GDA2002 WINNERS 審査委員・審査講評 賞の構成 大賞 エコロジー賞 中小企業庁長官賞 ロングライフ賞
主催者あいさつ グッドデザイン賞 大賞選出過程 ユニバーサル賞 日商会頭賞 表彰式レポート
受賞結果速報 グッドデザインプレゼンテーション2002 金賞 インタラクション賞 審査委員特別賞 アンケート結果
審査講評
建築・環境デザイン部門 建築ユニット
部門長・ユニット長 芦原太郎

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美と結びつくデザイン
デザイン活動の領域は拡大を続け、その対象も色や形のデザインから、生活提案や関係性・システムデザインにまで多様化してきている。建築デザインの場合においても、単なる物質的な構築物の概念を超えて、ソフトや活動そのものにまで領域を広げてきている。
昨年、グッドデザイン大賞を受賞した「せんだいメディアテーク」は、そうした最近の傾向を良くあらわしていた。建築の社会性についてもこの部門の創設以来ずっとその重要性を強調してきたが、今ここで、改めて問い直したいことは、果たして現代の我々は美しい建築、あるいは美しい都市を作ってきたのであろうかということである。
日本の建築近代化の流れを見てみると、明治大正時代に近代化のシンボルとしての西欧建築様式の「美」を熱心に採り入れようとしていたが、その後の関東大震災以降は地震や火事に「強い」建築技術を発展させる事に重点が移ってしまった。
戦後の高度成長期には住宅や公共施設が短期間に数多く作られ、人々の「用」に供する建築の姿が様々な展開を見せてきている。
今一度「美」を見直し、美と結びつくデザインを追求してみるところに、強度や機能性だけでは満たされない、心に響く建築の姿があるはずだ。
建築の性能、機能、社会性はもちろんであるが、「美」と結びつくアーキテクチュアルデザインを、エクセレントデザインとして今回のGマークでは特に重視したいと考えた。


受賞作品について

本年度の応募対象を見てみると、長引く不況により投資がおさえられている状況を反映してか、公共施設や生産施設は、質や量ともにあまり元気を感じられなかった。
一方住宅系の応募は多く、建築家による個別設計からハウスメーカーの工業化住宅、ディベロッパーのマンションまで幅広く応募対象が集まった。

・工業化住宅
ミサワホーム(株)の「CENTURY」は、その土地の気候、風土に合わせて微気候調整が可能なパッシブ設計手法を積極的に採用している。その運用にあたっては日本全国の気候風土を細かく区分けして、個々の地域ごとに詳細な運用マニュアルを作成している。従来のハウスメーカーは高気密、高断熱という性能にこだわりがちであったが、この住宅では日本の風土や生活スタイルにも目を向けて商品づくりを行っていこうとする企業の姿勢を評価したい。
また、同社の「SMART STYLE」は、自分サイズの暮らしを賢く手に入れるというコンセプトのもとにローコストでカジュアルな生活スタイルを提案している。
憧れの西欧の邸宅風に豪華に見せることを競っていた状況に対して、ハウスメーカーがユーザーにとっての自分らしい生活や日本の風土に根ざした美といったものに注目してきたことは日本の住宅産業が健全な方向に向かっていることを示しているものである。

・マンション
マンションは、特に最近デザインに対する感心が強まってきている。高級化、大型化、個性化が進むとともに、質の向上に向けての様々な努力が払われている。
室内だけでなく、その眺望や共用施設やサービスの質、景観や街並の「美」に至るまで配慮されるようになってきたことは良い傾向といえるであろう。スケルトン・インフィルやコーポラティブハウスの考え方も登場してきている点は、個性化するユーザーの要求への対応を目指した新しい動きである。

・金賞の「9坪ハウス」
「9坪ハウス」は、増沢 洵氏の名作を40年の時を経て小泉 誠氏が巧みにリメイクしたものである。戦後の最小限住宅を、現代のカジュアル感覚にフィットした新しい住宅に転化する事に成功している。広さや豪華さに憧れがちな家づくりに警鐘を鳴らし、簡素ながらも快適な暮らしのイメージを提示しシンプルな生活の美学をしめしている点を評価した。
販売システムは、「9坪ハウス」の思想とともに価格付きプロトタイプデザインをWeb発信している点と、ライフスタイルをトータルにフォローする点が、ユーザーにとって従来と違う「デザイン住宅」という選択肢であり、デザインを一般により身近なものにしていく上で大いに期待したい。


新しい息吹を育てるデザインのシーズ

グッドデザイン賞を受賞する対象は様々なジャンルにわたる建築であるが、その中には明らかに新しい時代の息吹を感じられる価値観に支えられた建築のいくつかの傾向をみいだすことができる。

・ライト・アーキテクチャー(軽いカジュアル感覚の美学)
若手建築家の住宅や小規模のビルに最近よく見られる、軽さを持ったシンプルな建築である。等身大の自分やカジュアルなものに価値をおいた生活美学に支えられた空間は、新しい時代の空気を感じさせてくれた。

・リ・アーキテクチャー(昔のものを大切にする気持ち)
リノベーション、リフォームにより古いものの良さを現代に上手く再構成させた建築である。昔のものを大切にする気持ちが見直されてきた事もあるが、リサイクルや環境負荷軽減などの点からも注目されてきている。古いものをうまく現代に生かすことが心地よく新しい感覚だという美意識まで登場してきている。

・オープンマインド・アーキテクチャー(利用者の自発性に基づく意志)
建築のハードのみならずソフトにまでデザインを拡大していく傾向の中で、生活者、利用者の自由な使い方を許容し誘発するような建築が求められてくる。
利用者の自発性に基づく意志に応じて、フレキシブルに対応できる建築の姿が、新しい時代の息吹を感じさせてくれていた。

次年度に向けて、こうした建築の新しい時代を築いていくシーズを大いに奨励するとともにに今後ますます成長していく事を期待したい。