審査概要
2001年度グッドデザイン賞パブリックユース部門の特徴は、応募商品の幅が大変広い点にある。21世紀初という区切りのよさの影響もさることながら、「パブリック」という言葉の解釈が従来のような狭義の概念ではなく、文字通り人間の生活に関わるものすべてを横断的に含む商品群と捉えられたからであろう。内容は審査委員長方針の一つである「ユーザーフレンドリーを大切に」をそのまま具体化した商品が多く、パブリックユース商品が本来あるべき姿が示されていたと思う。
総応募点数は184点で、これは昨年を30%以上上回る。デザインのレベルも全体に高く、1次審査、2次審査を通して僅差の判断を要し、白熱した議論の連続であった。昨年度に比べ質、量とも数段のレベルアップと言えよう。あえて言えば、昨年度との変化があまりなかった領域として、教育関係の商品群があげられる。欧米に較べればゆっくりではあるが、確実に変化しつつある教育の現状と、新しい世代を担う子供たちへの夢や今後の教育のあり方への強い提案性を感じさせる商品が少なく、少々残念であった。

金賞受賞商品について
数多い応募商品のなかで特に注目されたのが、ヤマハ発動機が開発した特設式のプール「ヤマハ・水夢21」である。福岡で開催された第9回世界水泳選手権大会2001の迫力ある映像は、ある種の感動とともに今も新鮮なイメージとして残っている。3mという水深が多くの新記録に一役買ったことを知る人は多いと思うが、あのプールが特設システムの組立式であったことは意外に知られていない。プール本体、サイドデッキ、濾過材、配管などすべての設置・組立を2週間、また撤去を1週間で済ませるという驚異的なスピードも、実は世界新記録であったのではなかろうか。しかも競泳用プールとして国際公認基準をパスした精度の高さも、組立式プールとして新記録に値する。ドーム、体育館など大型施設の利用効率における採算性が問題視されている現状において、この組立ユニットシステムによる特設プールは期待される一つの回答であり、21世紀型の新しい提案商品として大きな役割を果たすことになるであろう。
さらに、3t/?の水圧に耐えられるユニットの接続技術、長期間繰り返しの使用に耐えるFRPと基礎コンクリート板の複合材モジュール、プールサイドの音をスイマーに伝えない防音構造などのきめ細かな設計思想は、21世紀のGマーク商品に課せられたテーマである「日本から世界に発信するソフトの輸出振興」にも正確に当てはまっている。
もう1点の注目された商品は、金剛のハイパワー収納システム「HPZ」である。外観はシンプルで無駄なくまとめ上げられた移動棚であるが、このパンドラの箱のような収納システムには、人に優しく、より安全に、より経済的に、というコンセプトに徹したコンポーネントが実に見事に集積されている。
いわばハイブリッド型移動棚とでも言うべきこの棚の特徴は、まず第一に把手型タッチスイッチにより引き戸感覚で開閉する棚の動作である。これは自社設計のコンパクトなインバーターと直流モーターとの組み合わせの妙で、10t積載時にも80gから100gの手の力で静かに滑るように動き始め、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)によりスムーズかつ素早く停止する。地震の時には棚が不用意に開いてしまうことを防ぐ耐震機能としても働き、書物やデジタルデータ(CD、CD-R、MOなど)の1枚が落下しても速やかに棚の動きを停止させる。もちろん人が中に入っている時にはロックが作動している。
IT時代のテーマでもあるデジタルデータの保存性に関しても万全を期しており、NASAの開発した素材による耐火性能1300℃の耐火ケースはいかにもスマートに仕上がっている。それらのデータの取り出し、収納はケースに組み込まれたセンサーが感知し、在庫持ち出しの記録が常時PCで検索できる。棚の内側で働く人々の安全のために監視カメラを設け、外部でモニタリングできるシステムも、これからの時代の必須アイテムであろう。
世界特許を持つ薄型の酸化チタン空気清浄システムから送られるフレッシュな空気が棚前面から静かに吹き出しており、書物およびデータの保存性を上げるだけでなく、空間全体を健康で快適な環境にしている。多くのハイテク機能を満載しながら全体のまとまり方は優しく、接する人に心地よい安心感を与える。これからの時代に求められるユーザーフレンドリーとマンマシンインターフェイスの新しい形ではないだろうか。もう一つ付け加えるなら、日本の伝統的なユニバーサルデザインと言われる襖の考え方をこのハイテクマシンにうまく活用したという点で、北欧デザイナーが日本の良さの一つを素直な視点で学んでくれた意味でも評価が高かった。
以上、特筆すべき2点を取り上げたが、前者のヤマハ発動機「水夢」は今後のスポーツイベントのあり方について、後者の金剛「HPZ」はIT化時代に求められる人と情報の調和された管理システムとして、ともに強い提案性とクリエイティブな発想が認められ、21世紀型パブリックユース商品の新しい市場を切り拓く姿勢が、審査委員全員の高い評価ポイントとなった。