審査概要
商品部門ワーキングユースのユニット3は、使用者に業務的効果をもたらす産業機械・設備を対象とする分野で、高い技術水準を誇る我が国のモノづくりを支える生産財の分野である。今年度は96社171点の応募があり、103点がグッドデザイン賞受賞商品に選定され、60.2パーセントという高い受賞率となった。
これは、喜ばしいことに全体的にデザインの質が向上していることを示している反面、あえて不合格とする理由が見当たらない「手慣れたデザイン」が多かったことにもよる。これも産業界に元気がないせいだろうか、「生産財のデザインはこのレベルで良い」と言う見切り感が、新しい時代を切り拓くような冒険心溢れるデザインを生み出しにくい状況をつくっているのかも知れない。

デザインの評価
審査に際しては商品分野の特性上から2つの視点を重視した。第1の視点として、生産財のデザイン開発は特に商品の機能・性能を決定するところに関わっていることから、どのようにそれらの課題解決に取り組んでいるか、あるいは使用環境を十分配慮しているか、などをしっかり見ること。第2の視点は、対象商品分野の成熟度合いや企業特性・規模などを勘案した上でデザイン評価レベルを定め、その上で継続的改善への努力や進化の度合いなど、時系列的な流れで判断し審査を行った。
今年度のデザインの方向性や先導性を、アートヘブンナインという小企業が開発した金賞受賞商品「3方向衝撃加速度記録計」から探ってみたい。
これは衝撃に敏感な精密機器の流通段階や設置時にセットし、機器に加わる3方向の振動を超小型の加速度センサーで感知し記録するものだ。評価したポイントは、見えないところに設置される脇役的な商品でありながら、細部に至るまで手を抜かず美しく仕上げた魅力的なフォルムと、3次元の衝撃加速が加わると明滅するLEDを3方向に配し、LEDの機器の監視役としてのメンタルな部分まで踏み込み、それをシンボリックに表現した点である。
この商品のデザインには、商品を出荷する際に「パーフェクトな品質のまま顧客に届け」と願う品質管理責任者の思いを代弁する力があり、生産財の論理的デザイン分野においても、作る側と使う側の間に「想いが通い合うデザイン」の必要があることがわかる。
中小企業庁長官特別賞は、タクミナで開発された定量パルスポンプである。このシリーズは平成11年度にGマーク商品として選定された実績があるが、当時からスケッチで提案されていた理想的なデザインに近づけるべく、継続的改善を行なって完成させた。地味ではあるがデザインを理解した経営者のもとで、エンジニアとデザイナーが切磋琢磨し、「継続的進化」を目指して活動した中小企業のデザイン開発姿勢を高く評価した。
特別賞には選定されなかったが、それらに勝るとも劣らないデザインとして日立建機の油圧ショベルとクボタの自脱型コンバインがある。いずれもデザインとエンジニア部門が歩調を合わせ、商品の魅力と機能向上を「じっくり熟成」させた優れたデザインであることを評価した。
生産財デザインの新しい分野を示す事例としては、デザインの好き嫌いは別としてDesign Stream Ltd社からエントリーされたTea Machineがある。紅茶の小売店頭において高品質なルーズ・リーフ・ティーを提供しようとする商品である。お茶が入る行程を楽しませるための仕掛けが随所に仕込まれている。まさに「エンターテイメントデザイン」とも言える分野だ。楽しくワクワクさせるデザインは、サービス産業などの業務効果を高めるワークシーンの演出に必要で、今後、そのような目的を持ったジャンルの商品が拡大するようであれば、業務用ゲーム機器などの分野も含み、新しいGマーク商品部門が必要になるのかもしれない。

今後の課題
その反面、デザインがマーケティングサイドの提案に従属し、あるいはエンジニアと十分に議論せず、競合商品を睨んで、とりあえずカラーリングとスタイリング提案を行なってみたと思われる商品も見受けられた。日頃からユニークな企画でモノづくりを実践している中堅企業から、4WDと4WS機構を備えた意欲的な乗用草刈機の応募があり、奨励的な意味も含めGマークに選定した。しかし、タレントの名前をもじった商品名は愛嬌として済ませるとしても、窮屈な乗車姿勢を強いられるレイアウトや、レーシングカーのようなマーキング処理は遊園地のゴーカートのようで、大人が誇りを持って作業する商品の仕上がりを見せていない。次回は本質的な次元でデザイン活用を行なった成果をぜひ見せて欲しい。
また、大企業から応募された小型の耕耘機は、レベルの高いデザインと機能が提案されているものの、農業のアマチュアや女性、高齢者が機器を操作する大切なハンドル部分に、同社の二輪車や乗用車のインスツルメントパネルで見せているインターフェイスデザインの先進的工夫を加えたならば、もっと新しい次元で楽しい農作業を創出してくれる商品になるはずである。今後、デザインリーディングカンパニーとしての新提案を期待したい。
その他、Gマーク取得商品の常連となった電源装置、計測機類、手工具類についても、特にデザインは悪くないのだが、どの商品も似たり寄ったりで大差なく、デザインが率先して新しい課題を見つけ出し解決したという前向きの商品が少なく残念であった。そんな中にありながら、菊水電子工業から応募された可変スイッチング方式直流安定化電源は、オーソドックスではあるがシステマティックな構成と、明快な色と形で表された気持ちの良いデザインが清新な企業イメージを創出させるとして、高く評価された。21世紀の日本の産業が元気を取り戻すためにも、デザインがマーケティングとエンジニアリングの狭間で単なるつなぎ役に甘んじることなく、魅力的な解決案を実現して見せようとする覇気がほしい。そのためにはデザイナー自らの頑張りがもっとも重要ではあるが、経営者が積極的にデザイナーやデザイン部門に課題を投げかけていく努力もお願いしたい。