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審査講評

ユニット5:すまいのデザイン2 住宅
難波 和彦 建築家

本年度の住宅部門の第一の興味は、震災復興住宅に関わる提案だった。しかし震災から応募締切までが数ヶ月しかなかったため、数点の応募しか見ることができなかった。震災はきわめて広範囲に及んだため、震災復興は息の長い仕事になるだろう。復興住宅は戸建住宅だけでなく集合住宅にも重点が置かれる可能性が高い。その意味でも、震災復興住宅は、近未来の日本の住宅産業のあり方を方向づけることは間違いない。来年度以降の提案に期待したい。
私見では、ここ数年、ハウスメーカーを中心に住宅産業全体に地殻変動が生じつつある実感がしている。そのような沈滞状況の打開策として、毎年、新しい市場をうみ出すためのイノベーション(技術革新)の必要性を提唱してきた。その一回答としてITとエネルギー技術を結びつけた「スマート・ハウス」というジャンルが浮かび上がってきた。しかしまだ技術レベルの提案に止まっており、新しい住宅のデザインをもたらすまでには至っていない。さらなる展開を期待したい。
都心のタワーマンションは依然として大きな潮流だが、住居の機能に特化し、デザインは徐々にステレオタイプ化している。これは危険な徴候である。多様なライフスタイルへの対応と都市的な共有施設との一層の複合化が望まれる。
今年のテーマは、震災を契機に「適正」なデザインとは何かについて、改めて考え直すことだった。それは復興住宅の提案を通して、現在の住宅デザインのあり方を再検討することではないだろうか。