GDA2002 WINNERS 審査委員・審査講評 賞の構成 大賞 エコロジー賞 中小企業庁長官賞 ロングライフ賞
主催者あいさつ グッドデザイン賞 大賞選出過程 ユニバーサル賞 日商会頭賞 表彰式レポート
受賞結果速報 グッドデザインプレゼンテーション2002 金賞 インタラクション賞 審査委員特別賞 アンケート結果
審査講評
商品デザイン部門 審査ユニット5
ユニット長 池上俊郎

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今回審査にあたって最も強く感じたことは、変化の激しい今日にあって時代に流され、ステレオタイプ化された商品は否定されようとしていることである。逆に、高い評価を得たものは、社会的課題のデザインによる解決や、多様なユーザーニーズをいかに先行して商品化するかに真摯に取り組んだものである。それらは、(1)環境問題に対する取り組み、(2)心地よい機能の提供、(3)形態が室内において形成する強い空間の訴求力向上性の再獲得、(4)未来の生活スタイルの模索、(5)従来技術を転用した新しいチャレンジ、として現れた。
デザインは“構想−技術−美学”の3要素を中心に展開する。個別の商品は総合性によって商品化されることもあれば、個別方向性の比重が高いこともある。「発想は良いけれどいまひとつ形の詰めが……」「技術的にはしっかりとできているけれど……」「ユニークな形ではあるけれど華奢だな……」。本来デザインの課題はユニークな解をこれらの方向性で総合的に提出し、社会の前進を精神的、技術的、美学的に進めることである。古典的な言い方であるが、生活スタイルを革新、あるいは前進することである。このようなデザイン観をもとに、審査を進めるにあたっては、特に「生活スタイルの革新性」に注目した。
以下、高い評価を得た商品の解説を行ない、商品価値と市場の創造について理解していただき当審査ユニットの審査報告としたい。
東芝ライテック株式会社のレフランプ「ネオボールZ」は、大賞候補にノミネートされたエコロジーデザイン賞受賞商品である。電球型蛍光灯に反射面を与えレフランプタイプとした130度の幅広い配光と、1.6倍の明るさを持たせた60Wタイプである。単価は5倍、発熱量が少なく耐久時間は4倍、消費電力は五分の一である。総合的に高い省エネルギー効果をレフランプの光の質とともに生み出している。同社は省エネルギー性の高い電球タイプの蛍光ランプの普及を技術的、デザイン的、市場形成上、模索を続け実行してきた歴史がある。地球温暖化防止というエコデザインの確実な実践を継続的に果たしてきた取り組みも高く評価されるべきである。
株式会社大阪西川の掛けふとん「エルゴスター」は、金賞となった。「クリーン&3Dフィットキルト」がサブタイトルである。審査対象はキルティングされた掛けふとんである。立体的にフィットして人体を包み込み、暖かな寝心地を提供する「サービス」の革新性が高い評価を得た。素材を中綿・カバーともポリエステル100%としている。長繊維利用の中綿は綿切れがなく、曲線キルトによる自由な形状を生み出す構造的にも重要なファクターとなっている。綿ホコリがなく、重量も軽減し、丸洗い可能であり清潔で便利である。耐久性、リサイクル性も向上している。商品販売展開も、従来のふとん店中心から商品サービスの質・内容を求める若者主体の市場開拓を行い、成功している。伝統的で固定的に考えられている生活の必須商品の原点に立ち返った再商品化は、デザインが持つ可能性と産業の持つべき蘇生能力を国際的にも提示したといえる。
コクヨ株式会社の「アガタ/S」事務用回転椅子も金賞となった。人間工学的な機能性に裏付けされた特徴的なフレーム構造が、あらゆる体型、姿勢作業にフィットする。高機能なメカは、シンプルなデザインに控えめに配置されている。廃棄時への配慮は、リサイクルしやすい素材や主要部材・材質表示に反映されている。審査において評価された内容は、これら今日の商品開発の基本ともいうべき点に加えて、美学的要素である。事務用回転椅子というデザインの成熟分野において、オリジナルな造形性を商品化したことが評価された。8つの貼り地、特徴的な配色等とともに色彩−素材−プロポーション−統合的な秩序が追求されている。不定形がトレンドとされる時代にあって、デザインの出発点にある「秩序=美学」を商品化することは、家具デザインの可能性を持続する重要なファクターである。また、海外デザイン事務所との共同開発作業がもたらした開発プロセス上の成果についても注目すべきである。
海外在住の日本人デザイナーとの共同開発である株式会社イトーキの「momotaro」ワークステーションも注目を集めた。着座時に手の届く領域に注目し、コミュニケーションモード/ワークモードの切替を直径1600mmのテーブル天板の回転によって行う。アクティブなワークスタイルは、いわば航空機のコクピットである。アクア=水をイメージの原点におき水色をイメージカラーとしている。無機質な素材を使用しながらオーガニックなフォルムを取り入れ、オフィス空間に「近未来的風景」を生み出そうとしている。犬=行動、猿=知恵、雉=情報がワークステーション全体の構成根拠となっている。企業変革の問われる時代にあって、個性的なキャラクターを持つデザインを商品化しようとする「momotaro」のチャレンジを評価したい。
コクヨ株式会社の「ホワイトボード+イノゲートボードスクリーン」も高い評価を得た。ローテクながらフレキシブルな使い方ができる商品である。高さ1800mm×幅900mmを基本とする屏風状に連続するホワイトボードである。「いつでもどこでも始められるコミュニケーション」が合言葉である。床から高さ1800mmまで自由に書ける。平滑な面であればホワイトボード用のペンはどこにでも書き消せるが、デザイン上ホワイトパネルの素材感を忠実に表現した。マグネットが使えハンギングレールもある。商品が持つシンプルな説得力には高い評価ができ、以前から待ち望んでいた商品がやっと生まれたという印象が強い。
金剛株式会社の「スペース コラボ」も注目された。サブタイトルは「モビリテイ インテリアウォール」。従来商品である電気式の可動書庫「MOVING WALL」を利用して、自由な空間構成ができる可動壁を作ろうとするものである。発想には自由な部屋の概念があり、裏づける技術も理解できた。

審査にあたっては、すべての商品に関して長時間の議論が行われた。この審査ユニットに集められた商品は、高度技術を駆使することよりは、ローテクなアイデアにより既成の概念を覆す提案が求められるものが多い。本年は、デザインのあり方―サービスとして何を売るか、何を提供するかが問われた。それは、光の質であり、省エネルギー性であり、暖かい寝心地であり、多様で豊かな坐り心地と知的な存在感であり、近未来性であり、時代の美学である。
今回、様々な企業から「構想−設計−美学」の統合として、積極的にデザインの可能性を商品化し応募していただいた。かつて中西元男氏が述べたように、日本のデザインは生活美学、社会美学、企業美学として未だに不十分である。見方を変えれば少しの努力で社会が美しくなるということでもある。その努力をさらに続けたい。