1998年度 グッドデザイン賞審査概要

「グッドデザイン選定制度(Gマーク制度)」は、昭和32年に通商産業省によって創設された総合的なデザイン評価制度で、以来41年間にわたり約2万3千点余の「グッドデザイン」を選定、推奨してきました。42回目を迎える本年度から、この活動は公益財団法人日本デザイン振興会主催の「グッドデザイン賞事業」として継承され、新たに出発しています。
以下、本年度の審査経緯を振り返り、要点を報告します。

1.新スタートにあたっての改善
振興会は「グッドデザイン賞」の新しい出発にあたり、この制度を社会的により強固なものへと育てていくために、優れた学識と知見を有する方々にお集まりいただき、「グッドデザイン賞審議委員会」を設置しました。本年度の活動は、より公正でわかりやすいことをモットーに「審議委員会」の助言と了解のもとに運営されています。
また制度のあるべき姿を想定し、1)生活の視点に立った審査、2)情報の積極的な公開、3)日本のものづくりをさらに高度化する課題の提示を3つの柱とする制度の見直しを行いました。


2. 審査会の設置と審査基準の改善
本年度の改善のポイントは、審査委員の構成と審査基準を、生活の視点を重視して改善した点です。
1)審査委員会の構成
昨年度までの審査委員会は、幅広い分野を代表するデザイナーのみによって構成されていました。本年度も14の部門について各々5名の審査委員をお願いしましたが、この人選にあたっては、コーディネーター、エディター、キュレーターなど「つくり手と使い手の間に立って」活動されている方々にも参加いただくこととしました。 また審査会の運営面では、総合委員長、副委員長の人選を「審議委員会」であらかじめ行ない、正副委員長の指導のもとに人選を進めるとともに、テーマ賞の審査を円滑に行うため、「部門別審査会」に加え「テーマ賞審査委員会」を設置しています。なお「大賞」 「金賞」などの特別賞を審査する「総合審査会」には、正副委員長、各部門とテーマ賞の委員会の代表の他、総合審査のみに参加する審査委員に加わっていただきました。
2)新審査基準の採用
本年度から、新しい「審査基準」を採用し、この基準をベースに審査を進めることとしました。新しい「審査基準」は、これまで用いられてきた「選定5項目(外観、機能、性能、安全性、価格)」をベースに、商品・施設を具体的に審査する際に使われたワードを整理し、加えたもので、「デザインの基本」8項目(品格、機能、使い勝手の良さなど)、「デザインの卓越性」12項目(コンセプトの先進性、適切なライフサイクルなど)、「デザインの先導性」8項目(ライフスタイルの創造、地球環境保全への貢献など)、計28項目からなります。具体的な運用にあたっては、「デザインの基本」8項目を全て満足し、さらに「卓越性」「先導性」にあげた20項目の内いずれかの項目で高く評価されたものを「グッドデザイン賞」に選ぶこととしています。

3.応募
本年度の応募受付は、7月1日から7月17 日までの期間に行われ、2,024点(775社)の商品と施設を受付ました。本年度の応募点数は昨年度に比べ500点の減少となっていますが、これは応募にあたって各社が厳選したこと、経済不況を反映し新商品の絶対数が減少していることなどによるものと考えられます。 この応募傾向を見ると、デザインへの新しいニーズが顕在化してきたようにうかがえます。例えば、1)新潟、福井などの地域企業が積極的に参加している、2)大企業の影響下にあった製造業が自社開発商品をもって参加している、3)「点字プレート」「紙パイプを使った組立椅子」など、新しい社会活動を背景とした応募が加わっています。これらは産業活動の新しい担い手が育ちつつあることのあかしとも受けとめられます。

4.審査
審査は、8月3日から9月22日まで約2カ月をかけて行いました。例年通り14の部門に分かれ各々 5 名の審査委員によって行われる部門別審査(応募商品現品による審査)をまず行い、その結果をもとに総合審査を行うという手順で行っています。
1)部門別審査
部門別審査会は8月3日にスタートし、14 部門が揃う部門別審査は8月19日、20日の両日、「東京ビッグサイト」において現品を前に実施されました。また、施設や工業化住宅、乗用車、本年より応募の対象に加えたコンピュータソフトウエアなどについては、プレゼンテーション審査や現地審査なども行っています。 なお特別賞については、「金賞」「中小企業庁長官特別賞」は部門別審査会が、また「テーマ賞」「ロングライフデザイン賞」については「テーマ賞審査委員会」が各々担当し、候補を絞りました。
2)総合審査
9月22日、「東京ファッションタウン」で総合審査会が開催されました。ここでは、各部門とテーマ賞の委員会での審査結果をもとに、「グッドデザイン賞」717点(373社)と大賞1点、金賞14点、テーマ賞計6点、中小企業庁長官特別賞14点、ロングライフデザイン賞40点を選出しました。なお、総合審査会は本年度から応募企業、報道機関などに公開して行われました。
3)発表
総合審査会での審査結果に基づき、「グッドデザイン賞」は「グッドデザイン賞審議委員会」の、また特別賞については通商産業省の承認を得て、本年度の各賞が正式に決定しました。これら受賞商品・施設については、10月30日に行われる「表彰式」の中で発表されます。

5.審査に見る課題
最後に、本年度の「グッドデザイン賞」審査を振り返り、審査会の中で様々に話し合われたデザイン課題を若干紹介しておきます。
1)国際的にマーケットをリードしうる商品を
グッドデザインの審査は、その時代時代の生活者ニーズや市場、産業の動向を大きく反映します。本年度は「家庭用メディア」「医療・福祉」などの部門で充実した商品が多数見られた反面、「スポーツ・レジャー」「インテリア」など90年代以後市場の国際化 が一層進んだ分野では、国内メーカーからの応募自体が低調であったばかりではなく、日本のデザインの力が発揮されていないように見受けられました。この傾向は自動車の分野にも現れており、輸入車の受賞は、国産車のそれを大きく上回っています。 生活者にとっては、デザインの優れた商品が身近に入手できればよいわけですが、日本の企業、デザインにとっては、やや問題とすべき点のように思われます。
2)生活に密着したリアリティのある商品を
本年度の審査は、生活者の視点を重視し、身近な商品のデザインを見直そうという傾向が強く現れています。もともと「グッドデザイン賞」の審査は、「豊かな生活を導くデザイン」を選んできましたが、特に本年度は例えば大賞となった「自転車」を始め、金賞の「オーブンレンジ」や「銀行のATM」のように、生活に密着した商品を新しい視点から作り上げたものに高い評価が与えられました。 生活の中からもののあるべき姿(コンセプト)を探し出し、使い勝手の良い魅力的な商品へとまとめていくことはデザインの基本といえますが、今こそデザインイニシアティブな開発を実践すべきとの審査委員の姿勢が現れています。またこれは生活者の声と言っても良いかと思います。

以上、本年度の「グッドデザイン賞」審査の概要を報告しました。審査は発表をもって終わりますが、この結果を生活者へ情報として届けていく活動、また次の開発へとつなげていく仕事が残っています。 本年度からの新たな試みとして、前者については、受賞商品に「Gマーク」を使用するにあたって、どの点が高く評価されたかを記載していただくようお願いしています。また後者については、前述の審査会の公開化とともに、受賞商品については特に評価できる点を、また必要であれば、受賞にいたらなかったものについても審査内容を報告することとしました。 こうした情報を提供する活動をより一層強化し、「グッドデザイン賞」を結節点として、生産者と生活者をデザインを通し結ぶ回路を築いていくことが、「変革成長期に入ったGマーク」の課題と考えています。

●公益財団法人日本デザイン振興会