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2010年度受賞結果の概要

審査講評

ユニット7:戸建住宅・集合住宅
難波 和彦 建築家

2008年のリーマン・ショック以降、建設産業の沈滞化が進んでいるが、今年度のユニット7への応募総数は、同分野における応募数とほぼ変わりなかった。ただし、応募対象の構成は大きく変化している。
毎年の応募対象の構成は、大きく以下の4つの分野に分けられる。

(1)ハウスメーカーや地域ディベロッパーによる戸建住宅、商品化住宅、工業化住宅
(2)アトリエ建築事務所による戸建住宅、個別の注文住宅
(3)大手ディベロッパーによる分譲マンション、高層マンション、大規模開発集合住宅
(4)ディベロッパーによる賃貸マンション

昨年度は、リーマン・ショックの直接的影響を受けて、(4)が激減したが、他の分野が少しずつ増加し、全応募数はやや増加した。今年度は、(4)は依然として少なく、さらに(1)が減少したが、その分(2)が急速に増加している。(3)はほぼ平衡している。以上の傾向から、何が読み取れるだろうか。
まず、明らかなことは、住宅産業全体は今や飽和状態にあり、建設戸数は徐々に減少する傾向にあることである。これに伴って、住宅産業全体における地殻変動が進みつつある。具体的に言えば、商品化住宅を生産するハウスメーカーの大量生産体制の再編成が始まり、地域に個別化している。さらに、分譲マンションにおいては、これまでの郊外型の分譲マンションは減少傾向に入り、都心に集中する傾向が強まっている。総じて、住宅産業全体は保守化傾向にあり、デザインにおいても意欲的な試みがあまり見られなくなっている。昨年度、今年度と続いてこのユニットから金賞が出なかったのは、このためである。
とはいえ、新しい試みがまったくないわけではない。現在ではまだ数は少ないものの、応募対象としても見受けられ、今後の大きな可能性を見出せることとして、以下の3つの分野が挙げられると思う。

(1)自然素材や新素材を用いた高性能な省エネルギー住宅。
(2)多様な都市機能を複合させた集合住宅。
(3)既存の建物を再利用するリノベーションやコンバージョン(用途変更)。

毎年、同じ結論をくり返すことになるが、現在、求められているのは、飽和状態にある住宅産業に風穴を開けるようなイノベーション(技術革新)の試みである。それは上記の3分野において、家族構成やライフスタイルの変化を見据えた住宅のあり方を追求することによって生み出されるのではないかと思う。