害に取り組んだ誘鹿剤「ユクル」 もユニークなプロジェクトと言えるだろう。そのほか「東京防災」、「無印良品 いつものもしも」など地震災害に対する取り組みも多くあったが、今後は気象災害へも視野を広げたプロジェクトへの進化を期待したい。
世界観を変える。人を育てる。
地球環境と共生する社会をつくるには、そのための知恵やセンスをもった人が社会の中に育っていく必要がある。高尾山の魅力を伝える「高尾599ミュージアム」や、自然と共に暮らす学習プログラムを提供する宮城県雄勝町の複合型体験施設 「MORIUMIUS」は、人を育てる目線が丁寧に組み込まれたプロジェクトである。
デザインが新しい世界観を提示する力を持つことを再認識させてくれたのが「オーサグラフ」だ。形や大きさのゆがみがなく、中心のない世界観を提示した世界地図である。過去の世界地図の欠点を補うかたちで、数百年ぶりに発明された、この世界地図が投げかけるメッセージの重要性を多くの人に知ってほしい。
最後に、これからの期待について記しておきたい。今年のグッドデザイン賞では人工知能やIoT、バイオ技術など、先端科学やテクノロジーに根ざしたプロジェクトにも多く出会った。こうした動きは、確かに私たちの産業や暮らしを一変させる影響力を持っている。しかし、影響力が大きいからこそ、目先の経済価値ばかりを追いかけた短期的なイノベーションに終わらず、長期的に発現する社会価値にも目を向け、地域や地球の問題を解決していく取り組みが増えてほしい。「地球環境との共生」を実現するグッド・イノベーションを生み出す力がデザインにはあると信じている。