2005 Outline

2005年度グッドデザイン賞審査総評

商品デザイン部門

村田 智明
A10ユニット:業務用コンピュータ関連、医療機器・設備、セキュリティ関連商品・設備、業務システムのデザイン
 
審査ユニット長 村田智明

 2005年、当ユニットは久々に大賞を輩出した。この事実はしばらく地味に見えていたこの分野に突然のターニングポイントをもたらした。話題の中心は医療機器分野。今年は昨年までよりも高い次元でGマークを語ることができる商品が目についた。

ここ数年、Gマークは新しいユニットの新設に伴い、他国のデザインアワードに見られない日本独自の評価基準へとシフトし、毎年その傾向が顕著になりつつある。近年のグッドデザイン大賞を振り返ってみると、いずれも、そのもの自体のデザインだけでは語れないモノが選出されている。それらに共通するのは「“モノ”や“コト”がどれだけの影響力をもって、明日をより良くするか」ということ。つまり、デザインすることの意義を単なる「造形やカラーのクリエイト」から大きく拡大し、より良い明日への提案性を問うことが近年のGマークのあり方で、他国のデザインアワードと比べ、より社会性を重視している事がわかる。

今年、当部門からは金賞候補として、キャノンのラージフォーマットプリンターとテルモのインスリン用注射針ナノパス33、オリンパスの外科手術用ニードルホルダー、東芝の大口径マルチスライスCTスキャナー、テルモのカテーテル検査キットがエントリーすることとなった。金賞審査の結果、この中から医療関係3点が金賞として選ばれ、うち一点が大賞を受賞したのである。

 かくも医療機器が注目される状況となったのは先に述べたように、デザインによって変革が可能なケースが増えていくに従い、期待される内容もますます社会性を帯びてきていることや、ハイテク医療ソリューションなど、我々デザイナーの手に負えない部分へのある種の羨望のようなものが、そうさせたのかとも考えられる。このように、手の内に入っているものについては辛目の評価、新分野など理解し辛いモノについてはすこし甘めといったコトが起こりえる危険性もはらんでいて、我々のユニットから他の審査委員へデザイナーの主張や訴求ポイントをどう正確に伝えていくかが、このところの課題となっている。

 しかし、結果として「ベスト15」のうち、3点が医療器具である事実を踏まえると、デザインの意義の拡大とともに、デザインが「総合的ソリューション」として認知され始めたことを意味するのではないかと考えている。ものづくりの中心、世界の工場が中国へ移管された現在、日本のものづくりはにわかにそのスタイルを変えようとしている。それはまるで環境に合わせて進化の方向を変えていく生態系のようだ。日本の精緻な研究開発型R&Dが、暫く忘れていた日本のものづくりの姿を思い出させてくれた。まさに医療分野はコア技術型の中小企業を上手く連携させた総合開発型の仕組みが成り立つ分野であり、本年度の受賞商品の数々には、このようにデザインを広義に捉え、「総合的ソリューションとしての医療デザイン」を感じさせるものが多かった。

 次に、業務用コンピューターおよびその関連商品の分野を振り返ってみる。
医療分野とは異なり、ここ数年間の閉塞感はまだ持続しているように思える。その背景はこの分野を取り巻くさまざまなインフラに起因していて、デザイナーの力のおよばないところで商品のコンセプトが既に決まっている感がある。メーカーのアイデンティティを表現するために、不必要な強いアイキャッチを強要していたり、当たり前であるべきユーザー・インターフェースやユニバーサル・デザインをセールストーク用に誇張した表現を取らせたり、また、新機能にネーミングを与えたものを、バッジにして目立たせたりと、このすべてが、ユーザーにとっては不必要なものだということを忘れている企業が多いように見受けられる。インハウスデザイナーが高い次元で、次にあるべきオフィスの姿を提案しようとしても、企画の段階で反映されない所以がここに見られるのである。技術先行型商品が多いエリアなので、デザインが後手に回り、できた技術にデザインを施す感が否めないのが残念に思う次第だ。次年度こそ、この分野に、デザイナーが描く「心地よい明日のスケッチ」から始める「総合的ソリューション」を実現して欲しいと切に願っている。

 
 
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