2005 Outline

2005年度グッドデザイン賞審査総評

建築・環境デザイン部門

隈 研吾
B01ユニット:建築デザイン
 
審査ユニット長 隈研吾

 いくつかの逆説が発見できておもしろい年であった。
建築雑誌でもてはやされる、いわゆる「名建築」ではないけれど、にもかかわらず人々の生活としっくりとひとつになり、新しい時代を先取るようなものに対しても、賞を出そうというのがこのグッドデザイン賞 建築環境デザイン部門・建築ユニットにおける選考の基準である。「作品」としてひとつにまとまっていない、ちょっとした改装や模様替えの類でも、賞を出そうという姿勢である。

 しかし、結局、一番高く評価され、金賞を受賞したのは、「金沢21世紀美術館」という完成度の高い「作品」であった。それは、一見逆説のようにも見えるが、よくよく眺めてみると「金沢21世紀美術館」はコンビニのような新しい時代の軽やかさが、巨大な結晶と化したものと見る事もできる。審査委員のひとりから「これは最後の公共美術館だよな」という声も挙った。公共の有り金をはたいて美術館を作るという行為は、終わりつつある一つの時代を象徴している。その最後の最後に、未来的なコンビニ建築の手法と古い時代の公共美術館という枠組みとが見事合体を果たしたというワケである。

 隣の環境ユニットではあったが、同じように建築デザインに関わっている仙台の野球場「フルキャストスタジアム宮城」や、東雲の集合住宅「東雲キャナルコート」も同じ意味で、二つの時代に足をかけていたと言える。
野球は高度成長期時代の日本を象徴するスポーツとも言える。老朽化した野球スタジアムを、今風のコンバージョンの手法を用いて、ポップにローコストにお色直ししたこのプロジェクトは、まさに新旧の時代、新旧の文化の合体とも言える。
東雲の集合住宅は、高度成長時代の日本の住宅供給の中心的ポジションにあった都市機構(旧:住宅公団)が、それまでのデザイン手法を捨てて、SOHOという新しいタイプの居住形式に思い切って踏み込んだ画期的なものであった。

 鶴田浩二のセリフではないが、「古いもんほど新しいものを欲しがるもんでございます」という年であったかもしれない。
それらに比較すれば、萌芽と呼べるような、尖鋭的な新しい動きは、逆に見いだすのが難しかった。どれも既視感があって、インパクトがなかった。その意味で若いデザイナーは元気がいまいちという感じであった。
新しい手法はすでに十分に出揃っていて、それが危機感を持つ古い組織体と合体したという混沌の妙が、今年の特徴であったような気がする。

 
 
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