物質的な豊かさを追求した結果として、気候変動災害、生物多様性の減少、資源の枯渇などが、私たちの生活にも影響する現実的な脅威として、いよいよ実感されるようになってきた。この問題にデザインはどう応えていくのか。目の前の幸せを追求するためだけではなく、長い目で人と自然が共生する社会を築くことに貢献するためのデザイン。つまり何が「これからのグッドデザイン」なのか、特にそれが問われるのが「地球環境・エネルギー」イシューであろう。
気候変動に対応するためには、地球温暖化効果ガスの排出を削減し、吸収源を増やすなどの緩和策と、すでに現実のものとなっている気候災害に対して地域やシステムのレジリエンス(しなやかな強さ)を高めていこうとする適応策がある。レジリエンスは少々わかりにくい概念だが、危機に対してハードウェアでガチガチに固めて防御するのではなく、一部が失われても全機能が停止しないような自立分散型のインフラシステムや、個々人が自ら行動を判断できるデータへのアクセス、緊急時の行動に対する教育・啓発、コミュニティの強化、行政区を越えて連携するネットワークを日頃から準備しておくなど、発災後にしなやかに社会の機能を回復させるためのソーシャル・デザインと言えばよいだろうか。
緩和策については、日本は工場のゼロエミッション化や、省エネ製品開発に代表される先駆的な取り組みを長く続けており、今年も多くの優れた取り組みが受賞している。しかし、適応策を視野に入れたデザインの取り組みはまだ少ないのが現状だ。2015年、遅ればせながら日本でもようやく、適応計画を国が策定することになっており、今後はこの領域のプロジェクトが積極的に計画され、評価されるようになると期待している。
今年のグッドデザイン賞にも、その予潮を感じさせる事例はあった。「みやまスマートコミュニティ」は、2016年度から本格化する電力の小売り自由化にタイミングを合わせ、自治体が自ら出資して地産地消の再生可能エネルギーを売買する会社を作り、新しいまちづくりをしていこうという日本で初めての取り組みだ。街がエネルギーインフラを自前で持つことで、コストから収益への転換がおきる。得た利益は市民と対話しながら、暮らしを良くするために使うことができるため、行政・市民双方の意識が変わる効果がすでに現れているという。
トヨタのFCV「ミライ」は技術革新のみならず、水素社会の実現に向けたインフラも含めたシステムや、新たな社会価値提案が背景にある。しかし化石燃料由来の電気で水素を作るシステムのままでは問題の根源が解決しない。その問題に取り組んだ東芝の「自立型水素エネルギー供給システム」は、水素の生産に再生エネルギーを使うことで、脱化石燃料型の自立分散型エネルギーシステムの提案となっていた。パナソニックの「ソーラーストレージ」はエネルギーを「つかう」だけだった暮らしから「つくる、ためる、つかう」へのシフトを可視化した商品と言える。日常生活に発電装置と蓄電池が普及すれば、災害でインフラを失っても最低限の安心が得られる社会となる。これらを組み合わせて考えれば、レジリエントなエネルギー社会の姿が見えてくる。
ほかにも防災集団移転後のコミュニティを強くする「石巻・川の上プロジェクト」や、生物多様性回復をテーマにマンション開発の指針を定めた「BIO NET INTIATIVE(ビオ ネット イニシアティブ)」など、レジリエントな社会構築に結びつく可能性を感じる取り組みは少なからず見られた。
さらに言えば、適応策の最たるものは「教育」だと考えることもできるだろう。地域の人や自然との強いつながりを体感しながら育った子どもたちこそが、将来において地域づくりの担い手となって力を発揮する。その意味で、地域材を使って学校の机を自分で組み立てる内田洋行の「地域産材で作る自分で組み立てるつくえ」や、防災緑地の姿を子どもたち自らが考える「久之浜防災緑地について考えよう」などは目を引く取り組みだった。環境危機に対応する社会デザインのためには、不確実性も含めた現実への正しい認識と、過去の常識にとらわれず多領域の知見を統合する高度な知恵とセンス、そしてポジティブでクリエイティブな姿勢が必要となる。今回の応募をレビューしながら、まだ数は少ないものの、その知見が少しずつ積み上がっていると感じることができた。