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審査講評

ユニット8:モビリティのデザイン
山村 真一 インダストリアルデザイナー

今年度のモビリティの応募状況は、昨年より対象とする範囲がさらに広くなった印象である。航空機、新幹線、建設機械等の大型の対象から、消防車や清掃車等の公共用途車輛、そして、いまなお日本の産業の重要な担い役でもある乗用車、二輪車、自転車、ボート、さらにそれらを支えるタイヤ、メーター、空調機械、用品、工具や、プラグイン充電器等、その範囲にはまさしくこれからの多様化する交通社会の到来が予感させられた。その中でも特に、自転車とそれを取り巻く商品の応募件数の多さに驚かされた。これは3.11の東日本大震災によるところが強いだろう。震災直下の油断、パニック、福島第一原子力発電所の爆発事故によるエネルギー源の見直し、そして社会全体の価値観の変化と、大きく高度成長時代から系譜するライフスタイルそのものが総括される流れの中と、今年のグッドデザイン賞の開始時期が同じであったことも要因だろう。例年と異なる点として、自動車産業から例年に見られる応募が、いくぶん控え目であった。この要因は国内自動車産業各社が、やはり東日本大震災での大きな影響に加えて、上がり続ける円高の波による、厳しい状況から新機種への投入にブレーキがかかったことによるところが大きいと思われる。今年は昨年に比べて、海外からの応募は増えてきている。乗用車、自転車、タイヤ、部品等で海外からの応募が増え続けていくことは、日本からグッドデザインを選び発信していく「Gマークの波」が世界に広がり定着しつつということで、日本の企業やデザイナーにとってもますます錬磨の度合いを増している。
今回は、応募が多かった自転車群の中から、ユニークな趣旨の対象を取り上げて、自転車の将来を考える公開プレゼンテーションが開催されたので記しておく。ブリヂストンサイクルのお母さんと幼児ための「ハイディビー」、スカラバイクの究極の品質をめざした「サクレ」、テコデザインと宇賀神溶接工業所のユニバーサルなハンドサイクル「ハンドバイク」、デンマーク生まれの3ウェイサイクル「トリオバイクモノ」の四機種がその対象となった。スポーツ、ユニバーサル、子供用と多様な分類であったが、アシスト自転車あり、三輪車あり、進化しつつある自転車交通のシステムと低炭素化社会の波を予知させられる公開プレゼンテーションであったことを特筆したい。これとともに四輪車の応募対象でも、低燃費をテーマに開発されたハイブリッドタイプの応募が目立ち、二輪車においてもEV(電気)バイクが多く、さらにそれらを充電するためのプラグイン充電スタンドも数点あるなど、まさしく次世代モビリティ環境を予感させられる意味深い内容であった。