2015グッドデザイン賞から見えてくる12の未来
2015
ナカムラ ケンタ
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ディレクター提言

“ひとつのアイデアが世界を変える”だれもがデザイナーになる時代

2015.12.31ビジネス生活

メーカーがデザイナーに仕事を依頼する。それが形になって世の中に広まっていく。90年代のグッドデザイン賞を見ていると、こういう仕事を経て形になっているものが多い印象を持つが、今年のグッドデザイン賞では、デザインを依頼する側もされる側も多様になっている。さらに言えば自らデザインし、自ら形にして、世に広めていく形態も増えているように思う。

たとえば、「LED-embedded jump rope」は小さなベンチャー企業が商品化までこぎつけたものだし、「WHILL」もはじめはクラウドファンディングで資金調達するところからはじまったプロジェクト。「播州刃物」は職人たちが団結し、事業全体をあらためてデザインしていくことで新しい価値を提供している。裏側には事業を仕掛けた張本人が存在すると思われるが、それは今までのデザイナーの役割を超えているように思う。アイデアを思いつき、ファイナンスも考え、もちろんデザインもする。だからこそ、ストーリーも一貫しやすいから魅力的であるし、自ずと共感が広がり普及していく。「シェアビレッジ」や「前橋◯◯部」なども、まさにそのような事業だと思う。とても軽やかに事業を立ち上げて、自ら形にしていき、共感が集まるので自ずと広がっている。

なぜこのような小さなチームがプロジェクトの川上から川下まで関わるデザインが増えているのか。ひとつはインターネットの存在が大きいと思うが、とくにあらゆる事業を実現するインフラが整ってきているからだと思う。「会社設立freee」、クラウドソーシングサービス「クラウドワークス」、クラウドファンデイングの「MotionGallery」などにより、大資本がなくとも事業の実現性が高まった。いずれも2011年頃に設立されたベンチャーであることも興味深い。

このようなインフラが生まれ、世の中に浸透していったことで、今までは大きな組織でないと成立していなかったものが、小さな組織や個人でも実現可能となった。大組織でプロジェクトを立ち上げる場合、決裁権者が多数いることでアイデアが骨抜きになったり、最大公約数を狙うことで独創的なものが実現されないことも多いように思う。けれども、インフラが整うことで、今までは組織で役割分担して進めないと形にならなかったものが、ひとりの頭の中で考えたものがそのまま実現することも可能になった。ひとりの頭の中で思考するということは、コミュニケーションが不要な分、スピードも速く革新的なアイデアもそのまま形になりやすい。わざわざ膨大なプレゼン資料をつくり、誰かを説得する手間も時間も不要となる。そのため小さな組織でもイノベーションを起こしやすくなっているのではないか。

このようなイノベーションを大きな組織でも実現していくことが、新しい時代のデザインを生むために必要なことだと思う。その方法には、たとえばひとりの天才がすべてを決めていくやり方もあるし、大組織の中に自由に動ける小さなチームをたくさんつくることなのかもしれない。ただ、さらに進化させるためには、シナプスが情報伝達するように速く、細やかなニュアンスも伝えられるコミュニケーション手段が生まれることが不可欠である。まるで映画『マトリックス』のように。そうすれば、アイデアは強度を保って形になりやすいし、言語化することが難しいものも関係者に共有することができるため、より高次の仕事を実行することに時間を費やせる。「ワークショップデザイナー育成プログラム」や「Blabo!」は、コミュニケーションを円滑にするためのものであると言える。さらにテクノロジーが進化し、コミュニケーションがうまく行われるようになれば、より多くの革新的なデザインが生まれてくるように思う。

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