審査概要
2001年度の商品部門ワーキングユースのユニット1の応募総数は、89社から172点であった。審査の結果、グッドデザイン賞を受賞した商品は52社の93点であり、受賞率は54.1%である。本部門は、新しいライフスタイルの延長としてのニューオフィス・スタイルを目指そうとするオフィスファニチャー系から、流通やショップシステムにおけるユーザーインターフェイス、オフィスワークをサポートするステーショナリー系など安定した成熟型製品が多く、デザインのレベルは高い部門といえる。
しかし、本年は低迷する経済環境や、21世紀という新しい時代の変節点にあって、閉塞感の漂う重苦しい時代の空気を払拭する刺激的で意欲に満ちたデザインの登場を期待したが、全体に堅実さは感じられるものの、残念ながら刺激的なデザインは極めて限られていたと言える。
本年のこの部門に応募のあった製品群は、大きく分けて以下のように整理できる。

より快適で安全に働くワーク環境をサポートする製品群
よりスタイリッシュで快適なワークスタイルやショップスタイルを実現する製品群
より機能的で効率を高めるインタラクティブなユーザーインターフェイスの使用性を求める製品群

そしてこれら全体に通底するのは、エコプロダクト、ユニバーサルデザイン思想の実践とその達成度である。
今日、IT革命の流れに沿って、タンジブル・インタンジブルな世界にかかわらず、働く環境の進化と変化は大きい。審査にあたってはそうした時代価値に見合う製品の機能・形態・意味性・素材・生産技術・コストなど、個別の基本的なソリューションに立脚して、トータルにまとめる総合的なデザインの力を読み取ることに努めた。
また、昨年も特記したのだが、本部門にはアミューズメント機器としてのパチンコ台やスロットルマシン、その周辺機器がある。落ち込んできたといわれながらも2兆円を越える巨大娯楽産業として、日本に定着しているこれらパチンコ業界がデザインに正面切って取り組んできており、成果を見せ始めつつある。ワーキングユースという視点ではなく、広くアミューズメントデザインというひとつの新領域を確立すべき時期に来ているのではないかと、審査委員全員が昨年以上に強く認識したことを改めて明記しておく。新しい時代の価値を反映するアミューズメントインダストリーへの期待は大きいと言えよう。

デザインの評価
ユニット1で金賞となったのは、ヴィトラのオフィスワーキング用の椅子「イプシロン」である。
この椅子は、本部門のなかでも他を圧倒して高い評価を獲得した。IT化がもたらすワーキングスタイルの変化を先取りし、5年もの長期にわたって(デザイン試作は1997年に発表)ワーク時の快適緊張とリラックスの融合をテーマに、デザインや新素材開発を進めて商品化したもので、21世紀に満を持して登場してきたオフィスチェアである。
コンピュータ時代、ますます多様化するであろう人々のワークスタイルのニーズへの先見性を、「イプシロン」は見事にデザイン化している。ユビキタスな21世紀のライフスタイルをサポートする表現メディアとして、ディテールに至るさまざまなきめ細かいデザインの配慮が生きており、ユーザビリティーに優れ、使う人に強く働きかけてくる。「イプシロン」は新しいワークスタイルの作法を刺激する形を備えており、視覚的にも機能的にも、またランニングコストメリットからも、今後のワークスタイルの革新を実感させる。
また、デザイナー側からのプロポーズを受けて、デザインの力に絶対の信頼を置いて商品化と開発を進めるメイキングプロセスと企業側の評価能力、経営姿勢も高く評価できる。計画生産累計数50万脚、想定商品寿命20年という数字が、まさに21世紀型商品開発のあるべき姿を象徴しているといえよう。
中小企業庁長官特別賞は、イヨベ工芸社のスタッキングチェア「イノセント」である。素材の特性を充分に引き出したシンプルで美しいフォルムと、ディテールに配慮されたスタッキング性の良さが、多様なユーザビリティーやライフスタイルを強く刺激する優れたデザインである。そして、日本のみならず海外市場も取り込んだ中小企業の開発姿勢は、これからのモノづくりの意気込みを示すものとして高く評価でき、今後の展開が期待できる。
この他に注目された製品としては、東芝テックの「CVS POSシステム」がある。コンビニエンスストア向けのPOSソフトウェアであり、ますます複雑化する多様なニーズへきめ細かく対応したユーザビリティーの向上、ユーザーインターフェイスに格段の進化が見られ評価を得た。しかし、フォントやピクトグラムなどインターフェイスグラフィックの見やすさ、美しさを求める声も強くあった。
また、鈴茂器工の「お櫃型寿司ロボット」も単純明解なお櫃という外観からは想像できないメカニズムが隠されており、世界を席巻している日本の寿司ブームと相まって、日本からしか産み出せない日本型モノづくりの象徴として、良い意味で議論を呼んだ製品であった。

今後の課題
IT化は我々のライフスタイル、ワークスタイルを多様なものへとさらに変化させていくであろう。すべてが20世紀型の効率優先ではなく、そのメリットを活かしながら人々の機能や役割も、より複合的な総合力が求められるようになってきている。一方でユビキタスな生活環境への潮流は、より自立的で、よりアクティブな姿勢への変化を促すだろう。IT化は、好むと好まざるにかかわらずあらゆる環境へ積極的に働きかけるものであり、特にオフィスワークを中心とするインテリジェントなワークスタイルは、これからのライフスタイルの表現メディアとしてさらに高い意味性を持ち、ますます多様化するであろう。
改めて人が主役となる空間とモノづくりの視点が求められる。ヒト・モノ・コト・バがそれぞれ完結した単体としてではなく、いかにお互いが響き合う関係性を構築していくのか。次の時代におけるライフスタイル、ワークスタイルを予見し、フィジカルとメンタルの両面から、人と道具、人と環境の究極の関係性を捉え直すことが重要なのではなかろうか。
すなわち、ユーザーがお仕着せではなく、自らの自由な発想のもとにワークスタイルを主張し始める時代に応えるデザインが求められてくる。そのために重要なことは、使い手のイメージを刺激し、美しい作法を喚起する魅力あるパーツの創造である。流行を追いかけ多様化に向けてきめ細かく完結型の対応をしていくのか、あるいは、モノの本質と使用価値に迫り、その多様さを受け止め、より自由で創造的なライフスタイルの表現として、新しいワークスタイルを刺激するパーツや関係性をデザインしていくのか。
環境問題を含めて21世紀の時代の価値をどう読み解いていくのか、デザイン・生産・経営の三位一体となったモノづくりが鍵を握っている。いずれにせよ、優れたデザインの力や造形の魅力が人々の気持ちを創造的にインスパイアし、元気と活力を産み出すことに対する理解がなくてはならない。そのためには、経営においては意志決定のメカニズムと経営センスが不可欠であり、デザイナーにおいては魅力的な創造行為への努力が不可欠である。