2005 Outline

2005年度グッドデザイン賞審査総評

 
左合 ひとみ
グッドデザイン賞審査副委員長
 
左合ひとみ

 既存のものの延長線上にある進化ではなく、これまでとはまったく異なる着眼点とそれを支える高度なテクノロジーによって生み出されるもの。そんな発明性のあるデザインとの出会いを期待して今年の審査に臨んだ。いくつかの応募作が浮上してくる手応えを感じたのは、ベスト15を選出した金賞審査会のときである。選ばれた15点は近年広がりを見せているデザインの概念を反映して、モノからコト、システムや空間まで多様性に富み、いずれも今の日本が海外に発信するのに相応しい発明性と社会的価値を有するものであった。

 今年は医療が来るのではないか──大賞選出の前夜、候補作に目を通していてそう感じた。健康への関心が強い時代、高齢化社会を迎えている現状に加えて、15点中3点もが医療関連商品であったためである。医療とデザインは問題の解決を目指すという点で似ており、デザインには「現代社会が内包する様々な問題の解決」という役割がある。「インスリン用注射針 ナノパス33」は、治療に必要な注入機能を損なうことなく患者の痛みの軽減を高度な技術力で達成し、選出投票では他を大きく引き離して大賞を受賞。医療の現場を知るメーカーと特殊な技術を持つ町工場のコラボレーションという、ビジネスモデルとして評価できる側面もあったことは後に知ることとなった。「大口径マルチスライスCTスキャナー」は、検査時の患者の不安感を取り除くとともに負担にならない体位をも可能にした。この2点はユーザーである患者側の心理に着目し、未来の医療のあるべき姿を提案した画期的な例である。

 コンセプトをそのまま形にした「電池がどれでもライト」、どちらからもページをめくりやすくした「キャンパスノート パラクルノ」、引き違い窓をフラットな構造に変えた「窓 ビューライトFSW」。これらは機能的な問題を既存の完成形を覆すことで解決に導いた結果、視覚的な美も獲得している。一方、審美性が欠けていた実用品にこれまでにない美しさを与えた「±0加湿器」は、もの自体の存在理由から考えられた深さを持つデザインである。また、問題解決というより、これまでに存在しなかったものを創出している例としては、最新テクノロジーを駆使した革新的でインタラクティブな地球儀、「触れる地球」がある。WEB上に書き込むメッセージが実際の植林活動につながる「ecotonoha」とともに、新しいコミュニケーションのあり方をデザインしている。

 今、デザインの質と社会的価値は、解決する問題と解決のための方法によって大きく左右される。この小さな注射針が解決しようとしたのは、「人の痛み」であった。昨年は「教育」のデザインがグッドデザイン大賞という評価を得たが、今年は「人の痛みを解決するデザイン」。デザインの可能性は今後も広がりとともに深さを増していくと思われ、「人の心の痛み」をデザインによって解決した応募作が登場する日も遠くないかもしれない。グッドデザイン賞が50周年を迎える来年、問題を解決していく鮮やかな手腕にまた出会いたいものである。

 
 
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