2015グッドデザイン賞から見えてくる12の未来
2015
林 千晶
English
ディレクター提言

無数の点のつながり、新たな価値を生みだす

2015.12.31共生

ネットワーク化された社会で重要性を増す「つながり」のデザイン

オープンアーキテクチャーの強みは、ヴィジョンを発信し共有していくことで、既存の枠組みを超えた幅広いネットワークをつくり、新たな価値や大きな力、そしてイノベーションを生み出すところにある。デジタル技術の進歩は、ヒト・モノ・サービスを自由自在に繋げる。多くのモノや事象は、もはや単体では存在せず、ネットワーク化された中でどのような価値を提供するかをデザインする時代に突入し、それがさらにオープン化を加速させている。

しかし、企業にとってオープンアーキテクチャーの採用は、大きな機会でもあり、脅威でもある。どこをオープンにし、どこをクローズドに保てばいいかは、個別の状況に依存するからだ。市場の特性やその企業の強みなどによって、とるべき戦略は変わり、その時々の状況に基づいて、自らの立ち位置を適切にデザインする必要がある。上手くいけば想像もしていなかったような化学反応が起こせるが、失敗すると長年培ってきたノウハウを自ら流出することになりかねない。それがオープン戦略の難しさだ。

では、オープン戦略に参画してくるユーザーやパートナーとは誰なのだろうか。従来のビジネスの枠組みで捉えれば、それは様々な規模の企業や研究所であったりするだろう。しかし、オープン化の本質は、参加できるプレーヤーが「個」にもなる点だ。技術やアイデアが優れていれば誰が参加してもいい、それがオープン戦略の中心にある考え方である。オープンなプロジェクトを担うのは「個」の集合体だ。顔が見え、お互いの価値観を共有し切磋琢磨しあう「人」同士のつながりが、「ソーシャルキャピタル」を形成し、新しい価値を生み出していく。

ソーシャルキャピタルにおけるもうひとつの可能性は、現在社会の根底にある「経済的合理性」の制約から解放され、個人の情熱を、未来をつくる力に変換できる点である。それは経済性の観点では取り組むことのできなかった地方の活性化を含め、企業や行政の活動の間に生まれてしまう「空白」エリアを埋める役割を果たすことができる。成長期から成熟期に入った日本だからこそ、人々の関心は一層、社会課題の解決や生活の質の向上にむかい、緩やかな意思をもつソーシャルキャピタルが蓄積されていくことで、近代化で生じた歪みをゆっくりと修復しながら経済性と持続可能性の新しいバランスをつくりだすのではないか。

オープンアーキテクチャー化された構造が企業、行政、個人を横断的に結びつけ、自分たちが望む未来についての合意を形成し、ソーシャルキャピタルとして主体的な活動を牽引する。誰のためでもない、自分たちの未来を、自分たちでつくるための活動に他ならない。

企業が推進するオープン戦略の進化

今年のグッドデザイン賞を見ていると、日本企業が取り組むオープンアーキテクチャーの姿が、より進化し、深化しているように感じる。例えば部品メーカー大手のミスミは、「Unit Library」で製造業において最も秘匿性の高い「工場設備の設計情報」を公開するサービスを開始した。情報を社内に留めておくよりも、若手への技術伝承や業界全体の効率化に貢献すると同時に、自社の設計思想を「オープン標準」にしてしまう企業としてのしたたかさを両立させているところが優れている。また「HACKberry」や、「OPC Hack & Make Project」は、機器の設計データを積極的に公開し、世界中の開発者やデザイナーをコミュニティに巻き込むことで、製品の機能やデザインの改良・拡充が自立的に進んでいく仕掛けをつくっている。製造プロセスには、3Dデータを公開し、ユーザー個人が3Dプリンターによる製造を促進している点でも、これからの展開が楽しみである。また「MESH」も、製品自体は基本機能に特化し、ユーザーによる電子工作によって多様な展開を可能にしている点で、オープンな取組みのひとつといえる。そこには、複雑化する環境の中で、自社の強みや技術に特化し、それ以外の部分はオープンにしてむしろユーザーやパートナーに委ねるという、新しい割り切りが見えてくる。これは、部品メーカーに事業領域を狭めているのではなく、むしろオープンな形で自社の強みを社会で活用させていくための攻めの戦略だといえるだろう。

個を大きな力に変えるプラットフォームの出現

一方、オープンなフレームワークに集まる「個」が、新しい事業機会を生み出している。「クラウドワークス」は、登録者数65万人にも及ぶWebプラットフォームを通して、個人で働く人たちを対象に、雇用形態に縛られない新しい仕事の受発注を実現している。また、地域活性のための共創プラットフォーム「Blabo!」には13,000人が参画し、鳥取県や宮崎県など豊かな資源を保有する「地方」を活性化にするプロジェクトを生み出している。また、個と行政が一体になって町づくりを推進しているのが、みやま市の取組みである「みやまスマートコミュニティ」。エネルギー問題も含めて、市民と行政が対等な立場で結びつき、町づくりに取り組んでいる。それは、徹底的に分業化して効率と成長を求めた近代に終わりを告げ、ヴィジョンを共有するつながりが核となり社会を動かしていく「未来」を示しているように思われる。

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