1999年度 グッドデザイン賞審査概要

平成11年度の「グッドデザイン賞」は、昭和32年の制度創設以来43回目、平成10年の民営化以降2回目となります。6月18日の応募締め切りから10月14日の大賞審査、表彰式まで、約4ヶ月に渡る審査の結果、2,110点(898社)の応募の中から949点(474社)を「グッドデザイン賞」に、またその中から「大賞」「金賞」「テーマ賞」などの特別賞計30点を選びました。本年度は、審査精度の向上と新しいデザイン領域への対応を図るため、特に審査のしくみを大幅に変更しています。ここではその内容を踏まえて審査経緯を報告するとともに、審査結果に表れた特徴について若干述べておきます。


“Good Design is Good Business.”
制度改善は「何のためにGマーク制度はあるのか」という本質的な論議からスタートしました。通商産業省の主催事業であった段階から、この制度は総合的で公的なデザイン評価制度として高い評価を得てきました。その一方で、審査対象が応募商品に限られているなど「やや受け身過ぎるのではないか」というお声もいただいていました。言うまでもなくこの制度は、デザインを振興する装置でもあります。つまり、誰に、いつ、どのような内容をもって訴求するのか、そのことをもってデザインをめぐる環境をどう変えていくのか、といった戦略的な討論なしに制度の改善はあり得ないものと思われます。そこで受賞企業の代表、審査委員等からなる「制度検討委員会」を中心に、新しい戦略を討論していただきました。「誰に」については第一義的には生活者となりますが、今日では生活者のデザインへの期待と要求が却ってそれを提供する側よりも高いという、制度発足当初とは逆転した現象が見られます。生活者が求めるデザイン、クオリティの高い商品が意外なほど市場に現れていない。そこにグッドデザイン制度が実現すべき当面の課題があるように思われました。そこで、かつてIBMがコーポレートアイデンティティデザイン導入の際に用いた「グッドデザイン イズ グッドビジネス」というわかりやすい言葉を借り、良いデザインによって良いビジネスを創っていこう、マーケットをリードできる商品をプロデュースするしくみとしてGマーク制度を活用していこうという方針を定めました。


○多軸的な審査の実現
この方針をもとに、中西元男審査委員長、黒川玲審査副委員長の指導を得ながら、審査精度を向上させていくとともに、デザインの新しい動向に対応した多軸的な審査を実現する具体的な審査のあり方を検討し、下記のような改善を行いました。

1)書類審査(1次審査)導入による2段階審査の実施
生活者の使う道具として、ニーズを踏まえて的確にデザインされているかなど、商品デザインに求められる要件を的確に判断するため、「書類による審査」を導入しました。本年度はユーザー像の把握や開発プロセス全体へのデザイナーの関わりなどについての情報を書類審査の段階で提供していただきましたが、この「書類審査」を1次とし、従来から行っている現品による審査を2次とする2段階の審査方式により審査を実施しました。なお、個人や地域中小企業などの方々が本制度にエントリーしやすいよう、「書類審査」の費用はできるだけ安価としました。

2)審査委員による推薦応募
Gマーク制度は永年、応募された商品・施設のみを対象としてきましたが、制度発足当初は審査委員が「デザインの優れた商品」を自ら探すことも行われていました。審査対象をより充実させるために、この良さを復活させたのが「審査委員による推薦応募制度」です。具体的には、1次審査(書類審査)の段階で当然エントリーされていてしかるべきと考えられる商品・施設について、審査委員が推薦者となり、2次審査会への応募を促すという仕組みです。本年はこの方法により、25点が「グッドデザイン賞」を受賞しています。なお、この仕組みを使い、今年は北海道、九州に審査委員が出張し、現地で商品を発掘する活動も行っています。

3)部門構成の見直しとテーマ部門の新設
昨年まで商品13部門、施設1部門という部門構成でしたが、やや部門数が多くしかも重複が見られるなどのご意見がありました。そこで商品部門については、デザインの審査らしく「誰が使用するのか」という視点に立って4つの部門(パーソナル、ファミリー、ワーキング、ソーシャル)にまとめました。また、インタラクション、ユニバーサル、エコロジーのテーマ賞については、通常のグッドデザイン賞とはやや評価尺度が異なるのではないかとの声もあり、よりテーマに即した審査を行うべく「テーマ部門」として独立させました。また、この部門は上記のテーマ賞以外のテーマもエントリーできることとし、新しいテーマを発見していく機能も加えました。なお、具体的な審査に当たっては、部門ごとに審査会を設置し、審査対象数が多い商品部門については、便宜的にいくつかの審査グループに分け審査をすることにしました。

4)金賞審査の公開と「グッドデザイン大賞審査会」の設置
昨年まで「大賞」「金賞」等の特別賞は各部門の代表者によって構成される「総合審査委員会」によって行われていました。本年度は、「金賞」については各部門ごとに公開形式の審査によって決定するとともに、大賞についてはその訴求効果をさらに高めるべく経済界代表等にも加わっていただいた「グッドデザイン大賞審査会」を別途組織し、「表彰式」の直前に公開審査を行い「大賞」を決めることにしました。


●本年度の審査ステップ
以上の改革によって本年は審査ステップは大幅に変わりました。

1)応募
6月7日から18日の期間中に応募を受け付けました。
2)1次審査
7月1日から30日にかけ、各部門(商品部門については審査グループ)ごとに、提出書類に基づく1次審査を行いました。
3)審査委員による推薦
「1次審査」を通じ、当然エントリーされてしかるべき商品の発見やあるいは審査委員が日常使われている商品の中でグッドデザインにふさわしい商品を推薦していただきました。 また、これと平行し北海道(旭川中心)と九州(大川中心)において、現地での商品発掘を行っています。
4)2次審査
1次審査を通過した商品・施設および「審査委員による推薦」によって応募された商品・施設を対象に8月26日、現品による審査を行いました。この結果949点(474社)が「グッドデザイン賞」に選ばれました。なお、工業化住宅、乗用車、コンピュータソフトや施設部門、テーマ部門などでは、随時ヒアリングによる審査や現地審査を行っています。また、審査会場を公開する「内覧会」は8月26日夜と27日の2日間に渡って行い、約4,500人の方にご来場いただきました。
5)金賞審査
本年度から「金賞」の審査は部門ごとに行うこととし、この審査の討論、決定プロセスを公開する審査を8月27日に行いました。また、この討論の中で、大賞の審査対象7点も選んでいます。
6)大賞審査
10月14日表彰式の直前に、経済界の代表等にも参加いただき「グッドデザイン大賞」を審査・決定します。

審査スケジュールの概要は以上ですが、特に本年度は審査運用方針の検討、各部門間の調整等を行うため、審査委員長、副委員長および部門の正副委員長にご参加いただき、「審査委員長会議」を設置しています。


●新たなデザインの動向
以下、本年度の審査結果から見られる特徴について若干附記しておきます。

1)エコロジーデザインの定着
エコロジーデザインが提唱され始めてから、10年以上経ちます。グッドデザイン制度でも平成3年度から「地球にやさしいデザイン賞」を設置し、啓蒙に努めてきましたが、この賞発足当時は素材をエコロジー素材に置き換えたもの、再利用向上を図ったものなど、やや部分的な解決に終始していたように思われます。ところが、今年度の受賞商品を見ると、素材への取り組みが一層進展しているだけでなく、電気自動車等を使い地域の交通システムを統合的に提案したもの、使い切りカメラとそのリサイクル生産システムを同時にデザインしたもの、コピー機の再生商品化をシステム的に実現したものなどが登場しています。このように、エコロジーの問題を部分と全体との関係を的確に捉えつつ総合的に追求しようとするデザイン方法論が確立され、定着しつつあるように見受けられます。

2)新テーマの登場
本年度は、施設部門での討論をもとに4つ目のテーマ賞ともいうべき「アーバンデザイン賞」を設定することができました。これは建築と都市計画の間にある問題、街区、住区に焦点を当てたもので、この分野の開発により人間的なデザイン導入を促進しようという意図のもとに定められたもので、具体的には「フォレステージ高幡鹿島台」、「川越一番街」、「幕張ベイタウン パティオス」が選ばれました。この他、特にテーマ部門の受賞の中には、安全、健康をテーマとしたもの、あるいは、商品の流通や地域プロモーションという視点からデザインを活用したものなどが見られました。これらは、デザインの対象が狭い意味での商品デザインを越え大きく拡大していること、テーマ自体の発見がデザインを進展させる鍵となっていることの現れと考えられます。

3)コラボレーション型開発
一方、受賞商品を見ると、その開発のしかたにも変化が現れつつあるようです。例えば、企業間ユーザーインターフェイス整合活動「CRXプロジェクト」は、コピー機の操作系についてキヤノン、リコー、ゼロックス3社が企業の壁を越えてユーザー本位の基準を作り、それを各社の機器に実現させていくという活動です。再生紙を使った緊急用簡易担架「RESCUE BOARD」(安達紙器工業)やユニバーサルデザインのスプーン&フォーク「TASTE G(グリップタイプ)」(ケアプラス)は、地元大学と地域の企業との連携によるもの、また、住宅用エネルギー入出力表示器「MHZ01」(平野デザイン設計+ミサワホーム)は、デザイン事務所が中核となり機器製造企業と住宅メーカーを結びつけたものなどです。このような事例はまだ限られてはいますが、企業の中に閉ざされがちなデザイン活動に新しい風をもたらすものとして注目されます。


長引く不況の中、ものづくりのデザインはやや停滞ぎみと言われてきました。しかし、今年度の受賞商品・施設の動向を見るとデザインへの取り組みがより総合化されつつ、様々な分野へと拡大していることが理解できます。そうした新しいデザイン活動をも的確に評価し、それをプロデュースしていく仕組みとして、「グッドデザイン賞」の制度をさらに発展させていきたいと思います。

●公益財団法人日本デザイン振興会