2009年度受賞結果の概要

2009年度委員長メッセージ

2009年度グッドデザイン賞 審査委員長

内藤 廣


グッドデザイン賞は2008年度に「近未来の生活者の視点に立つ」という方針を打ち出し、大きな改革に挑みました。そして2009年、その間に世界の経済状況は大きく変動し、委員長として不安も覚えましたが、結果的には例年に劣らない数の応募があったことに大いに勇気づけられました。「日本のデザインには底力がある。」その事実に、この国の未来を見たという思いがあります。日本はデザインを核に商品やサービスを開発して行くのだ、という強い意気込みを感じました。
2009年度は、新たに「グッドデザイン・フロンティアデザイン賞」を設けました。市場ですでに提供されているものとは異なった対象や、産官学連携で生まれた対象などを、一般の商品などと同列の立場で扱うことのない安定した評価の仕組みを設けたかったのです。
コアには現在の暮らしを支える「グッドデザイン賞」があります。長い間市場に支持されてきた定番のデザインを扱う「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」、これからの未来を切り拓く「グッドデザイン・フロンティアデザイン賞」が両翼にあることで、グッドデザイン賞はデザインを「過去」「現在」「未来」と時間軸に沿って評価できるようになりました。これは今後に向けて大きな意味を持つものと考えています。
今年のグッドデザイン賞への応募傾向に対しては、全体として「おとなしい」という声が聞かれました。しかし、それは否定すべきことではないと考えます。グッドデザイン賞の応募作品全般には、「成熟したエコロジー」とでもいうべき要素が備わっているからです。
少し前までは、グッドデザイン賞でも「エコロジー」といえば、環境に取り組む態度それ自体が特別なものとして表現されてきました。それが今では、そうした態度はごく当たり前のことです。応募作品全般を見ると、エコロジーが当然のこととして、ひろく社会に滲み渡ってきていることを感じます。このたびの政権交代を受けて、今や日本から世界への公約となった大きな流れが、グッドデザイン賞では、すでに先取りする形で表れてきているのです。
先に掲げられた国際公約の達成にはたいへんな困難が予測されますが、未来をエコロジーの観点から見直して行こうとする気運は今後さらに高まるでしょう。この流れは、今後より先鋭化される形で我が国のデザインの大きな潮流になるはずです。その取り組みを広く消費者に届けるには、どうしても優れたデザインの力が必要になるからです。
一方で、我が国は外貨を得て生きていかざるを得ない宿命を負っています。確かな国際競争力をもって世界に出て行く優れた商品が必要です。ここでもデザインの力は欠かせません。新政権が国際公約した流れをより広範な海外に向けた経済活動へと展開するためにも、エコロジーを軸にした新しいデザインが求められてくるでしょう。先に述べた「成熟したエコロジー」が達成された状況は、次なる飛躍の大きな土台が築かれた、と見るべきです。
これからも、グッドデザイン賞は、未来を映す熱いデザインのプラットフォームであり続けたいと思っています。みなさまのより一層のご支援ご協力をお願いしたいと思います。

(2009年10月1日 グッドデザイン賞受賞記者発表より)