地球環境と共生
都市と社会基盤
既存の社会基盤を大切に活かし、縮小する社会に向かい合う人口減少が進む地方都市では特に、社会基盤への投資を減らさざるを得ない。都市の資産である既存の社会基盤を長らえさせ、基本的な機能を維持しながらも、その時代や地域に見合ったかたちにデザインし直していく必要がある。
地域社会とローカリティ
デザインとは「問題解決のプロセスである」と私は思っている。これからの時代に必要とされるデザインとは「社会的ミッションに対して、どのように問題を解決できる方法があるのか」、その答えと提案なのではないか、と感じている。では、その「社会的ミッション」とはなんだろうか。地域社会というフィルターを通してみると、人間が危機と感じること、すなわち地方では「人口減少」と「歳入減」を根源とする社会インフラ整備と地域経済の複雑に絡んだ問題であり、都会では「災害」がいちばんの関心事なのではないだろうか。
医療と健康
総合的にみて、今年の審査を通じてまさに医療新時代を実感した。IoT技術やICT(Information and Communication Technology)により医療と健康の界がますます希薄になり、IoTが身近になってきたことがうかがえた。今後は、ロボティクス、AIなども加わり、医療と健康に関する製品がますます多様になりそうで、医療技術における優れたデザインの意味もさらに追求されるであろう。
安心と安全
2016年のグッドデザイン賞を安心・安全の観点でとらえた際の特徴として、災害に対する備えを取り上げた対象がとても多くみられた。地震や台風などの災害に対して「備えあれば憂いなし」の考え方は必須であり、事実、備えによって多くの命が救われることがある。自然が相手である限り絶対的な安全ではないにせよ、一定の安心感が得られる点で取り上げられて然るべきである。一方で、生活における安全は災害に対する備えだけではない。製造物責任法が信頼を作り出したように、デザインが安全を約束することに寄与できることが望ましく、「デザインに約束された安全性が生む安心感」の意義を提言したい。
教育と学び
今、教育の再デザインが求められている。社会の要求に応える新たな学びの提案とも捉えられるデザインが「学びの内容」、「学びの方法」、「学びの環境」という3つの観点から認められ、そのことを教育と学びのあり方の変化として理解したのが前年度であった。そして今回は、それらの変化をさらに「促進」、「創造」、「拡張」するデザインが認められた。デザインの力が教育・学習に浸透した先に、どのような学びが作られるのか。そのさらなる化学反応が楽しみだ。
ビジネスモデルと働き方
100年前、1次産業に従事していた人の割合はどれくらいだったのだろう。その頃より少なくとも世界の人口に占める割合は少なくなっているように思う。その分、仕事があぶれている人が増えているのかというとそうではなく、人はまた新しい仕事をつくっている。けれども今後テクノロジーの進化によって、ますます仕事がなくなればどうなるのだろう?ロボットに仕事を奪われて人の仕事はなくなると予想する人もいれば、今までどおり新しい仕事は生まれていくと考える人もいる。私も新しい仕事が生まれると思うのだけれども、今年のグッドデザイン賞を見ていると、新しく生まれる仕事のあり方というものが大きく変化しているように感じる。
文化と生活様式
自立する多様な個の共生、寛容、オープンで建設的な議論、プロセスの透明化、機会均等、寛容と尊重といった考え方を「生活美学」として呈示すること。換言すれば、民主主義を人々の暮らしのなかに美しく描き出していくこと。その責務を現代のデザイナーは負っている。今年度のグッドデザイン賞においても、こうした視点から評価できる事例がかなり増えている。
技術と情報
私の専門である情報学のサイバネティクスという領域は、システムを構成する要素同士のフィードバック・ループをどう評価し、設計するかということを考える。この観点を社会に展開されたプロダクトやサービスに照らし合わせてみれば、それに触れる人間の行動にどれだけポジティブなフィードバックをもたらすか、という側面を考えることにつながる。今回「技術と情報」というイシューテーマのもとで、プロダクトやサービスを成立させている設計(デザイン)と技術(テクノロジー)という観点に加えて、プロダクトがもたらすサイバネティックなループ構造をも評価したいと考えた。
Director’s Comment
今年のグッドデザイン賞では人工知能やIoT、バイオ技術など、先端科学やテクノロジーに根ざしたプロジェクトにも多く出会った。こうした動きは、確かに私たちの産業や暮らしを一変させる影響力を持っている。しかし、影響力が大きいからこそ、目先の経済価値ばかりを追いかけた短期的なイノベーションに終わらず、長期的に発現する社会価値にも目を向け、地域や地球の問題を解決していく取り組みが増えてほしい。「地球環境との共生」を実現するグッド・イノベーションを生み出す力がデザインにはあると信じている。