審査概要
当ユニットでは、デザイン的にも技術的にも成熟段階にある商品が多く、「良いデザイン」「優れたデザイン」「未来を拓くデザイン」というGマークの統一的な審査基準だけでは明解な審査は難しい。そこで乗用車については、カテゴリーをフラッグシップ/生活実用/スペシャリティ(SUVなどを含む)の3つに分け、それぞれを期待以上/期待通り/期待以下という尺度で評価することにした。
21世紀のモータリゼーションや自動車産業の旗手となるべきフラッグシップとスペシャリティには、審査委員の期待を込めてあえて厳しい基準を課し、「期待以上」を実感させるものを合格とした。「期待以上」とは、ユーザーの予見を大きく超える何かを訴える商品のことである。それに対し生活実用車は、「期待通り」以上で合格とした。「期待通り」とは、多様な視点で「串刺し(多軸評価)」した時に、何がしかの「当り(明確な優位点)」を感じさせるということである。
今年度の応募総数は、審査委員による推薦1点を含めて72点であった。1次の書類審査を通過し、2次審査の対象となったのは、43点で実物を見ながら審査した。市場投入前の審査対象については実車の審査とともに、開発者にプレゼンテーションしていただいた。2次審査の結果、28点が合格、最終的な合格率は38.9%となった。

金賞候補の選定について
金賞候補は、4名の審査委員全員が合格と判断した商品のなかから、各審査員の推薦により選定した。三菱・eKワゴン、ホンダ・フィット、トヨタ・ソアラ、ボルボS60、ニッサン・スカイライン、ニッサン・プリメーラ、ミシュラン・タイヤの7点である。
eKワゴンは機能に徹した合理性に三菱の新しい方向性が見られた。フィットはホンダのミニバンづくりのノウハウと総合的デザイン力が凝縮された、次世代リッターカーのアーキタイプを提示している。S60はボルボの堅実性とダイナミックなフットワーク感が一体化し、新たなブランドアイデンティティを感じさせた。スカイラインは40年にわたるGTづくりの蓄積をベースとした渋い大人のセダンとなっている。ミシュラン・タイヤはトレッド・パターン部に大胆なカラーのラインを入れるという斬新なアイデアによって、タイヤ・デザインに新たな風穴を開けた。
最終的に金賞に推薦した商品は、ニッサン・プリメーラである。ミドルサイズのセダンは日本では注目度が低いが、欧州や米国では乗用車の主幹に位置付けられるカテゴリーであり、開発競争も激しい。 プリメーラは、VWパサートやプジョー406、アルファロメオ156などと対等に戦うことを宿命づけられた国際戦略車なのである。そのようなプレッシャーに対峙し、日産の全社的期待を受けながら、きわめて斬新な力強さ溢れるクルマに仕立て上げた日産デザインの造形力を高く評価した。
さて、今年度から全部門・ユニットの審査結果を客観的にチェックする機能が新たに設置された。その過程および2次審査以降に行われた部門長・ユニット長会議(判定会)により、プリメーラに加えてソアラも金賞に推薦することになった。その後開催された金賞・特別賞審査会において2点ともに金賞に選出。さらにソアラが大賞候補として推挙され、10月30日の大賞審査会に臨んだ。

大賞審査について
トヨタは環境問題やエネルギー問題に対応し、世界に先駆けてハイブリッドカーを実用化したが、ソアラにはもう一つ重要なメッセージが込められている。それは「モビリティに対する夢」である。夢に満ちたものには「華」がある。その華が私たちの心に潤いを与え、明日に向かう意欲を培ってくれる。ソアラは遊び心にこだわりながら上質に磨き上げられた、トヨタならではの、あるいは日本にしかできないクルマづくりのポテンシャルを感じさせるコンバーティブルなのである。
10月30日の大賞審査ではその点を力説したのだが、残念ながら大きな注目を集めることはなかった。時代は、作り手のスピリットを隅々まで丁寧に埋め込んでいくモノづくりの時代から、コミュニケーションに基盤を置いたコトづくりの時代へと大きく拡張しつつあるのかもしれない。それでもなお、当ユニットの審査・評価では、モノづくりを極めようとするデザイナーの心とデザインの神髄を見極めることが重要であると改めて思った。

乗用車以外の応募商品について
さて、乗用車以外の応募商品についても触れておきたい。車載用オーディオ機器では、表面的なスタイリングの域を出ない商品が多いなかで、富士通イクリプスのシリーズが目を引いた。カーナビゲーションでは、九州松下電器産業のパナソニックKX-GP1が光る。デンソーのオプティトロンメーターについては、単体購入できない部品的な商品をどう評価するかとともに、普通のメーター方式と混在する場合には「遠くても見えやすい」という作り手側の記述に矛盾が生じる点が問題となった。チャイルドシートでは、カーメイト社の2点が求められるデザインのレベルを十分に満たしていると判断した。
自動車関連商品は、カスタマイズの可能性を広げるものである。パーソナルカーのデザインレベルの向上を図るような意欲的な商品の応募を期待したい。