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事業経緯

2011年度のグッドデザイン賞は、昨年度に引き続き、審査委員長に深澤直人氏、副委員長に佐藤卓氏のもと、3月11日に発生した東日本大震災の影響を鑑み、例年より1ヶ月遅い5月より実施しました。

深澤審査委員長からは、本年の審査の方針として「適正を問う」ことが挙げられ、いまこそデザインが生活に根ざした適正な解を見出す力となるべきとのメッセージが示されました。

グッドデザイン賞の審査理念

人間(HUMANITY)もの・ことづくりへの創発力
本質(HONESTY)現代社会への洞察力
創造(INNOVATION)未来を切り開く構想力
魅力(ESTHETICS)豊かな生活文化への想像力
倫理(ETHICS)社会・環境への思考力

本年は、審査の考え方と運用の方法を示すために「審査の視点」を公開しました。

2011年

5月2日 2011年度グッドデザイン賞開催要綱等の公開
グッドデザイン賞のウェブサイトを通じて、事業概要を公表しました。
5月18日~7月4日 グッドデザイン賞の応募受付開始、グッドデザイン・フロンティアデザイン賞、および、グッドデザイン・ロングライフデザイン賞の推薦受付。
7月6日~19日 一次審査期間
応募された対象を複数のユニットにわけ、一次審査を行いました。
7月20日 一次審査結果通知
7月28日~9月6日 二次審査期間
ビッグサイトで行う二次審査会以外にも現地審査、ヒアリング審査などを実施しました。
8月25日、26日 二次審査会
一次審査を通過した対象に関して、現品や説明用資料を用いた審査を実施しました。
タイ・デザインエクセレンス賞との連携に基づく応募について、担当チームにて審査を実施しました。
全審査委員による金賞、大賞候補の選考を行いました。
8月26日~28日 「グッドデザインエキスポ2011」開催
東京ビッグサイト東5、6ホールを会場に、二次審査対象デザインや企業ブース等を出展。3日間でのべ42,359人の来場者を記録しました。
9月7日 二次審査結果確定会
二次審査結果の確定と、各審査ユニットで行われた特別賞審査の内容について確認しました。
9月14日 二次審査結果通知
10月3日 受賞発表、受賞展「グッドデザインエキシビション2011 -適正-」開始
2011年度受賞結果を発表しました(同日の発表ができない一部対象を除きました)。
東京ミッドタウン・デザインハブで受賞対象の展示会「グッドデザインエキシビション2011 -適正-」を開催(会期:11月13日まで)。
10月~11月 審査報告会
本年度応募者を対象に、本年度の審査に関する報告を審査ユニットごとに審査委員から行いました(ユニットごとに開催日時が異なりました)。
10月中旬 特別賞審査会
全審査委員およびゲスト審査委員を招集し、特別賞審査会を実施、全ての特別賞を確定しました。
10月14日 グッドデザイン大賞候補発表
特別賞審査会で選出した本年度グッドデザイン大賞候補を発表しました。
10月28日~11月6日 グッドデザイン大賞投票
審査委員、本年度受賞者および受賞展来場者によるグッドデザイン大賞への投票を実施しました。
11月9日 グッドデザイン賞表彰式
本年度受賞者への表彰をおこなうとともに、特別賞受賞者を発表、表彰しました。
2011年度グッドデザイン賞審査委員長メッセージ(2011年5月公開)

2011年度グッドデザイン賞にむけて

この度の東日本大震災で被災された皆様、ご関係者の皆様に、心からお見舞い申し上げます。

日本中の人々がこの未曾有の災害に直面し、生活の価値観に対する思いを改めて見つめ直しています。一人一人が今自分にできることを真剣に考え、豊かさとは何か、幸せとは何かを感じ直しています。

デザインの善し悪しの判断は、常に生活の価値観やその時々の人々の豊かさの定義にそって問われてきました。
節電で暗くなった今の都市の夜を、不思議と悪く言う人はいません。むしろ過剰だった今までの明るさを振り返り、これでも暮らせるという「適正さ」を自覚しているかもしれません。しかし過剰に明るかったあかりをただ間引いても、寂しいだけで美しくはありません。北欧の街の灯のように、美しい暗さができて初めて街に適正な明るさの調和が生まれると言えます。

デザインは、常に「適正」を問い続けることだと思います。デザインは、常に「適正」という美の軸を中心に揺れています。そして今は「適正」だと思い込んでいた軸の位置を、大きくシフトしなければならない時期かもしれません。
そういった意味でも、今年のグッドデザイン賞は今までとは少し異なった選定の基準になるでしょう。今までよりも、さらにサステナブル(持続可能)なものが必須になるでしょうし、明らかな無駄は排除し、ゴミにならず、未来に対して繋がっていくものでなければなりません。そしてまた、自然を押さえ込むのではなく、共存していく知恵がこもったものであることが問われるでしょう。

デザインは、こういった災害の前でも決して無力ではありません。常に生活に根ざした適正な解を見出す力となるデザインの価値を、忘れてはならないと思います。

 
深澤 直人

グッドデザイン賞審査委員長
深澤 直人


審査の視点(2011年5月公開)

1)グッドデザイン賞の審査

グッドデザイン賞は、デザインを通じ、私たちのくらしを、産業を、そして社会全体を、より豊かなものへと導くことを目的としたデザイン推奨制度です。
私たちは日々様々な活動を展開しています。そこにデザインという思考・方法論が導入されれば、それらの活動はより人間的で豊かなものに変わっていくはずです。そのためには、まず見本となる「よいデザイン」を提示していくべきである。そのような思想を踏まえて、グッドデザイン賞は1957年に生まれました。以来半世紀を超えて、「よいデザイン」を毎年選び続けてきました。

21世紀を迎え、グッドデザイン賞の役割は大きく変化しています。20世紀の産業社会では、デザインは産業や企業が経済的な活動を営む手段として活用されました。つまり「よいデザイン」を提示する対象は、ほぼ産業に限定されていたのです。しかし、21世紀の社会では、デザインの活用は産業分野に留まりません。むしろ、私たち一人一人が、生活者として労働者として、そして社会の一員として、「よい人生」をおくり、成熟していくための思考・方法論として、デザインの重要性はさらに増しています。

グッドデザイン賞の審査は、様々に展開される事象の中から「よいデザイン」、つまりくらしを、産業を、そして社会全体を豊かに導くであろうデザインを選び出すことです。前述のとおり「よいデザイン」をもって呼びかける対象は、今やほとんどすべての人々へと拡大しています。従って「よいデザイン」の範囲も、いわゆる産業活動だけには留まりません。またさらに、その成果を誰もが指針として活用できなければ、「よいデザイン」はその存在意義を果たせません。
そこでグッドデザイン賞では、「よいデザイン」を誰もが参考にできるよう、制度の立ち位置を産業から生活・社会へと踏み換えるとともに、その「よさ」をわかりやすい言葉で伝えるために、審査の考え方と運用の方法を改めました。

2)グッドデザイン賞の理念

グッドデザイン賞は、人間の様々な活動においてデザインが活用されることで、その成果をより豊かに導こうとしています。またそのことで、人間そのものをより成熟させたいと願っています。
ただし「豊かさ」の質は、時代時代で変化します。この制度の発足当初からみても、物理的な満足から精神的な充足へ、また個人の充実から地球規模の連帯へと変化してきました。当然デザインの果たすべき役割も、それにつれて進展してきたと考えられます。

グッドデザイン賞の審査の目的は、それぞれの時代に求められる「豊かさとは何か」、あるいは次世代に向けて「どのような豊かさを指向すべきか」を、具体的な事例の顕彰を通じて提示していくことにあります。従って、審査の基準は、時代によって変化してきましたし、また今後も進化していてくべきだと考えています。
しかし、デザインという極めて人間的な思考に立脚している以上、その根源的な部分は、変わりようがありません。
それを、グッドデザイン賞では、5つの重要な言葉を通じて「理念」として提示しています。

人間(HUMANITY)もの・ことづくりを導く創発力
本質(HONESTY)現代社会に対する洞察力
創造(INNOVATION)未来を切り開く構想力
魅力(ESTHETICS)豊かな生活文化を想起させる想像力
倫理(ETHICS)社会・環境をかたちづくる思考力

ここに掲げた言葉を一つの文章にすると、「人間のために、高い倫理性を踏まえ、ものごとの本質を見据えたうえで、魅力的な創造活動をおこなうこと」となります。追求される豊かさの質がいかに変化するにせよ、このデザインの思想は普遍です。そして、この言葉はグッドデザイン賞が掲げる「グッドデザイン」の定義でもあるのです。

3)審査の視点

グッドデザイン賞の審査は、審査対象(原則的に現品)を前に、複数の審査委員によっておこなわれます。上述の理念を念頭に置きながら、応募されたデザインのコンセプトを聞き、そのかたちを観察し、そのデザインが「くらしを、社会を、豊かにすると想定できるか」を問います。

この審査にあたっては、応募された提案を汲み取る力が強く求められますが、その力を誘発するためにも、「複眼的思考」が重視されています。
デザインとは、単焦点的な思考ではなく、焦点をずらしながら問題を発見し解決していく、複眼的な思考であるように思われます。例えば、その審査対象の直接的な用途や機能にのみ目を向けるのではなく、社会や地球環境に与える影響といったマクロな視点、それを使う生活者の心理的側面といったミクロな視点からも考察されなければなりません。

そこで、具体的な審査にあたっては、それぞれの評価をおこなうべく、1)身体、2)生活、3)産業、4)社会・地球環境 という4つの視点から捉えた、「審査の視点」を用意しています。

審査の視点

(1)身体的視点

  • 安全への配慮がなされている。
  • 高齢者身体障害者等の弱者への配慮がされている。
  • 使いやすさ・解りやすさ、親切さがある。
  • 長く使えるデザインがなされている。
  • 使用者の創造性を誘発する提案がなされている。

(2)生活的視点

  • 新しい作法、マナーを提案している。
  • 使用環境・生活環境への配慮が行き届いている。
  • 家族やコミュニティのあり方についての提案をしている。
  • 新しい働き方や社会参加の仕方を提案している。
  • 次世代のライフスタイルを創造している。

(3)産業的視点

  • 新技術・新素材をたくみに利用し課題を解決している。
  • デザインの新しい活用の仕方を導いている。
  • 新しいものづくりや提供の仕方を提案している。
  • 新産業、新ビジネスの創出に貢献している。
  • 産業・企業の新しいスタイルを提案している。

(4)社会・地球環境的視点

  • 人と人の新しいコミュニケーションを提案している。
  • 社会・文化的な価値を創造している。
  • 社会基盤の拡充に貢献している。
  • 国際社会の協調と発展に貢献している。
  • 持続可能な社会の実現に貢献している。

これらの言葉は、いわゆる評価項目ではありません。そのデザインを審査するにあたって「複眼的な思考」を呼び覚ますための言葉です。
例えば、ある提案が、「新しいものづくり」を提案していたとしても、それが「安全への配慮」に欠けていたら、「よいデザイン」とは言えません。またそれが「次世代のライフスタイル」を予感させても、「長く使えるデザイン」とは考えられない場合、それは「社会・文化的な価値」を創出したと言いうるのか。上述の言葉は、こうした審査委員の思考と討論を助けるための視点です。

4)グッドデザイン賞が求めているもの

グッドデザイン賞は、いわゆるデザインのコンクールではありません。
一般的なデザインの評価制度は、そのデザインが上手いか下手かを評価しています。しかしグッドデザイン賞は、そのデザインが、「くらしを、社会を、豊かにしうるのか」という視点、つまりデザインの効果・効用という視点から評価をおこなっています。

デザインは生活に根ざした思考であり、生活に密着した様々なものごとを生みだす具体的な方法論です。したがって、極めて優れたデザインが登場しても、それだけで生活や社会を豊かにしていくことはできません。その効果・効用を取り出し、その次に登場するデザインを継続的に生み出していかなければ、豊かさは達成できない。そうした大きなうねりを作りだす装置が、グッドデザイン賞という制度なのです。

21世紀の社会は、デザイナーだけではなく、私たち一人一人がデザインを必要とし、デザインを実践していかなければならない時代です。
グッドデザイン賞は、理念として「人間・本質・創造・魅力・倫理」という言葉を掲げました。そしてこれらの言葉は、「創発力・洞察力・構想力・創造力・思考力」という、人間の基本的能力に対応しています。選ばれた「よいデザイン」は、こうした人間の基本的な能力を活かして生み出されたものです。その「よいデザイン」を見本とすることで、私たちの基本的な能力が呼びさまされていく。その能力向上が、様々な活動領域で次の「よいデザイン」を生み出していく源泉となる。グッドデザイン賞は、そうした「創造の連鎖」を求めた呼びかけでもあるのです。