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2010年度受賞結果の概要

審査委員長メッセージ

深澤 直人
2010年度グッドデザイン賞審査委員長
深澤 直人

安定した豊かさのためのデザイン


グッドデザイン賞はその時々の世相や流行や文化の背景をつねに反映しています。そしてまた、もののかたちは技術の進化にともなって、より必然的な方向に収束し、各々の個性や差異がなくなり、アイコンと称されるような完結した姿に絞られていく傾向があります。今年の審査会でもそのような傾向が顕著に現れていたように感じます。こういった現象を、人によってはデザインに元気がないとか、個性的なものが少ないととらえるかもしれませんが、むしろこれは、ものが機能を有した究極の姿に近づいてきている自然な現象であり、かたちに余計な意味付けや装飾を施す必要がなくなった喜ばしい傾向であるととらえることもできます。
ものの主たる機能のみが残りかたちが消えるということは、そのものに人々が余計な思い入れを抱く必要がなくなるということでもあります。今後、さらにかたちや色の個性を競い合ったデザインはなくなり、ものの必然的な姿を的確にとらえてそれに近づこうとする企業や作者の姿勢や努力にグッドデザイン賞が与えられるようになるでしょう。かたちが必要なものはさらに精緻な質を高める方向に向かい、かたちのないもののデザインは、使い勝手を追求したユーザーインターフェースの優秀性が問われるようになるでしょう。共有することでものの無駄を省くような時代が来ればみんなが同じプラットフォームの上でものを使用する傾向が強くなり、システムづくりやアプリケーションの価値が問われるようになるでしょう。ものを所有するという概念が変わるかもしれません。デザインはつねに「変える」「新しくする」という概念から、今までよかったものをさらに今の時代に合わせてよりよく「修正していく」といった考え方が強まるかもしれません。
地球環境への配慮や循環型の経済の必要性にしたがって、今まで個に向けられていたデザイン力は、より共有するものや、公共のものへ寄与できる力として向けられることで、さらなる安定した豊さを生み出すようにならなければなりません。住空間や建物、目に見えない・見せない部分での設備や素材、エネルギーは全体をひとつとして考えていかなければなりません。
今年のグッドデザイン賞には、そういった将来の方向性を示唆するような兆しが随所に現れていたような気がいたします。特にロングライフデザイン賞には、すでに支持されているよさをより高めていくといった意味や意義が含まれています。また反対に、つねに変わることで魅力を発するファッションやエンターテインメント、メディアなどはさらに個性的な方向に向かう可能性もあります。グッドデザイン賞はそういった個性的な分野での必要性もみすえていかなければならないでしょう。
デザインの価値が変われば、それにともなってグッドデザイン賞の考え方も変わっていきます。しかしいずれにせよ、グッドデザインが私たちの生活に豊かさをもたらすものであることに変わりはありません。