審査概要
ファミリーユース・ユニット3の審査対象は、家具・照明・インテリア用品が中心である。2001年度審査は、応募点数98、応募企業数72、受賞点数44、受賞社数28、受賞率44.9%という結果となった。
この分野は、商品として複雑な機構を伴わないものが大多数である。かろうじて機械仕掛けといえば、電動カーテンレールぐらいであった。デザインに求められる機能上の解決ファクターは少なく、素材感や形態的解決が大きな要素となっている。本来ライフスタイル構築産業であるので、時代とともに生活レベルの向上が反映され、進化状況がデザインの向上として結実していく分野のはずである。デザインの役割は「構想、設計、美学」の3側面があるが、このユニットにおいては、戦略やシステムとしての構想、技術的に複雑な設計過程がほとんどないため、勢い美学的側面が強調されることになる。従って、「形態の美学」を巡る狭義のデザインが最も問われる分野とも言える。

工芸的価値とコンセプトによる商品開発
審査委員全員が最終的に最も高い評価を与えたのは、HIZUKIの照明器具「ひづき」であった。小さな照明器具でありながら、シリーズを統一するシンプルなステンレスのインフラとヨーロッパの職人による重厚な手触りの素材の対比が、深い休息感を与えている。照明のシェードは一つ一つが作家や職人による制作である。宙吹き手法のガラス、槌目を施された錫、轆轤成型の白磁、青白磁。デザインにおける人間の手業=工芸的価値の再獲得の模索である。工芸の持つ奥行きに依拠する姿勢は、工芸自身が置かれている現在の状況をも問うこととなる。今後さらに素材と表現の独自性を深めてほしい。
次に高い評価を得たのは、松下電工の照明器具「空間同化のあかり 点・線・面」である。「空間同化」のコンセプトを忠実に実現した点が評価された。つまり、ともすれば照明器具自体の存在感を形成することがデザインであるように考えられることに対して、器具の存在感を減少させ、置かれた空間全体の質の向上を果たす黒子に徹するデザインを行っている。器具自体もプロポーション、素材感、色彩などへの配慮が行き届いている。なかでもペンダント照明「点のあかり」のガラスの素材感は秀逸である。松下電工の一連の商品に見られる総合的なデザイン開発への力量の高さも評価を受けた。社会に影響力をもつ企業が商品デザインを通じて文化形成を行なうのは当然のことであり、こうした姿勢を他社にも望みたい。

デザインにおけるヨーロッパマインド
全体的に海外との関わりの深い商品の評価が高かった。アダルの「ハイスツール:LEM・A、LEM・B」、ドリーム総合研究所の「ソファーベッド:フュージョンPA,マルチソファ :フュージョンGP」、イデーの「スチールキャビネット:ゴマー・パイル・ユニット」などである。照明器具「ひづき」もヨーロッパマインドが出発点とすれば、海外のデザインの「モダンライフスタイル+美学オリエンテッド」な商品形成手法は、今後の傾向を示唆するものといえよう。

伝統的な素材や職人技
また、伝統的な素材や職人技による手加工に重点を置く商品もある。中小企業庁長官賞を得たアイダ(家具蔵)の「スツール:ゼン」は、木地の重厚感を円と四角という単純な構成で表現している。匠工芸の「イージーチェア&オットマン:ウィーヴシリーズ」や山岸製作所の照明器具「ミツブライト」も同様である。伝統を基盤とする市場では、イタリア人職人の技巧追求の姿勢に学んでほしい。日本の伝統技術と感性をブラッシュアップし、現在の商品として市場に提出することの追求を続けてほしいものである。

デザインにおけるエコロジー
エコロジー製品に関しては、ダスキンの「ニューライフケアシリーズ(紫のシリーズ)」を、モップや掃除機を長期にわたって紫色で統一し、独自商品として開発してきた点で評価した。脱物質化経済が探られている現在、レンタル市場の果たす役割が大きいことは誰もが認識している。シリーズとしての商品のデザイン的充実が、社会を積極的に誘導することを評価した。領域の拡大とさらなる質的向上を伴ったサービスを望みたい。

審査を終えて
全体として見ると、「古くからある商品が中心で新規性が全体として乏しい」「従来製品の問題点を徹底的に問うていない」「エコロジーに関する配慮がさらに必要である」「一部に今後探るべき方向が暗示されている」といった印象を持った。
この分野には、規模が小さいためにデザイナーとの接点が弱かったり、慣習に縛られて旧来の市場の限界を超えられないでいる企業も多い。ライフスタイル構築産業として「未開発市場」であることを認識し、早急にデザイン戦略を立て直す必要がある。さもないと、服飾と同様に、海外ブランドに高級市場を制覇されかねない。一方で、アジアの市場は急速に成長しつつあり、日本市場が遅れ始めている分野すらある。家具・照明・インテリアはデザイン対象が多様に存在する。デザインの「構想、設計、美学」の3原則に立ち返り、機能、構成、素材、エコロジー、市場戦略などの視点から、さらなる企業努力を求めたい。