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審査講評

ユニット7:情報機器のデザイン2 オーディオビジュアル機器
ムラタ・チアキ プロダクトデザイナー

 今年の審査で最も驚いたのは、サムスンの3D SMART LED TV UN55D8000だった。薄い画面が際まで広がり、その端面処理、素材感は工芸品的な美しさを纏っている。LCDテレビには、必ず額縁なる非表示部分があり、その額縁の薄さを競うのもテレビの開発テーマの一つであった。ところが今回のサムスンのテレビには、その額縁さえ見当たらない。額縁処理の3部作のうちの一つは、表示画面の周りに透明なベゼルが巻いているだけなのである。この驚異的な進化の背景には、IT産業にかける韓国のただならぬ国策が感じられる。いち早く各国とのFTA(自由貿易協定)を締結し、関税の掛らない状態での輸出政策を官民一体で進めてきた韓国。その結果、日本のお家芸であるテレビは、国際マーケットで不利な価格差になり、一人勝ちを獲得した企業だけができる量産の妙が、これを可能にしたのかもしれない。農業を犠牲にしてまでIT産業を保護する韓国に、打つ術がない各国のTVメーカーの状態が、今年のテレビのデザインに見て取れるのである。これを受けて、有機ELテレビなど、革新が生む新たな次世代テレビへと日本のメーカーの大幅なシフトが早まることは間違いなさそうだ。
 また、カメラの分野では、デジタル一眼レフとコンパクトデジカメの間に位置するレンズ着脱式デジタルカメラの充実が見られた年でもあった。オリンパスのマイクロフォーサーズ第3世代シリーズを始め、パナソニック、ソニーなども出揃い、持ち歩くサイズ感と高性能を両立させる日本のカメラ産業の健在ぶりを示していた。
 オーディオの分野では、オオアサ電子の無指向性バスレフ・タワー型スピーカーが、サラウンドとは異なる音像定位の方法を試みていて、膠着していたスピーカーリスニングの分野に新たな動きが感じられた。