ユーザーの要求に対応するデザイン
今年は、当ユニットの商品全体のデザインの質が向上したという印象をもった。まずパーソナルコンピュータ関連商品では、各メーカーが独自の視点でマルチメディア機器としてのあり様を模索しており見応えがあった。
たとえばIBM ThinkPad s30は、無線LANを実現するためのアンテナを積極的に造形要素に取り込み、同時にフルサイズキーボードを採用した結果、キーボードとディスプレイの両サイドが羽のようにせり出した特徴ある造形になっている。これは、機能の進化を巧みに造形要素として取り入れ、新しいスタイリングを創出した好例といえる。
ナナオのカラーディスプレイEIZOシリーズは形状に大幅な変更はないが、画面の一部だけを高輝度表示できたり、アプリケーションごとに設定した表示モードを自動選択できるなど、異なる複数の画像の同時表示が可能であり、マルチメディア環境に対応した進化を遂げていた。変更すべき点と変更するべきでない点を適確に判断したデザインである。
オーディオ関連商品では、新しい材料や仕上げ、使い勝手へのさまざまな工夫が見られた。なかでも、アイワのMDFをキャビネットに使ったポータブルステレオシステムや、パナソニックのポータブルMDプレーヤーSJ-MJ88のマグネシウム合金をサーキュラー加工し着色する仕上げ方法などに、成熟商品の新しい価値の創出が感じられた。
デジタルカメラでは、単なる高画質競争だけでなく、ユーザーのニーズに対応した多様化が見られる。クレードルなどを使用することによって画像をPCに取り込みやすくしたり、キヤノンのPowerShot Pro90 ISのように1回のレリーズで露出を自動的に切り替え3連写できる機能などが目に止まった。
その他のカメラには、インタラクションへの緻密な配慮がみられた。一眼レフカメラPENTAX MZ-Sは、上カバーを撮影者側に30度傾斜させることで、ファインダーから少し目を離すだけでダイヤル操作や表示を確認でき、結果的に個性的なフォルムとなっている。富士フイルムのインスタックスミニ20は一見ポップさを表現するためだけに見える造形だが、縦横どの撮影スタイルでも適当な位置に手掛かりがくるよう計算されており、デザイナーの高度な造形力を感じさせた。
このように質の高いデザインが多いなか、携帯電話やPHSは、使い勝手を考慮したデザインが必要である。動画再生機能を備えた次世代機など転換期を迎えていると考えられるが、多機能化と小型化、使いやすさを同時に解決しているデザインはない。なかには、メニュー画面やマナーボタンのような使用頻度の高い機能をワンタッチ操作できない機種もあった。また昨年までは、通話中の音量調節などの操作性を向上させるために、本体側面にボタンがレイアウトされた機種も多かったが、今年は全ての操作を本体正面のボタンで行なう機種が増えた。これは携帯電話を見ながら使用するメール機能の使用率増加と関係があるのかもしれないが、限られたサイズ内で操作性の向上を追求する場合、本体側面や背面をもっと有効活用すべきではなかろうか。

審査概要
審査は、4人の審査委員が各々の専門分野からの視点で商品を確認し、討議を行い評価した。そのため、審美性のような主観的、抽象的な審査基準より、使いやすさや独創性といった客観的で具体的な基準に重きを置いた。審査前に応募資料を熟読し、すでに発売されている商品は店頭などで実機を確認し、使用説明が必要な商品は応募者から取り寄せた商品マニュアルを読むなどして事前準備した。審査会では、応募資料の「デザインのポイント」や「評価を求めたいポイント」などに記入された応募者のコメントを尊重し、動作確認が必要な商品は全て動作確認をした。
最初に述べたように、当ユニットのデザインの質は全体的に向上している。その結果、他の部門と比較しても高い合格点数となったと言える。その一方で、このユニットからは金賞受賞商品がないことからもわかるように、誰もが認める社会的なインパクトのある商品が少なかったのも事実である。パーソナルユースの商品では、多様なニーズに合わせた商品開発が必要だが、商品のカラーバリエーションの展開や表示画面のカスタマイズ化以上のものは少ない。
今年度のインタラクションデザイン賞を受賞した北計工業の視覚障害者のための携帯型色認識装置「カラートーク」は、単に色を音で案内したり、触感だけで測定位置がわかるように工夫しただけでなく、色認識装置の小型化と低価格化を成功させている。
当カテゴリーにも視覚障害者や高齢者を対象とする商品はあったが、既存のメカニズムを流用し、文字やボタンの形状やサイズを工夫するだけでなく、「カラートーク」のような新しい技術開発を誘発するくらいの大胆な発想を期待したい。今後のパーソナル情報機器のデザインには、「カラートーク」に見られるようなグローバルな視点を持ったローカルな商品開発が必要なのではないだろうか。