技術を活かす
働き方を変える
「働き方」とは突き詰めれば、人と社会がどのようなスタイルで相互作用を及ぼすかという「関わり方」であると言うことができます。さまざまな「働き方」が生まれ、消えていく中、人生や仕事のスタイルもまた絶え間なくゆらぎ、消費されています。一方、昨今の「働き方改革」や「ワークライフバランス」の議論の多くは、従来型の働き方を前提とした時間とお金の議論に終始しており、変化のスピードに対応しきれていないように感じます。多くの人や企業が「働き方」のあり方について悩んでいる中、人と社会がどのようにつながり、どのような関係性を作れば「幸せ」になるのかというロールモデルを示唆するデザインの力が求められていると考えています。
学びを高める
学びとは能動的な行為であり、学びのデザインという観点では、e-learningなど情報技術を使って学びの手段を拡張すること、そして空間やファシリテーション、そして子供から高齢者までを包摂できる体系といった、ソーシャルな環境のデザインにより学びの機会を高めること、これら2つの軸が近年注目されてきました。そして、今回は人工知能(AI)を活用したプロダクトやプロジェクトが社会に実装されるようになってきたことで、上記のような能動的な学びとAIとの相性の良さが認識され始めたタイミングだったように思います。
ローカリティを育む
最近の実感として、これまでの日本が先導してきた大量生産と大量消費のサイクルで経済を牽引していくことに限界を感じている人が多いと思います。ここでの変化は、これまでの、土地やモノやお金を所有する豊かさから、コミュニティなど関係資本を大切にしたり、日本の風土や地域の文化などに暮らしを重ねる豊かさです。コミュニティや地域と共に生きる関係欲求は、関係を持ち続ける時間自体が価値なので、時間を経れば経るほど期待値などが上がり、価値が増していきます。そのようなロングテールな関係欲求を充たす、いわば源泉となるローカリティが必要だという考え方は、すでにさまざまな部分で定着しています。そのようなローカリティを「育む」という意識に基づきながら、人間の関係欲求が満たされ、豊かさが連鎖するような場や仕組みを作るデザインが増えているのです。
社会基盤を築く
社会基盤の直英訳であるinfrastructureのinfra-とは、「下の」とか「下部の」という意味があり、社会基盤ということばは、「社会を下支えするもの」とも置き換えられます。伝統的で狭義の社会基盤には、橋や鉄道などがあるでしょう。より上位の社会基盤には、市民生活が底上げされる存在が当てはまります。さらに社会全体や生活をよりよく回す仕組みという意味での社会基盤も重要で、いずれも社会全体に寄与することが前提条件にあるでしょう。
生活価値を見出す
生活価値とは、大げさなものではありません。身近な日用品が、生活における確かな価値の象徴になることもあります。スウェーデンの社会を例にすると、仕事の途中でもお菓子やコーヒーを囲んで談笑する、フィーカという時間があります。些細なことですが、誰もがその場でのコミュニケーションを楽しみにしています。そこではお菓子を載せるのにふさわしいトレイが、豊かな生活価値の証と位置づけられています。特別なものごとでなくても、人々が生きる時間の価値を高めてくれるのです。
共生社会を描く
共生や競争など、ある関係をもったつながりを「系」と言いますが、私は生物学において系を観察する手法を理解することは、企業が関係性を持つ「ステークホルダー」を観察することに直接役立つと考えています。そして、マーケティングでは通常は消費者しか見ませんが、ステークホルダーの系はもっと広い共生関係を持っています。消費社会がもたらした競争の系を先鋭化させると、生き残る人は少なくなります。そうではなく、取り残されたステークホルダーに価値を見出したり、取り残されたものをどうすくい上げるかが、ビジネスはもとより、現代社会全体の重要なテーマであるといえます。言い換えると、今までの系を再構築し、さまざまなステークホルダーがお互いを支え合う仕組みを考えることで、初めて共生社会はデザインできるということです。
インタビュー
Director’s Comment
企業や組織が新たな価値を生み出そうとするとき、「問い」からスタートすることが重要な時代になっていると感じます。例えばオフィスを設計するときに、1人あたりの必要最小限のスペースから生産性を数値化するなど、ロジックを積み上げて発想しようとしても、似通ったソリューションしか出てこないことが多い。また、効率化はできたとしても、まだ見ぬ新しい体験や創造的な価値を生むものはつくれないんです。一方で、デザイナーは異なる方法で思考します。彼らの発想の起点は「そもそも働くってどういうこと?」とか、「人が働く環境に潜在的に求めていることとは?」などという問いになります。デザイナーが持つそのような特性が、いま社会に必要とされているのです。