2002年度グッドデザイン大賞候補

■モエレ沼公園(住所:札幌市東区丘珠町605番地ほか)
受賞番号 02B11012
応募企業名 札幌市役所
プロデューサ 札幌市環境局緑化推進部
デザイナー マスタープラン:イサム・ノグチ/監修:イサム・ノグチ財団、ショージ・サダオ/設計総括:アーキテクトファイブ
■概要
札幌市北東部で造成を進めている市内最大の総合公園(計画面積188.8ha)である。モエレ沼公園はゴミ埋立地の必要に迫られていた清掃事業とあいまって、1979年からゴミ埋立地として使用した後、土地の有効活用を図るために1982年から公園基盤造成に着手した。ゴミの埋立てが続いていた1988年3月、本市事業への参画を求められた彫刻家イサム・ノグチが候補地として提示されたこの地を初めて訪れた。現地を実際に見て強い創作意欲を燃やした氏に、札幌市は公園の設計を正式に依頼、精力的に設計作業を行なった氏は同年11月にマスタープランを完成させた。その年の暮れに氏はニューヨークで急逝するが、氏の遺志を受け継ぎ、イサム・ノグチ財団・ショージサダオ氏の監修のもと、マスタープランづくりに協力したアーキテクトファイブが設計総括をする、という体制での公園造成が翌年から本格化した。2002年現在、「プレイマウンテン(高さ30mの人工の山)」などの約8割の施設が完成しており、今後「ガラスのピラミッド」「中央噴水」「モエレ山(50mの人工の山)」などの大規模施設が順次完成し、氏の生誕100年にあたる2004年に公園全体が完成する予定である。
■デザイナーの思い・主張
まだゴミの舞い散るモエレ沼の現地を訪れたイサム・ノグチは、「ここにはフォルムが必要です。これは、僕のやる仕事です。」と、この公園の設計に携わる情熱を多くの人に語っていたという。1933年、ニューヨークに「プレイマウンテン」を提案して以来、抱きつづけた大地と彫刻とを関連づけるアイディア、そしてまた「(彫刻が)人の役に立つこと=彫刻に人間性をもたらすこと」を創造の根底に置いた氏の長年に亘る創作活動の集大成ともいえる作品がこのモエレ沼公園である。公園全体が「大地に刻まれたひとつの彫刻である」と考えられており、北海道の広大な大地を象徴するかのような大胆な造形、巧妙に意図された軸線や幾何学的な形態で構成され、それは同時に子供たちに捧げられたプレイグラウンドである。「人間と自然との関係ができないと、人間はかわいそうなものになる。」との言葉をイサム・ノグチは残しているが、まさにこのモエレ沼公園は「自然(大地、宇宙)と人間との関係」を強く意識した壮大なランドスケープであり、そしてその中で子供たちが生き生きと遊び回ることのできる世界なのである。
■大賞選出に向け特に評価を求めたいポイント
公園という極めてパブリックな都市空間が、20世紀を代表するひとりの芸術家の関わりと、氏の没後10数年の長期に亘り情熱をもって設計を引き継いでいるデザイナーの尽力と行政側の継続した取り組みにより、世界的にも注目を集める壮大なスケールの環境芸術作品・子供のためのプレイグラウンドとして成立し、市民のより良き生活のために大きく役立っていることを評価していただきたい。そして同時に環境的な側面では、今世紀の大きな都市問題のひとつであり、いわゆる迷惑施設となっているゴミ埋立地が、デザインの力により都市に風格を与える人々のための環境へと生まれ変わったことを評価していただきたい。個々の施設においても、センターハウスである「ガラスのピラミッド」での環境負荷を低減するための、雪を利用した冷房システムの採用や、水遊び場「モエレビーチ」でのサンゴやバクテリアを用いた水浄化システムの採用など、イサム・ノグチのエコロジカルな設計思想を継承した施設づくりを行ってきているのである。
■審査委員のコメント
モエレ沼公園は、1988年に84歳で亡くなった偉大な芸術家イサム・ノグチの最後の仕事として、未完のまま残った。建設は死後も続けられ、ノグチを慕う人たちの輪はこの巨大プロジェクトを細部に至るまで高い密度で作り上げた。かってはゴミの投棄場として見向きもされなかったこの場所が、人々が憩う美しい公園へと生まれ変わった。公園全体が、ノグチの自然や芸術に対する思考の集大成であり、黙示録になっている。モエレ沼公園は、彫刻であり、デザインであり、建築であり、ランドスケープでもある。それらすべを突き抜けているのは、芸術という創造し続ける精神だ。(内藤 廣 審査委員

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