GDA2002 WINNERS 審査委員・審査講評 賞の構成 大賞 エコロジー賞 中小企業庁長官賞 ロングライフ賞
主催者あいさつ グッドデザイン賞 大賞選出過程 ユニバーサル賞 日商会頭賞 表彰式レポート
受賞結果速報 グッドデザインプレゼンテーション2002 金賞 インタラクション賞 審査委員特別賞 アンケート結果
審査講評
商品デザイン部門 審査ユニット10
ユニット長 森田昌嗣

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この審査ユニットは、パブリック要素─都市・公共施設、医療・社会福祉施設、教育施設、安全・セキュリティ、公共交通・インフラストラクチャー等に関連する設備、機器、システム─が審査対象である。これらのデザインには、社会的資産となる公共財・生活財としての価値形成が求められる。使用環境を考慮した誠実なデザインであるか、パブリックな課題解決として適切な方向を示しているか、そして社会的価値を誘発しているか、が審査の基本的な判断基準となる。例年と同様に、設備や装置、機器から空間、そしてシステムに至る多種多様な応募があり難しい審査となったが、4点が特別賞を受賞するなど全体的にレベルが向上し、特に中小企業から応募された派手さはないがキラリと光る着実な取り組みが高く評価された。
エコロジーデザイン賞の「屋上緑化パレット(ニッケンメタル)」は、予め養生された植裁と土をセットした発泡ポリプロピレン製のパレットを敷き並べ、専用の連結具で固定するだけで屋上緑化できるシステム製品である。評価のポイントは、すべてリサイクル可能な素材の選定、軽量で断熱性に優れ躯体補強なく短時間で施工できるパレット設計、屋上緑化に適した植裁計画、そして建築空間との適応性まで一貫した「関係のデザイン」の結実にあり、ヒートアイランド現象への対策の有効な手段の一つになるものと期待される。
ユニバーサルデザイン賞の「規格形エレベーター(日立製作所)」は、機能と形態をレディーメードすることで、低価格でもさまざまな設置環境に対応できる簡潔でニュートラルなデザインを実現している。特に、不特定の人々の利用に対応できる操作部や手すりなどのわかりやすさと使いやすさを追求し、規格形エレベーターであっても建築デザインへの選択肢をひろげるなど、ニュートラルなデザインによって環境の多義性に適応させた優れたパブリックデザインといえる。
中小企業庁長官特別賞「環境保全型ブロック(東横テクノプラン)」は、通常コンクリートで固められる擁壁、土手などの土木構造物に自然環境を取り戻す復元工法を可能とした新構造体である。板状部材と連結用支柱ブロックの組み合わせにより積み木のように土手を構築し、板と支柱の間の空隙に現地発生土を充填し一体化する工法で、その土の部分から植物が生育し土手全体が緑化される仕組みとなっている。ブロック自体の多孔体によるビオトープ製品が多い中で、製品自体が土木構造体となるブロック形状の考案から産学協同体制による強度検証など、景観や生態系を考慮した要素が全体を構築する新たなビオトープ工法のモデルとなるデザインといえる。
「透明盾(ナンワ)」もこの審査ユニットから中小企業庁長官賞を受賞した。機動隊等が使用するポリカーボネート製のこの盾は、これまでの金属製盾の課題であった軽量化と視認性の向上を実現している。またグリップの握りやすさと収納性を備えるなど、公共財の基本である機能と形態を簡潔に融合させたことが評価された。
この他「デジタル顕微鏡(オリンパス光学工業)」が、顕微鏡の応用範囲を広げ、より身近な体験学習の教育機器にまとめたことから金賞候補となったが今一歩及ばなかった。より精緻なディテールデザインなど今後の展開を待ちたい。またグッドデザイン賞には、特別賞候補に検討されたスタッキングチェアやサイン、照明システムなど、機能と形態の両面でバランスのとれたデザインが増えており、公共環境の向上を目指すメーカーの意気込みが感じられた。
逆に受賞を逃したものには、機器や装置の機能を工夫している反面、それが形態に活かされていない、あるいは機能とは関連のない表層的な造形処理が施されているなど、機能と形態の不一致が多く見られた。また医療・福祉機器は、単体のデザイン精度の高さは評価されたが、現物の展示ではなくパネル主体の展示のために操作性や置かれる場所と使用者との関係などが把握しづらく、内容が理解できる動画等のプレゼンテーション手法の必要性が指摘された。
パブリック要素のデザインは、公共性をふまえたデザインが望まれる。公共性には、レジビリティ(わかりやすさ)とアンビギュイティ(多義性)の両面からアプローチすることが必要である。レジビリティな公共性は、機器や装置の性能を的確に使用者に伝える役割があり、奇をてらった造形処理ではなく必然性のある真摯な形化のアプローチである。一方アンビギュイティな公共性は、要素を単体のみでとらえずに場との関係を探りながら、その場の環境特性に呼応する固有のアイデンティティを構築するアプローチである。今後もより一層、優れた社会的資産形成の役割を担うパブリック要素のデザインには、レジビリティな素直さの造形にアンビギュイティな趣を醸し出す大人のデザインを、そして要素が人と環境のより良い関係を結びつける仕組みのデザインを探求し続けることを期待したい。