私たちは日々生きて行くために、新しいものを生み出して行かなくてはなりません。技術的に新しいものもあれば、生活者にどう理解され届けられるのかという点に重きが置かれるものもあります。グッドデザイン賞は毎年、3,000を越す商品や作品の応募があります。本年度は,これらをどのように捉え,どのように審査していくのかについて議論をし,枠組みを検討しました。
審査の領域を今一度見直しました。グッドデザイン賞は創設されて50年を越えました。創設期を振り返ってみると,戦後の経済復興の一助として産業振興的な色合いが強かったといえます。良いものを生み出す方向を示すことで、我が国の産業力の強化に大きく貢献し得たと思います。
しかし、単に輸出振興ばかりに目を向けていれば良い時代は過ぎ去りました。我が国を取り巻く情勢は,より複雑かつ高度になってきています。大きな変化を前にしている予感があります。コンピューターネットワークを中心とした高度情報化社会,人類が未だ経験のしたことのない少子高齢化社会,出口の見えない環境問題。こうしたさまざまな問題とデザインがどのように向き合ったらよいのか、もう一度真剣に考える必要があります。
今年度は,将来を見つめて新たな試みをすることとしました。生活者、それも近未来の生活者の立場に根ざした評価を行うことを考えました。近未来の生活者の立場から、現在の応募作品を評価しようという取り組みです。
これまでであれば、たとえば家電製品であれば、単体の電気製品としての性能向上やデザインの高さを追求してきたわけですが,反面,製品がどのような空間に置かれるのかといった視点はありませんでした。生活産業でありながら,家電は家電として開発されてきたのです。家具やインテリア用品、住宅そのもの、それぞれ個別のアイテムとして開発されデザインされてきたのです。
私たち審査委員の中では、近未来の生活像がある程度共有化されていることを前提に、真ん中に人間を置こう、人間の生活を中心に置こう、ということになりました。これが今年度のグッドデザイン賞の最大の挑戦です。中心に身体・生活領域があり、その周りに産業・社会の領域がある。そして、それらを横断して作用する移動・ネットワーク領域がある。こうした枠組み造りをし、視点をはっきりさせることで、審査の軸が強くなったと思います。
また、このたびロングライフデザイン賞をリニューアルし、ライフスケープデザイン賞を新しく創設しました。これらの賞には、未来を見ると同時に過去を見つめ、デザインのあり方を今一度問い直す、というメッセージが託されています。
いま、社会は経済をはじめさまざまなことが起きてきています。社会変革の大きな波が押し寄せつつあります。先頃ノーベル賞を受賞した益川敏英氏も、一昔前は天然資源に乏しい日本は知的資源を国策の根幹に据えなければいけないという考え方が強くあった、と述べられていました。デザインは物理的資源に恵まれない我が国の重要な知的資源のひとつであり貴重な財産です。しっかりと未来を見つめて再構築していく必要があります。
近未来に向けてこういうものが必要なのだ、そういった声が今後とも数多く届けられることを期待しています。
(2008年10月8日に開催されたプレス発表会の発言より)