GDA2002 WINNERS 審査委員・審査講評 賞の構成 大賞 エコロジー賞 中小企業庁長官賞 ロングライフ賞
主催者あいさつ グッドデザイン賞 大賞選出過程 ユニバーサル賞 日商会頭賞 表彰式レポート
受賞結果速報 グッドデザインプレゼンテーション2002 金賞 インタラクション賞 審査委員特別賞 アンケート結果
審査講評
品デザイン部門 審査ユニット2
ユニット長 山本建太郎

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ユニット内の商品群の特徴
この審査ユニットは、自転車・バイクなどのパーソナルモビリティ、キャンピング用品、フィッシング用品、楽器、ポータブルオーディオなどの商品が対象である。複雑なメカニズムを持たない製品、エンジン動力をもつ製品、デジタル技術満載の機器が混在している。しかし、共通する特徴は、乗る楽しみ、スポーツ・競技の楽しみ、音楽の演奏や聴く楽しみなど、すべては個人の楽しみをつくりだす商品群であるということである。ユーザーが道具を使いこなし到達する自己実現の喜びを叶えてくれる世界。いわゆるマニアな世界をつくっている商品である。したがって、この世界はスポーツの仲間、釣り仲間、バイク仲間などの口コミや雑誌によって、商品とユーザーの関係が深化している領域である。
審査は、この個別で独特な文化背景も読み解きながら、慎重に進められた。審査にあたった審査委員全員がこれらいずれかの世界に深くコミットした経験が生かされた。開発に深くコミットした目とそうではない一般的なデザインの目、使用実感をもつ意見ともたない意見、内と外からの評価の間で熱い議論がなされた。

デザインの評価
応募商品はどれをとっても、人とものの関係の深化のなかで、ユーザーニーズを反映し開発された完成度の高い商品ばかりである。したがって、デザインの評価は、商品のオリジナリティやデザインがどのような魅力をつくりだそうとしているのかといった点が重視され、商品の見方としては、全体的にかなり厳しい目で見ることになった。
このような中で、ハーレーダビッドソンの「V-ROD」は特に注目され、この部門からの唯一の金賞候補に挙げられた商品である。
アメリカンスタイルバイクのデザインは、各パーツごとの完成度と造形が相乗して全体のスタイリングを造り出すものであるが、ハイドロフォーミングによるフレーム、中空アルミ鍛造のリアスイングアーム、磨き上げられたエンジン、ヘッドランプ・メーター廻り、ラジエータ廻りなど、「ここまでやるか」と審査委員一同に言わせるほど細部にわたって入念に造形され、しかも個々の部品造形のオリジナリティは高いものである。性能・機能の技術とは別に造形の技術があることを想起させてくれたデザインである。日本のメーカーから見れば、使用されている技術は別に特段のものではないと言われるかもしれないが、ハーレーダビッドソンにしてみれば彼らの歴史上革命的なものづくりの姿勢を見せてくれたのではと考える。商品の魅力づくりの上で、スタイリングの力をあらためて見せつけてくれた商品として高いデザイン評価を得た。
もっとも審査委員を悩ませた商品群は、フィッシング用品のロッドとルアーであろう。ロッドは共用部品使用による類似商品がひしめき、使用感の高度な達成をコンセプトに置いている。ルアーはいずれも世界的にも評価の高い商品群である。評価のポイントは、オリジナリティ一本にしぼられたと言える。そのなかで、メガバスの「Bait-X」は、エビやザリガニなどの底棲動物の行動パターン・逃走アクションをデザインしたルアーとして、フォルムとグラフィックにおける新規性と仕上りの美しさが高く評価された。
楽器のなかでは、ヤマハのサイレント弦楽器が、その統一デザインランゲージを構築してきた点が高く評価された。新しい楽器の原型づくりとしてのデザインを継続させていく意欲を感じさせてくれた。
アウトドア用品のなかでその提案性が注目された商品は、株式会社ファインの簡易トイレキット「ペールトイレ」である。標準ペール缶に各種の備品が密封収納され、ワンタッチで組み立てられるテントの中で便座を缶の上に装着して使う。バクテリア凝固によって汚物は処理される。細かな工夫と好感のもてるデザインが評価された。レジャーのみならず防災用としても有効な商品である。
一方、新素材を使用した商品はスポーツウェアなどに多く見られたが、従来の商品を新素材で置き換えたという感が拭えないものが多く、デザインとしての新しい提案が乏しかった。
また、ミニコンポやポータブルオーディオプレーヤーなどのパーソナルオーディオ商品は昨今の市場状況のなかでの位置づけや価値観に厳しいものがあることは理解できるものの、素直にハッとする魅力が感じられなかったのは残念である。

今後の期待
人を魅了するデザインはライフスタイルや生活環境を魅力ある快適なものに変えていく力と刺激をもっている。中でも、個人の楽しみにフォーカスが当てられるこのユニットの商品群のデザインが担う役割は大きい。また、この領域には個性やユニークネスが評価される豊かな土壌があるはずである。デザインにおける洗練されたスタイリングの力を再認識し、デザイナーの溌剌とした発想と造形力によって、デザインの魅力をつくりだし、わくわくする感動をさらに体現して欲しい。