審査対象商品について
戦後、豊かさを求め3種の神器などと言われ、憧れをもって接した電化製品は、今やあるのが当たり前、存在すら忘れてしまう程、生活に溶け込んでいる。まさに成熟商品と言える家電製品がこのユニット2の審査対象商品である。成熟商品がゆえに、メーカーは僅かな差異で他社と差別化を図り、操作性や機能性の違いを主張する。
審査は、この僅かな差の中にデザインの主張を読み取り、コンセプトに添ってデザインが適格に表現されているのかが主たる評価の基準となる。審査委員の共通した意見として、一次審査は明らかにデザインすべき方向が間違っている申請商品のみを不合格とし、現物による二次審査に重点をおく方針で進めた。

4つの金賞候補
推薦応募を含め194点を概観すると、予め社内選考による申請が行われたらしく、一定の商品レベルに達したものが並んだ。特に韓国メーカーの躍進は目覚ましく、一次審査を合格した22点は、細部のディテールまでデザインされた質の高い商品である。受賞率も59%と全体の51.8%を上回る。審査そのものは、各自審査員が応募シートに記載された内容を確認しながら、1点1点、デザインされた意図、評価に値するポイント、操作性のしやすさや確実性などを審査し、特に使用される状況(シーン)についての評価は、議論を重ね納得のいく結果が得られた。その中で、金賞候補に選ばれた4点は、独創性と完成度の高さが評価された商品であり、これからの家電デザインに影響を与えるものと推測する。以下、金賞候補にノミネートされた4点を中心に他の商品との違いを指摘しながら評価報告をしたい。

バング&オルフセン社のオーディオは、造形の美しさ、細部に至る仕上げ、素材の選択と卓越した加工技術など完成度の高い商品である。特に操作する者に感動すら与えるCD駆動の動き、パンチングの穴越しに表示される赤い文字の演出は巧であり、まさに舞台である。背面の一体化したハンドルによって持ち運びが可能となるが、いわゆる日本のラジカセとは一線を画している。バング&オルフセンのデザインに影響され、類似性の高い商品を店頭で見受けるが、どれも表層の真似であり、音楽と接するという情念とは程遠い。そう言う意味ではいまだ日本のオーディオデザインは未成熟なのであろう。これからに期待したい。

株式会社東芝の電磁調理器は、いままでの家電メーカーの手法と異なり、デザイン部門がみずから調理器具の専門メーカーと組み、キッチン空間の中での調理家電のあり方を示した逸品である。通常、異なる業界が一つの商品を製品化する場合、外装の仕上げや嵌合部分に微妙なずれが生ずるものであるが、この電磁調理器は鍋部と電磁本体が同質の輝きを持ち、清潔感と一体感を強調している。主張しすぎないデザインは好感が持て“使ってみたくなるデザイン”の評価を得た。同様にステンレスを使用した調理器具も数点申請されていたが、是非、参考にされたい。また、不要な要素は削ぎ落とし、簡潔にまとめられた形態そのものに、誰もが使用できると言う理由でユニバーサルデザイン賞にもノミネートされた。劇画調のピクトグラムや度をこえた大文字と遊離した色彩、マニュアル化された点字は、高齢者対応であり、視覚障害者対応であって、誰もが使えるユニバーサルの概念とは異なる。表示に頼るユニバーサルデザインではなく、機器の持つ本質をきちっとデザインすることで生まれる人への気遣い、優しさがユニバーサルデザインと理解して頂きたい。

松下電器産業株式会社の電気バケツはネーミングから機能を想像でき、興味をそそられる。本来のバケツで洗えるものはなんでも洗えるこの電気バケツは、洗濯機の機能を十分に満たし、半透明のタンクに回転する洗濯物がシルエットに映り、実に楽しい。一見して使用方法が理解できる操作系は、子供にも扱える新しい生活教育具としての役割が生まれる。高機能化される最近の洗濯機とは逆行し、洗濯という行為を単機能にまとめることで、新たな使い方が生まれる。コンセプトの明快さと素直な造形が評価された。

泰光産業株式会社の留守番電話器(ミューテック)は、日本人デザイナーが韓国のメーカーと組み、物作りからブランドの構築、マーケティングまでを総合的にプロデュースした商品である。確かな造形力と完成度の高い仕上がりは、思わず手にしたくなる魅力を醸し出す。特に子機の扱いは、日本製品のそれとは異なり、使用状況を想定したかたちは明快で使い易い。審査員の中には、携帯電話をこのかたちにしてほしいとの声もある。日本からアジアにフィールドを移し、下請けでないデザイン、経営戦略としてのデザインが閉塞感のある市場を刺激するだろう。

以上の4点はコンセプトが明快であり、商品としての完成度も高く、なによりも人を引付ける魅力がある。まさに金賞候補に相応しい商品としてノミネートされた。この他に評価の高い申請商品を紹介すると、株式会社良品計画の冷蔵庫は、シンプルでキッチン空間に調和するデザインが評価された、松下電器産業のソフトアイロンは新しいアイロンの使い方に好感を持てたが、コードの処理に工夫が欲しい、同じく松下電器産業のコードレスキャニスター(掃除機)は面の繋がりが美しく造形力の高さは評価されたが、スケルトンの扱いに一考を要する。など金賞候補には至らなかった。

これからの家電に望むこと、
電気街の店先に立つと、喧噪とは裏腹になぜか淋しくなる。
洗濯機や冷蔵庫などが所狭しと並び、それぞれは目立つがために厚化粧して客引きをするが、むしろ購買意欲を奪われる。流通側(量販店)の意見によって、厚化粧を勧められるのだろうが、デザインにとって不毛である。
共に、暮らす気のしない“この物たち”に気分が沈み、つい口ずさむ、“デザイナーは何を考えているんだ”“デザインマネージメントはやっているのか”と。
最近、欲しい家電製品がないと聞く、なぜだろう。
外国家電が注目されるのは、単なる流行りではない気がする。愛着の湧くパートナーを求めてのことだろう。永く使えるから、永く使いたいデザイン(商品)を求めることは、多くの生活者の本音であり、デザインしているあなたもきっと同じ気持ちのはずです。もう一度原点に立ち返り、商品の目的は何なのか、使われる場所は何処なのか、誰が使うのかを一期一会の気持ちでデザインしてほしい。
最後に金賞審査の報告をすると、バング&オルフセン社のオーディオと株式会社東芝の電磁調理器が金賞を受賞、泰光産業株式会社の留守番電話が審査委員長特別賞・デザインマネージメント賞の受賞を致しました。
この結果は、審査員の真意であり満足しております。