審査概評


昨年、Gマーク制度が40年を迎え、その軌跡を記録する意味と、制度化されて以来、 時代とともに我国産業を取り巻く環境の変化に対応し、斬次運営上の軌道修正がなさ れながら今日に至った「グッド・デザイン」に表象され、内面化された諸々の問題点 も含め、Gマークの変遷を一望し、デザインを通じて、我々の社会、生活を考察する 機会として「時代を創ったグッド・デザイン展」が開催され話題になった。
一方これを契機に、デザイン団体、専門誌上等でもGマークに関するさまざまな思い や意見が交換された。これも40年間一貫して選定が実施され、時代の変化に対応しな がら、たゆまず改善を続けてきたこの制度に、何らかの形で係って来た証しでもあろ う。選定されるべく努力した様々な企業、それに携わってきたデザイナー達の熱き思 いが悲喜怒こもごもに伝わってくる。Gマーク制度は昨今の産業を取り巻く環境が国 際レベルで変革していく時、将来に向かって我国の役割を認識するとともに、一方で 、まだまだ産業の根幹を成す中小企業が元気を取り戻し、独自の佳品を多く世に送り 出すことも期待したい。また時代の要請として、施設部門のGマークへの取り込みの ごとく、産業振興のみに偏重しすぎた「デザイン」がより社会、文化的な振興へと枠 組を拡大しながら大きなうねりの中を進もうとしている。

1.本年度の動向と選定結果
本年度のGマーク応募点数は、2,524点(894社)となり、そのうち選定点数は842点と 、遇定率33.4%の結果を得た。応募点数は1986年をピークに減少傾向にあり、ここ数 年は横這い状況を続けていたが、今年度は久々に昨年より91点の増加となった。それ に加え応募社数が96社増え、894社という過去最高の数字を示していることからも、G マークへの関心が更に高まりを見せていることと同時に、景気回復の兆しが垣間見え てきたとも言えるのではないだろうか。
社数の増加について顕著に感じられることは、特にどの部門がというより全体的に見 て、生産財、住宅部材、部品等のメーカーが目立って来ているように見受けられるこ とである。これらのメーカーは主に下請け的な開発から、近年自主開発、そして製品 化を始めたメーカーで、しかも外部のデザイナーとの共同開発が目立つようだ。これ は歓迎すべき事と言えるのではないだろうか。また施設部門が設けられて4年目であ るが、応募数の面からも質の面からも部門として定着してきたようだ。

2.本年度の改善点
Gマーク制度は、その時代に則した運用を行ってきているが、特に今年度はテーマ賞 についての改善が図られた。
そもそもテーマ賞は、近年の生活の質的向上に対するニーズの増大、あるいは情報化 社会の到来などの社会変化を受け、商品のデザインは単にその造形的要素のみならず 、モノとモノとの関係牲(システム性)、人とモノとの関係(マン・マシンインター フェイス)、モノの環境(公共空間から地球環境まで)ヘの影響など、商品単体や施 設の外観上からは見えない部分にまで踏み込んだデザインが求められて来ていること から考えられたものである。テーマ賞はこれまでに福祉賞、インターフェイス賞、景 観賞、地球にやさしいデザイン賞、ユーザーインストラクション賞と随時創設されて きた経緯がある。しかし、これらの賞は、賞の持つ名前から限定された部門の商品イ メージを受けるため、全部門を横断的に見てその中から選出するという運用に困難さ をきたす。同時に、随時創設されてきたことによる未整理感、なおかつ各賞の意味す る定義が、今日求められているデザインの新たなる課題に馴染みにくくなってきた。 そこで以上の背景から、モノを通して人を取り巻く環境にデザインが取り組むべき課 題としてあげられるのは、人と人(人間が共に生きていく)、人とモノ(人間と技術 との摩擦の解消〉、人と環境(人間と環境との調和保全〉といった関係で捉え直し整 理することで、ユニバーサル・デザイン、インタラクション・デザイン、エコロジー ・デザインが起案され、これらが今回のテーマ賞名となった。この3つのテーマ賞の 商品や施設が世に出ることにより、デザインが21世紀に向っての新たな課題、果たす べき役割を再提示するものとなり、Gマークの広がり及びデザインの進化を期待出来 る手がかりとなるのではないか。
その他、従来の「C.日用品部門」を「C.日用品・衣料品部門」と名称を変更すること で、作業着やユニフォーム関連の商品を取り込んだ。結果として10社22点の新規の応 募があり、今後の更なる応募を期待したい。また外国商品については、従来国内代理 店を経由して応募されていたが、代理店を持たない外国企業からの直接応募も可能と なり、12社16点の直接応募があった。今後インターネット上での応募も期待できるの ではないか。

3.総合審査と大賞選出
総合審査会では14部門から27点の金賞候補、テーマ賞検討委員からユニバーサル・デ ザイン賞に4点、インタラクション・デザイン賞に5点、エコロジー・デザイン賞に3 点の各テーマ賞候補が椎薦され、外国商品賞、中小企業庁長官特別賞とともに部門別 審査において充分討議された推薦理由等が改めて発表された。
当該候補を前に、順次選定を決めていく過程で、デザイン哲学上の深遠なる差異で意 見が錯綜したり、各部門における今日的課題を再認識したり、審査委員の価値観に基 づく位相が表出しながらも、Gマークの趣旨に沿った共通項を見い出しながら、予定 された進行時間など吹きとんだ状況で進行した。
その結果、金賞は16点、テーマ賞はユニバーサル・デザイン賞が4点、インタラクシ ョン・デザイン賞が5点、そしてエコロジー・デザイン賞は1点の授賞となった。特に エコロジー・デザイン賞に該当する商品が少なく、これからの主要なテーマでもあり 、今後の展開を期待したい。
今一つ気になることは教育用品部門の低迷である。学校等の空間のみならず、企業や 家庭における日常的学習活動も対象になっているのだが、あたかも昨今気になる教育 そのものの荒廃を反映しているようで心寂しい。もっとデザインの創造牲が発揮され 、社会的な新しい価値や質を伴った教育用品の多数の応募を待望したい。他に「D部 門」「E部門」の生活関連商品も、今回は一般市場で見かける他の多くの商品と比較 して見劣りするものが多く、Gマークとして今後どのように改善していくか課題の残 る部門であった。
大賞選出は、金賞とテーマ各賞の中から、まず各委員が3点を投票する形式で候補を 絞り、討議を加えて更に投票を行い、最終的にアップルコンピユータ(株)の「twen tieth anniversary Macintosh」、AUDI社の「アウディA6」、金沢市の施設「金沢市 民民芸村」、(株)INAXの「舖装用材」の4点に絞られ、投票の末、過半数の得票で 、「金沢市民芸術村」が大賞に選ばれた。
近年の公共文化施設の量的整備には著しいものがあるが、単なる「うつわ」に陥って いるものがあまりにも多い中、この「金沢市民芸術村」は、地方都市金沢の伝統や高 い文化度を背景に、未来に向って芸術、文化を育くもうとする行政の見識と、市民の 自主牲により想起され管理・運営される文化創造の複合拠点として、地域に根ざし再 開発された施設である。紡績工場跡の倉庫を利用した建物はレンガの庫壁と木軸菊音 の美しい骨組を生かし、諸設備や機能を巧みに整合させている。しかし何よりも市民 に開かれ、自主運営をしながら施設が成長していく仕組みづくり(ソフト〉の社会的 価値が実に大きな発信をしていることが大賞に相応しいものとして高く評価された。 最後に、「デザイン」は増々、既存の枠組を拡大しながら、新たなる課題を想起して いるが、今年度より改善されたテーマ3賞に関し、総合審査会ではこれらの定義に関 して概念上のコンセンサスを得るべく活発な識論が交された。Gマーク制度として、 これらのテーマは必須の指標であり、早急に産業界を含めた概念構築のためのフォー ラムのような場を設け、その定義を明らかにし深めていくべきだというのが、審査委 員の一致した意見であった。また一方で、この制度が巨大化し、総花化することで評 価が困難なものになる危惧感もあり、Gマークの果たすべき役割を慎重に考えていく 必要があるだろう。

●総合審査委員長 川上元美