2005 Outline

2005年度グッドデザイン賞審査総評

商品デザイン部門

蓮見 孝
A07ユニット:自転車、バイク、乗用車および関連商品
 
審査ユニット長 蓮見孝

 A07ユニットの審査対象は、乗用車とその関連商品、そしてモーターバイク、自転車等である。今年の応募と審査の特徴について述べたい。

プレミアム性について

 乗用車のデザイン品質は、総じて円熟の域に達してきたといえるだろう。その象徴がレクサスである。トヨタ・デザイン本部の松本部長はグッドデザイン公開プレゼンテーション審査の席上で、メルセデスやBMWを凌駕するにはさらに50年の歳月が必要、というようなコメントをされていたが、昨年生誕50年を迎えたクラウンとともに、その造りの巧みさと破綻のないかたちの精緻さにおいては、すでに世界のトップランナーの位置にあるといってよいだろう。ドイツ車をはじめ世界のプレミアムカーが審査会場に一同に会さなかったのは残念だったが、プレミアムカーの群れに放たれた日本代表にひと味足りないものがあるとすれば、それは遊び心や神秘性ではないか。ダブルのスーツを着て気取ったホテルに乗り着けるにはピッタリかもしれないが、優雅なウィークエンドを生き生きと享受するステキな相棒となるためには、さらに“遊びの達人”としてのセンスを磨いて欲しい。

モビリティについて

 <動きまわること>は、あらゆる人が生きていることを実感するために必要な行為であり、移動機器は、より質の高いモビリティを支援する道具としてデザインされなければならない。ヤマハの「エレクトリックコミューターEC-02」は、この審査ユニットでは初めて自動車以外から選ばれた大賞候補である。エレクトリックバイクは有害な排気物を一切ださない電動の乗り物だから、屋内も走り回れるし、逆さにして部屋に立てて置くこともできるなど、まさに究極のルームtoルームの乗り物になる可能性を持っている。バッテリーが収納されているユニークな亀甲型のメインフレームに、ホイールやハンドルやシートが亀の手足のようにレイアウトされたかたちも個性的だ。まだまだ磨き上げが必要なレベルだが、エコの時代を予兆させる楽しいモビリティ提案に拍手を送りたい。

カスタマイズについて

 完成に近づいたパーソナルカーの欠点の一つは、手を入れてカスタマイズする楽しさの喪失である。エンジンは完璧にカバーされ、装備は標準で整っているから、ユーザーはまるで歯科診療台に横たわる患者のように、すべてを医師(車載コンピュータ)にまかせてじっと座っているしかない。少しでも手を入れて、オリジナルの愛車に設えようとしたかったら、オーディオやナビなどの後付け商品を装備することになる。そのようなカテゴリーの商品は、あらゆる車にフィットするような汎用性を考慮しなければならないし、部品単品での競争力を高めようとすれば、自ずと過剰な装飾性に走りがちになる。全体の整合性を重んじて磨き上げられる自動車本体のデザインの質と比べれば、不利な立場にあるといわざるを得ない。表面的なかたちのインパクトだけでなく、新機能やリサイクル性など、意欲的なデザイン提案が活発になされることを期待したい。手品のようなモーションを特徴とする史上初の8インチ・インダッシュTVモニター:クラリオン・アゼスト TSZ840は、このカテゴリーに久々に新風を吹き込む優れたデザインである。

デザインのちからについて

 豊かな時代の様相の一つとして、モノの使い捨てがあり、それによる倫理観の喪失も懸念される。自転車のパンク修理に来た人が、「修理費が千円もかかるなら捨ててくれ、新しいのを買うから」などと言うらしい。徳島の自転車屋さんである佐光さんは、まだまだ使えそうな薄幸の “ママチャリ”のヤマをしみじみ見つめながら、「いつまでも可愛がってもらえるような自転車づくり」について考えた。その結果、ペットと暮らす日々の生活を大切にするような人なら、きっと自転車にも愛着を持ってくれるはずと考え、人とペットがいっしょに快適に乗り続けられるような自転車をデザインした。中小企業長官賞に輝いた「ペットのせ自転車」は、単なる思いつきに留まらず、ペット用のオリジナルバッグから、安定性や防錆に配慮したディテイルまで、愛を込めてつくり上げられたピノキオのような逸品である。それは、存続が危ぶまれるようにも見える日本の自転車産業に一石を投じるグッドデザインの見本ともいえるだろう。

 
 
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