地域社会・ローカリティ
社会基盤・モビリティ
2020年に向けて、駅や街路や公共建築だけに限定されないインフラストラクチャーとさまざまなモビリティの外挿によって、東京と地域の風景は大きく引き直されようとしている。都市と地域の中の人々の暮らしや、交流、活動は、こうした風景の変化にどう呼応していくのか、社会基盤とモビリティデザインのこれからについて、今年のグッドデザイン賞から考えてみたい。
地球環境・エネルギー
物質的な豊かさを追求した結果として、気候変動災害、生物多様性の減少、資源の枯渇などが、私たちの生活にも影響する現実的な脅威として、いよいよ実感されるようになってきた。この問題にデザインはどう応えていくのか。目の前の幸せを追求するためだけではなく、長い目で人と自然が共生する社会を築くことに貢献するためのデザイン。つまり何が「これからのグッドデザイン」なのか、特にそれが問われるのが「地球環境・エネルギー」イシューであろう。
防災・減災・震災復興
応募作の全体を通してみると、いわゆるコミュニティ・デザイン系の取り組みが想像以上に多いことが印象的だった。東日本大震災から4年以上が過ぎたとはいえ、まだ復興は立ち後れており、ハードよりもソフトの方が早く立上がりやすいことが、その一因だろう。また3.11を契機に、建築を含むデザインの分野が、コミュニティの問題に注目するようになった実態を反映したように思われる。個人的には、地味で機能的という防災・減災・震災復興のイメージを変えるような試みを今後期待したい。
医療・福祉
医療・福祉は年々社会的関心が高まっている領域である。加えて、ITやロボット技術との融合など、従来の医療製品としての枠がますます広まりつつあるといえる。グッドデザイン賞の対象となる製品についても、ジャンルの垣根をまたぐような製品も増えてくることが予想される。このような医療・福祉分野におけるデザインの意味とは何であるか。外見的な意味でのデザインはもとより、機能の改善、全くの革新性、そして規制をクリアし、適切にその有効性と安全性を社会に対してアピールしているか、これらのポイントを踏まえ、優れたデザインとして何を社会に対して訴求しているのか、その点を明確にしてデザインが担う役割や意義を追求することが必要であろうと考える。
安全・安心・セキュリティ
グッドデザイン賞で取り扱う製品や企画を通じてお客様にご満足いただくためには、お客様一人一人の主観的判断に基づいて安心感を持っていただく必要がある。一方でデザイナーはお客様の安心感を生み出すために、客観的な判断に基づく安全をデザインに備える役割を担うと言える。1995年に施行された製造物責任法の趣旨を鑑みれば役割以上の責任が求められると言っても過言ではない。今年応募された多くの優れた作品から審査によりベスト100として選ばれたものを通じ、そこに見られる安全と安心の傾向を検討すると、私たちが安心感を求める背景にある生活上の不安材料として災害、病気、事故、犯罪の4つが浮かび上がってきた。
情報・コミュニケーション
情報・コミュニケーションのフォーカス・イシューに属するものとしては、デジタル機器とのインタラクションなど、直接人間が操作し機能を引き出す提案が主に応募されている。現状の特徴的な三つの傾向と、若干の提言について記したい。
先端技術
「先端技術とデザイン」について考える前に、そもそも「先端技術」とは何かを改めて整理しておきたい。過去を振り返れば、テクノロジーはいつの時代も人間の様々な能力を拡張し、社会の進化を牽引してきたが、現在の「先端」のさらに先にあるのはまだ見ぬ「未来」である。先端技術に対するデザインが、ひいてはその先端技術そのものが、社会をよりよい方向に前進させ、 人々の生活をより豊かなものにするかは、本当は将来の評価を待たねばならない。また、テクノロジーの進化にも、過去から現在、現在から未来へ続く連続的な進化と、全く新しいテクノロジーの登場や予測不能な事象による非連続な進化があり、それぞれにデザインの役割も異なってくると考えられる。本年度のグッドデザイン賞受賞対象を振り返りながら、そのような連続/非連続なテクノロジーの進化がもたらす未来とデザインの役割について考えてみたい。
ソーシャルキャピタル・オープンアーキテクチャー
オープンアーキテクチャーの強みは、ヴィジョンを発信し共有していくことで、既存の枠組みを超えた幅広いネットワークをつくり、新たな価値や大きな力、そしてイノベーションを生み出すところにある。オープンなプロジェクトを担うのは「個」の集合体だ。顔が見え、お互いの価値観を共有し切磋琢磨しあう「人」同士のつながりが、「ソーシャルキャピタル」を形成し、新しい価値を生み出していく。
教育・伝承
"「19世紀の外科医が現在の手術室にやって来ても何一つ仕事ができないだろう。だが、19世紀の教師がやって来たら、きっと何とかやっていけるだろう。教授法はこの150年で変化していないからだ。」MITメディアラボのシーモア・パパート教授の言葉だ。その状況は日本においても変わらない。農耕社会から工業社会に切り替わるに当たり、明治政府は義務教育を導入した。寺子屋から一斉授業を行う学校へ。急速に工業社会へと向かう日本には教育システムの転換もまた必然だった。そして、工業社会から情報社会・知識社会へと切り替わる今、改めて教育の再デザインが求められている。今回のグッドデザイン賞では、そうした社会的欲求に応える新たな学びの提案とも捉えられるデザインが多々見られた。具体的には「学びの内容」、「学びの方法」、「学びの環境」の3点に関わるデザインであったように思える。"
ビジネスモデル・働き方
メーカーがデザイナーに仕事を依頼する。それが形になって世の中に広まっていく。90年代のグッドデザイン賞を見ていると、こういう仕事を経て形になっているものが多い印象を持つが、今年のグッドデザイン賞では、デザインを依頼する側もされる側も多様になっている。さらに言えば自らデザインし、自ら形にして、世に広めていく形態も増えているように思う。
生活文化・様式
産業とデザインの可能性を見すえていくグッドデザインの、今後の進むべき方向を想定しながら、フォーカス・イシュー「生活・様式」の点から考えてみた。まず、第一に向き合わなくてはならないのは、近未来の日本の産業の動向についてである。
インタビュー
Director’s Comment
多くの方が地域社会やローカリティという言葉から連想するのは、「まちづくり」という言葉に代表される地域社会の再活性化や希薄化したコミュニティの再興だろう。だが、地域社会やローカリティが示す問題の本質は「昔の活気や強いつながりを取り戻そう」ということではない。行政や税制の体制が整ったことにより社会が「生活の個人化」へとシフトした一方で、つながりの希薄化による逆の生きづらさが露呈した現代において、つながりがあり過ぎもせずなさ過ぎもしない「いいあんばいのつながり」と、適切に疎らである「適疎」の状態とはいかなるものかを考えることなのである。このように書くと「コミュニティをいかにして形成するか」というソフトの問題と思われがちだが、コミュニティが機能する空間が新たな活動を生み出すという効果を考えると、ソフトだけではなくハードも踏まえた両輪によるデザインが重要となる。この前提をもとに地域社会とローカリティの2つの視点から今年のグッドデザイン賞を概観してみたい。